hrstrategist’s blog

組織人事ストラテジストのつぶやき、業務連絡など。。

同一労働同一賃金 コストコ社の事例

 こんにちは、組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。

 だいぶ遅くなってしまいましたが、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。

 近頃Blogの更新がだいぶ滞っておりますが、理由としては業務多忙/サボリ/ネタが無い等々の複合要因ではありつつも、そんな言い訳をせずに頑張りますというコメントを、新年の抱負とさせて頂ければと思います。。

 さて、安倍首相の「私的諮問機関」である、「働き方改革実現会議」において、12月20日に発表された、「同一労働同一賃金ガイドライン案」について前回、前々回のエントリでコメントしました。

hrstrategist.hatenablog.com

 

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 エントリで解説した「ガイドライン案」の趣旨を要約すると、概ね以下のようになるでしょう。

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・そもそも何をもって「同一労働同一賃金」とするか、定義は難しいよね。
・「定義」や「あるべき姿」の議論から始めるとやたら時間が掛かるし、皆が納得する結論が出るとも思えないので、まずは個々の企業で「出来ること」から手を付けましょう。
・この「ガイドライン案」では「正規」と「非正規」間の不合理な待遇差の解消を持って「同一労働同一賃金」としましょう。
・法的拘束力はないので、現時点ではあくまで「努力目標」だけど、将来的にはこの方向で法改正される可能性が高いですよ。
・基本給に関しては、現状の仕組み(年功序列など)を温存して構いません。
・手当や福利厚生は、(差をつける合理性を説明できなければ)原則差を付けてはいけません
・賞与は「非正規」にも「同一の支給」をしなさい。※ココが一番重要

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 前回も触れましたが、このガイドライン案で最も注目すべきは、「非正規雇用者にも賞与を払いなさい」と明示された点です。現状、非正規雇用者に賞与を払っている企業は少数派でしょうから、この「ガイドライン案」発表を受けて、各企業がどのような対応を取るのかは注目したい所です。

 という訳で、エントリを2回に分けて「同一労働同一賃金ガイドライン案」の中身について解説をしてきましたが、残念ながら、この内容は真剣に「正規」「非正規」の待遇格差をできるだけ縮めていきたいと考えている、誠実な企業にとってはあまり参考になりません(まあ、多くの既得権益型日本企業に対する現状追認が(少なくとも部分的には)このガイドラインを出す目的なので、期待をし過ぎてもいけませんが)。

 そこで、「あるべき姿」から考えて真剣に取り組まれている会社の事例を紹介いたします。「高品質な優良ブランド商品をできる限りの低価格にて提供する会員制倉庫型店」を全国展開しているコストコホールセールジャパン株式会社(以下、コストコ)です。

www.costco.co.jp

 ご存知の方も多いと思いますが、コストコは1976年にアメリカで創業し、1999年に日本に進出して現在全国に20数店舗を展開しています。私はよく川崎の店に行きますが、non-Japaneseらしき店員さんが多く、みな楽しそうに働いていて、個人的に好感を持っております(ちなみに、お店の”ニオイ”がアメリカっぽいんですよね。)。それにはどうやら理由がありそうです。コストコの人事戦略は、「同一労働同一賃金」という観点で見ると非常に興味深いのです。以下の記事は大変参考になります。

となりの人事部インタビュー コストコ ホールセール ジャパン株式会社
人事・総務 マーケティング 部長 中川 裕子さん

jinjibu.jp

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以下、記事の引用と私のコメントです。

非管理職は「正社員(週40時間勤務)」のほか、「パートタイム(週20~30時間勤務)」「アルバイト(週20時間未満勤務)」からなり、「時給制」で働いています。」

⇒正社員も時給制なんですね。

「欧米で「パートタイム」と言えば、通常の労働者よりも労働時間の短い人のことです。日本のように、必ずしも非正規労働者を指すわけではありません。コストコでは正社員とパートタイムで同じ「時給表」を用いていて、労働時間の長短では区別していません。賃金面では、同等の「時間比例」を保証しているのです。「時給制」は労務管理の面で優れているので、サービス残業などの問題も起こることはありません。」
⇒時給単価では正社員でもパートでも差を付けないということです。

「パートタイムやアルバイトの場合、日本では有期雇用が一般的ですが、コストコでは基本的に無期雇用で採用します。いったん採用したら、いつまで勤務するという期間を定めた契約は行いません。」
⇒「正規」と「非正規」の差が「有期雇用化か否か」だとすると、コストコのパートやアルバイトの人達は「正規雇用」であると言えそうです。

正規雇用の定義については、以前本Blogでも取り上げました。

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hrstrategist.hatenablog.com

「正社員≒正規雇用労働者を定義する条件として「フルタイムか否か」を挙げる場合があっても、実はその区分は適切ではないという事です。」

「正規・非正規、正社員・非正社員を分ける大きな区分は「雇用期間の定めの有無」に尽きますね。」
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非管理職の正社員とパートタイム・アルバイトは時給ベースでは同じですが、拘束時間や責任の持たせ方、職務の内容が異なります。そのため、賞与や福利厚生面などで待遇に差を持たせています。よく誤解されるのですが、このようにコストコは、決して「同一労働同一賃金」ではないのです。」
⇒ここ重要です。時給は同じでも、責任や職務が違うからその分は賞与や福利厚生で差を付けている。「ガイドライン案」とは違うアプローチなのですが、私にはコストコのやり方の方がよほど合理的だと思えます。

「いま日本で問題となっているのは、週40時間働かせているパートタイムがいることだと思います。(略)パートタイムの方たちだけで実質的に管理を行い、正社員と変わらない仕事をしているのです。それにもかかわらず、有期雇用のために賃金形態や福利厚生が異なり、雇用が保障されていない。それは明らかに不公平です。しかしコストコでは、パートタイムは正社員と比べて労働時間が4分の3程度までの勤務と決まっています。無期雇用で社会保険に加入するなど、この問題のケースとは異なります。」
⇒実質的に正社員と同様に働いているにも関わらず、「パートだから」という「身分」で差別するのはおかしいということですね。正論です。

コストコでは将来のキャリアに関して、入り口がどのような雇用形態であるかを問わないのです。「社内公募制度」を使って、どんどん上に行けるチャンスがありますから、採用の段階では「パートタイムで入社したからといって、そのまま終わることはありません。あなたのやる気次第で、いくらでもチャンスがありますよ」と必ず伝えています。」
「管理職から正社員に戻ることも可能です。介護や育児など、家族やライフステージ上の問題から、「管理職の立場にあるが、その責務を全うできないので一時期、正社員に戻して欲しい」などと、自らステップダウンを申し出る人もいるからです。その後で管理職に戻ることも可能で」
⇒入社の経緯に関わらず意欲と実績次第で登用されるチャンスがある訳です。一方で、ライフステージに合わせて一旦ステップダウンすることも可能なのですね。結果として離職率は業界の中でも非常に低いそうです。

コストコが考えているのは、常に管理職を目指して頑張って働いてほしいという、一人ひとりの成長です。仮に今は同じ時給でも、パフォーマンスが違うのであれば、パフォーマンスの高い人が管理職に登用される確率は高く、より早くプロモートされます。逆に言うと、時給に見合う仕事をしていない人は、勤務時間数で昇給しても最終的には“頭打ち”になります。長い目で見れば、このような差が生じてくるわけで、キャリア形成の可能性が大きく違ってくるのです。」
⇒読めば読むほどよく考えられた仕組みです。

 いかがでしょうか、非常に合理的な問題解決策の参考事例でした。やろうと思えば日本の現行の労働法規の元でもできることは十分にあるということですね。

 業態等による違いもあるので全く同じやり方が出来るかどうかは各社の経営環境によっても異なるだろうという点は当然です。一方で「「正規」と「非正規」間の不合理な待遇差」を漫然と放置したり、開き直る会社に対する世間の目はこれからどんどん厳しくなることも予想されます。良識ある経営者の皆さまに置かれましては、本件は軽く考えることなく、自社の現状を点検の上、問題があれば(弥縫策でなく)本質的・合理的な解決策、改善策を速やかかつ着実に実行されることを期待しております。

では、Have a nice day! (久しぶり!)

働き方改革実現会議 「同一労働同一賃金ガイドライン案」 について(2)

 こんにちは、組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。

 安倍首相の「私的諮問機関」である、「働き方改革実現会議」において、12月20日に発表された、「同一労働同一賃金ガイドライン案」についてのコメントの続きです。

※前回のエントリ

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同一労働同一賃金の実現に向けた検討会 中間報告

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/hatarakikata/dai5/siryou2_2.pdf

同一労働同一賃金ガイドライン

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/hatarakikata/dai5/siryou3.pdf


 具体的な「ガイドライン案」の中身について見てみましょう。

■「ガイドライン案」の位置づけ
 「中間報告」では、「ガイドライン案」の位置づけについて、以下の言及があります。

「現状ではガイドライン「案」の法的位置づけは不明確であることから、ガイドライン「案」は現時点では効力を発生させるものではない旨をきちんと周知すべきである。」

 要は、この「ガイドライン案」自体には法的拘束力はないということです。ここで書かれている「問題となる例」にもし自社が該当していたとしても(少なくとも現時点では)処罰されたりすることはないという事です。あくまで努力目標ですね。

 とはいえ、政府の機関が出している"ガイドライン"であり、今後はこの方向性に沿って(罰則も含めて)法整備が進んでいくことが予想されますので、全く無視する訳にも行きません。議論の進捗を見極めつつ、国が求める方向性に沿った形で、自社の(特に非正規労働者の)報酬評価制度の修正、人件費原資の確保・配分等を検討し、早めに手を打っていくことが求められます。

■「問題となる例」をみておけばいい
 「ガイドライン案」では、有期雇用労働者及びパートタイム労働者について、無期雇用フルタイム労働者との基本給、手当、福利厚生等の差異について、いくつもの「問題とならない例」「問題となる例」を例示しています。

 各企業において、このガイドラインを参考にするのは、「現状の自社の制度に問題となる所が無いかチェックする」目的か、または「今後の制度改定の参考にする」目的のいずれかです。

■基本給は原則「現状維持」でOK
 「ガイドライン案」では、基本給に関しては、そもそもその決定要素が企業により様々である(「ガイドライン案」では、「職業経験・能力」「業績・成果」「勤続年数」「勤続による職業能力の向上による昇給」と分類しています)点を否定していません。これは、「同一労働であっても(相応の理由があれば同一賃金でなくて良い(本来的な意味での「同一労働同一賃金」の否定)」ということを意味します。基本的には、「ここに手をつけるとややこしくなるから現状維持にしておけ」というニュアンスです。

 ですから、前回のエントリでも紹介した、以下のような言い訳がましい定義をあえてする必要があるのです。

同一労働同一賃金は、いわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)の間の不合理な待遇差の解消を目指すものである。」(1ページ)

■手当・福利厚生は一律基準
 一方で、手当の扱いについては、「役職手当」「時間外労働手当」「通勤手当・出張旅費」「地域手当」等の手当について、また、福利厚生については「福利厚生施設」「社宅」「休日・休暇・休職」等について言及されています。

「比較的決まり方が明確であり、職務内容や人材活用の仕組みとは直接関連しない手当に関しては、比較的早期の見直しが有効かつ可能と考えられる。」(4ページ)

 と、「中間報告」にもあるように、これらについては「正規」と「非正規」で差をつける合理的な理由が無い限りは、「同一に(雇用形態を理由にして差を付けずに)提供すべし」という原則となります。

 これに関しては、実際には処遇に差をつけている会社も少なくないのではないかと思われます。直ちに是正しないと罰則がある訳ではないのですが、方向性としては、世間が求めている方向性はそちらであると認識し、非合理的な(従業員に理由をきちんと説明できないような)格差は(可能な限り)早急に是正しておくことをお勧めします。

■賞与には踏み込んだ
 新聞記事などでもこの点は強調されていますが、「ガイドライン案」では、賞与に関しては結構踏み込んでいます。以下のように、原則「正規」社員と同様・同一に、「非正規」従業員に賞与を支払うべきとしています。一方で現状では多くの企業では「非正規」従業員は賞与支給の対象となっていませんから、もしこれを実現しようとすると、その分は人件費の純増となってしまいます。現時点ではあくまで努力目標ですから、必ずしもこれに従う必要はありませんが、近い将来にこれが義務化される可能性もありますので、今後どうなるかはしっかり注視していく必要がありそうです。

「賞与について、会社の業績等への貢献に応じて支給しようとする場合、無期雇用フルタイム労働者と同一の貢献である有期雇用労働者又はパートタイム労働者には、貢献に応じた部分につき、同一の支給をしなければならない。」

「<問題となる例①>
・賞与について、会社の業績等への貢献に応じた支給をしているC社において、無
期雇用フルタイム労働者であるXと同一の会社業績への貢献がある有期雇用労働
者であるYに対して、Xと同一の支給をしていない。」

「<問題となる例②>
・賞与について、D社においては、無期雇用フルタイム労働者には職務内容や貢献
等にかかわらず全員に支給しているが、有期雇用労働者又はパートタイム労働者
には支給していない。」
ガイドライン案6ページ)

※このエントリ、まだまだ続きます。

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働き方改革実現会議 「同一労働同一賃金ガイドライン案」 について(1)

 こんにちは、組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。大変ご無沙汰しております。なかなかBlogに書きたいネタと執筆に踏み切る気力が不足し、更新が間隔が空いてしまいましたが、ようやく大物ネタが(笑)。

 安倍首相の「私的諮問機関」である、「働き方改革実現会議」において、12月20日に「同一労働同一賃金ガイドライン案」というものが発表されました。

働き方改革実現会議 - Wikipedia

www.nikkei.com

 この「ガイドライン案」、21日の日経新聞朝刊などでも1面で報道されていますが、一次資料はこちらになります。双方とも10数ページの分量なので、興味のある方は一度目を通されることをおススメします。

 第5回 働き方改革実現会議

働き方改革実現会議 議事次第

 同一労働同一賃金の実現に向けた検討会 中間報告

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/hatarakikata/dai5/siryou2_2.pdf

同一労働同一賃金ガイドライン

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/hatarakikata/dai5/siryou3.pdf

 上記の報告書を読んで気付いた点をいくつか取り上げ、いくつかコメントしたいと思います。

■そもそも「同一労働同一賃金」とは何を指すのか

 Wikipediaによれば、同一労働同一賃金とは、以下について指すそうです。

「同一の仕事(職種)に従事する労働者は皆、同一水準の賃金が支払われるべきだという概念。性別、雇用形態(フルタイム、パートタイム、派遣社員など)、人種、宗教、国籍などに関係なく、労働の種類と量に基づいて賃金を支払う賃金政策のこと。」

同一労働同一賃金 - Wikipedia

 概念としては理解できますが、具体的にこれを適用しようとすると、「同一の仕事(職種)」「同一水準の賃金」とは何か?を厳密に定義していく必要があります。ところが、実際にはなかなか簡単ではありません。上記「中間報告」ではこれについて、

「実は、どこまでが「同一の労働」とみなすべきなのか、何が揃えるべき「賃金」なのかと考えていくと、この同一労働同一賃金の考え方あるいは原則を、厳密に定義することはなかなか難しい。」(1ページ)

 としています。私と同じ考えですね(笑)。

 「中間報告」では、以下のようにも書いています。そもそもの問題は「正規」と「非正規」の処遇格差である、ということですね。

「正規・非正規間の待遇格差が大きいことが、大きな問題であることは、検討会のメンバーとして共有する問題意識である。」

「不合理な格差を是正し、非正規社員の待遇を改善させることが強く求められる。」(いずれも1ページ)

 一方で、「ガイドライン案」には以下の表記があります。

同一労働同一賃金は、いわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)の間の不合理な待遇差の解消を目指すものである。」(1ページ)

 なにやら日本語として意味が通っていない(苦笑)のですが、どうやら言いたいことは、「正規」と「非正規」の格差の解消が解消された状態を「同一労働同一賃金」というフレーズで表現しようということなのでしょう。政府の中の誰かが思いついて、検討会のメンバーが仕方なく付き合わされているニュアンスが「中間報告」や「ガイドライン案」の文章から滲み出ているように感じます。。

■Top Downか、Bottom upか
 「同一労働同一賃金」≒「正規雇用労働者と非正規雇用労働者の処遇格差解消」をどう進めていくのかについても「中間報告」では言及しています。

「日本でも長期的にみれば、企業横断的・雇用形態横断的に賃金が決定される、あるいは比較検討ができるようなシステムに移行していくことが、同一労働同一賃金を結果として実現させるための一つの方向性という考え方もできるだろう。その考え方に沿って整理するならば、労働市場改革を進めていく必要性も大きいといえる。」

「しかし、それを実現させていくためには、段階的に進めていく必要があるし、また長期的な方向性の在り方については、より慎重な検討も必要であろう。ただし、検討が必要と言って、何もせずに放置しておく期間が長くなること自体も問題である。」(いずれも2ページ)
 
 つまり、「同一労働同一賃金とはこうあるべきである」という方針を示し、それに向けていろいろと改革すべき、というTop Downのアプローチは実行に時間が掛かるし、そもそも国民の中で労働市場改革によって目指すべき「あるべき姿」のコンセンサスが現時点で全く取れていないという現状を鑑みると、それよりもBottom upのアプローチで「手を付けやすい所、できる所から変えていこう」「そのためのガイドラインを示そう」というのが今回のアプローチである、ということなのでしょう。

「(1) 正規社員・非正規社員両方に対し、賃金決定のルールや基準を明確にし、
(2) 職務や能力等と、賃金を含めた待遇水準の関係性が明らかになり、待遇改善が可能になるようにすること。
(3) そして、教育訓練機会を含めた「能力開発機会」の均等・均衡を促進することで一人ひとりの生産性向上を図ること。
これらの柱が、日本が同一労働同一賃金に踏み込み、非正規社員の待遇改善を実現させるためのポイントであり、ガイドラインはそのための重要な手段であり第一歩として位置付けられる。」(中間報告2,3ページ)

※このエントリ、まだ続きます。

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WELQ問題と、感じる既視感(組織の「あるある」)

 こんにちは、組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。今日の東京地方は真冬に近い寒さですね。電車に乗っていても咳をしている人も目立ち始めていますので、体調管理には気を付けたいものですね。

 さて、ネット界隈で盛り上がっている、DeNAが運営する「ヘルスケア情報を扱うキュレーションプラットフォーム」である(らしい)「WELQ」の問題です。

blogos.com

www.buzzfeed.com

 各所からの批判を受け、DeNAは11月29日に「全ての記事を非公開」という処置を行ったようです。

 問題とされているのは、このサイトに掲載されている記事の多くが不正確で問題のある「医療デマ」であり、かつ他のサイトから内容をパクりつつ文章をリライトしている(らしい)ことのようです。

toyokeizai.net

togetter.com

note.mu

 私はこの件については専門家ではありませんので、「何がどう問題か」については上記の記事等をご覧いただければと思いますが、私が興味を持ったのは、「なぜ、こんな公序良俗に反する(と思われる)ことを、これまでDeNAは堂々とやっていたか」です。

 実際にDeNA社員に直接ヒヤリングをした訳ではないので、以下はあくまで憶測に過ぎませんが、「だいたいこんなことが起きていたんだろうな」と私自身の過去(に所属したいくつかの組織で)の経験上、既視感があり、ある程度想像ができますので、妄想をしてみることにしました。

■経営トップは無関心だった(のでは?)
 概ねこの手の問題が起きる場合、いわゆる「企業ぐるみ」で故意に悪質なことを行っているケースは意外と多くありません。おそらく経営トップ(社長や創業者の方ですね)は、この事業に関して熱意・関心は高くなかったのではないかと推測します。もし日頃から関心を持って記事の内容を見ていたら、「こんなのを流していたらマズい」、かつ、「自社のブランドに悪影響を与えるのでは」という認識は働くはずです。ところが、外部に指摘されるまで自浄作用は働かず、対応も後手に回っていることから察するに、トップは事業の収益やKPI等の「数値」だけをチェックしており、サービスの中身には全く関知していないし興味も無いのでしょう。日頃からサービスを見ておらず、状況を理解していなかったが故に、問題が拡散し「炎上」するまで危機感を持てず、適切な対応の指示を出せなかったのだろうと思われます。

■他部署の社員は冷ややかに見ていた(のでは?)
 恐らく多くの社員はこの問題を以前より認識しており、「まずいよな」と思っていたはずです。一方で、彼ら彼女らには他部署がやっているサービスに口を出す権限はありませんし、そもそも自分の仕事で忙しいので、わざわざそのようなお節介なことをするインセンティブもありません。社員数十名の会社ならともかく、もはや社員数数千名の大企業ですから、いち担当者が声を上げたところで事態が変わるとも思えませんですし。

■担当部署の社員も、嫌々やっていた(のでは?)
 彼ら彼女らも所詮はサラリーマンです。上司に指示命令されればそれに逆らうことはなかなかできません。特に新卒入社の若手社員にとってはなおさらです。まだ自分の価値観を確立していない若い人達にとっては、経験豊富で、かつ人事権を持つ上司に対して、「それはおかしいでしょう」「やりたくありません」と主張することがいかに難しいかは想像に難くありません。
(先日の電通過労自殺の件も、「逆らえない」という意味では、似たような状況だったのでしょう)

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■ではだれが悪いのか?
 確信犯的に意図して、この方向性を指示しているのはごく限られた人でしょう。具体的には事業の損益に責任を持つ事業責任者(と数名の取り巻き)です。その目的は、自身の手柄を誇り、経営者により高く評価をしてもらう(結果として高いRewardを得る)ことです。「自分の都合」を優先する人がリーダーの座に付いて大きな権限を握ってしまうと、このような事態は起こってしまいがちという典型的事例であると見受けられます。 
(あと、「いったい法務は何をやっているんだ」という話もありますが)

■これからどうなる?
 先日のPCデポの事件の際に、事件発生後の会社の自浄作用に関して、以下のようなコメントを書きました。同じことがDeNAにも当てはまるのではないでしょうか。

「その「実績」を基に社内で出世し、大きな権限を持つようになっているでしょう。たとえ、会社が過去の行いを懺悔し、悔い改めると宣言したとしても、経営陣が積極的にその人たちを要職から外すことは期待できません(これまでの業績を築いた手法を否定するという事は、今の経営陣の存在価値を自己否定することになりかねません)。

 結局、経営陣も含めて皆、「同じ穴のムジナ」だからです。会社が「方針を転換する」と謳ったところで、従来のやり方でのし上がった人達がいままで通り自分の上司として残るのであれば、従業員はその人たちのいう事を無条件に信じることができるでしょうか。」

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 DeNAに関しては、数年前にも「コンプガチャ」が社会問題になったこともありました。この手の問題が繰り返されるという事は、そもそも企業の組織文化、姿勢に問題があるのではないかと疑われても仕方がありません。もしそうでないのなら、このような事件の再発を防止する抜本的な対策を打ち出し、トップのコミットの元、(評価・報酬の仕組みの見直しも含めた)組織文化の改革をトップダウンで推し進めていかなければならないでしょう。

 「多くの人に、長期的に、ウソをつき続けることはできない」と仰っていたのは、確かライフネット生命会長の出口治朗さんだったと思います。「医療情報」という、社会的に影響の大きい問題でもあり、企業の姿勢が問われています。

 

※追記

本件に関し、DeNA守安社長のインタビュー記事が出ました。私の妄想、ほぼ全部当たっていたようですね。。(12/1)

jp.techcrunch.com

 

記事掲載:「企業の成長の鍵を握る"戦略人事"という考え方。」 Business Nomad Journal

 こんにちは、組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。今年の東京地方は10月の初めまでは暑い夏の延長で、そこから本当に短い秋が通り過ぎて、ひと月強で既に冬の気配を感じる寒さに突入してしまいましたね。今日あたりは天気も良くて小春日和という感じですが、そういう時に限って1日中自宅に籠って作業をしております。。

 Blogの更新も滞りがちですが、本日は記事掲載のお知らせとなります。

 以前に連載を持たせて頂いていた、Business Nomad Journal様より取材いただき、記事にして頂きました。恥ずかしながら独立起業に至るまで私が辿ったキャリアと、組織人事ストラテジストの視点から「企業の成長を阻害する要因」について話をしております。

「(MBAを取った理由は)経営者から見ると、私がいくら良いことを言っても、一担当者が思いついた意見としか取ってもらえない。そこに説得力を持たせていくには、体系立てた知識が必要だし、経営の勉強ももっとしなければならないと考えたのです。」

「(組織人事ストラテジストの役割は)経営理念・経営戦略を達成するために、どんな組織が必要であり、どんな人材が何人いるのか、そういったことを経営者・人事責任者と一緒に考えていくのです。」

「会社が成長するには、どんな組織が必要かを考える。いまある組織や人事の課題に優先順位を付けて、どのように取り組んでいくかを提案する。それがわたしの仕事です。」

「社員数が増え、間に中間管理職である「マネージャー」がはさまるようになると、途端にそれができなくなります。社長の考えや想いが社員に届かなくなる。これが第一の成長痛です。」

「社長は本気で理念を実現しようと信じているのか、そして、今自分たちがやっている仕事は、本当にその理念の実現のためのものなのか。「理念」と「今の自分の仕事」を繋ぐ「ストーリー」を社員は求めているのです。」

「数百人規模になったら、事業部制の採用などで適正規模の組織の多重構造を作るのです。」

「確たる戦略もなく、社長自身の思い付きでコロコロと違うことをやっていると、サイレントマジョリティである残りの社員は白けてしまいます。」

「(人事評価は)大くくりでの「貢献度」を考えるんです。これは「いなくなったら困る度」と言いかえてもいい。その人がいなくなったら、どれくらい困ったことになるのかで考えてみる。」

「組織や人事の課題は、問題が表面化してからの対応では莫大な手間と費用が掛かる場合があり、未然に問題の芽を摘み、防ぐことが大事です。」

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