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すき家(ゼンショー)の調査報告書を読んで感じたこと(2)

 前回の続きです。

すき家(ゼンショー)の調査報告書を読んで感じたこと(1) - hrstrategist’s blog

「簡潔に」とか言いながら、書いているとどんどん長くなります。。

 前回のエントリーでは、この件の真の問題・原因として以下を挙げました。

1.店舗の労働環境に改善すべき深刻な状況(具体的には極端な長時間労働)があった
2.その状況は数多くの法令違反を犯していた(当局から再三の勧告もされていた)
3.経営陣・人事は状況を把握していたにも関わらず、積極的な事態の改善がなされなかった

 今回のエントリーでは、特に3について掘り下げようと思います。

 報告書では、24ページから31ページにかけて、「4.ZHD社・Z社本部による労働実態の把握・共有状況」という項目を設けています。そこでは、社内の各所(以下)において問題をどの程度認識し、それに対し何らかのアクションなされたかの調査結果が報告されています。

 (1)SK労働安全委員会
 (2)総合リスク管理委員会・コンプライアンス委員会
 (3)人事部門・労務部門
 (4)内部監査室
 (5)労働組合(ZEAN)
 (6)Z社取締役会・監査役
 (7)ZHD社取締役会・監査役

 31ページに調査委員会による「小括」があり、よくまとまっているので、これを全面的に引用します。

「Z 社(すき家)又は ZHD 社においては(略)過重労働その他労働環境に関する実態についての把握や報告がなされており(略)すき家営業本部や Z 社取締役・監査役、ZHD 社取締役・監査役も含めて、社内で一定程度、共有されていたことが認められる。(略)過重労働問題にかかる指摘については、小川CEOも報告を受け、これを認識していたものと認められる。」

「しかしながら、こうした情報を目の前にしても、小川 CEO を初めとする経営幹部その他担当者らはこれを企業経営に直結するリスクあるいは重大なコンプライアンス問題と認識することはなく(略)総合リスク管理委員会やコンプライアンス委員会がその本来の役割を果たすことはなかった。また、人事部門・労政部門においては(略)過重労働等に係る法的リスクについて一定の知識・認識を有しており、社内でも警鐘を鳴らしていた模様ではあるが、最終的には営業本部の判断・対応に委ねるという姿勢にとどまっていた。」

「(略)Z 社及び ZHD 社の取締役・監査役もまた、取締役会への報告や問題提起を行うことはなく、過重労働問題等について、全社的な検討・対応がなされることはなかった。(略)目の前にあるはずの過重労働問題等に対する“麻痺”が社内で蔓延し、「業界・社内の常識」が「社会の非常識」であることについての認識が全社的に欠如していたものと言わざるを得ない。」

 「業界・社内の常識」が「社会の非常識」であるという話は、ちょうど先日のエントリーで取り上げました。

転職は2回しろ!? - hrstrategist’s blog

「一般論として比べると、転職が多い人の方がより「ズレていない」「まっとうな」判断軸である可能性が高くなります。」

と、そこではコメントをしましたが、すき家では社内の常識に染まることで、「ズレた」「まっとうでない」判断軸が働いてしまったという事だと思います。

 では、すき家の「常識」はどのようなものだったのでしょうか?

 ゼンショー社のWebページに、「社会の中のゼンショー」というページがあります。

www.zensho.co.jp

 こちらを見ると、ページのTopに、

ゼンショーグループは「世界から飢餓と貧困を撲滅する」という理念に基づき、食で社会に貢献します。」

というメッセージが掲げられています。こちらにも同様のことが書いてあります。

www.zensho.co.jp

さらには、「社会インフラとしてのゼンショー」という項目で、

「24時間365日、いつでもどこでも、お客様に身近な存在としてゼンショーグループは、安全でおいしい「食」を途切れることなく提供し続けることによって地域社会を支えます。」

というメッセージもありました。

 「会社のビジョンはかくあるべし」という、非常に分かりやすく、伝わりやすいメッセージではないでしょうか。

 これには創業者であり、今でも会長であるの小川賢太郎氏の考えが強く反映されているようです。

トップメッセージ

www.zensho.co.jp

 小川氏は、東大全共闘→港湾労働者→吉野家ゼンショー創業という、激しい(?)経歴の方で、だからこそ、会社と事業に対して強い思いがあるのでしょう。

日経ビジネスのインタビュー記事

business.nikkeibp.co.jp

 

business.nikkeibp.co.jp

 一方で、ゼンショーはこれまでしっかりと収益を上げ、順調に成長をしてきた点も見逃せません。上記の記事でも、買収した会社の業績を着実に改善させている点に着目しています。

 ところが、その成功体験が落とし穴だったように私には思えます。

 高いビジョンを掲げ、モチベーションの高い社員が猛烈に働き、業績を拡大していく、その成功体験が、「ズレた、全うでない」部分も含めた自社の文化を正当化し、強化していく事となった。その中で、「24時間365日営業」が金科玉条となってしまったようです。

 それを実現すること「だけ」が目的であれば、単に人を増やせば済む話です。十分な人員が確保できるまで、より多くの採用費を掛ける、時給を上げる、ワンオペを止めて深夜シフトの人員を増やすということは不可能ではありません。

 ところが、すき家はそうしませんでした。報告書にもあるように、2011年から2014年にかけて店舗数は400店、25%も増加しながら、在籍社員数は増加してないのです。つまり、店舗増で25%増えた業務量を、従来の人数で吸収させようとしていた、ということです。

 報告書にもあるように、問題になっていた深夜の「ワンオペ」が継続されていた理由として、すき家が重視していた経営指標である「労時売上」の問題があります。これは、店員1名あたりの1時間の売上の達成目標であり、これを達成するために店員の配置はギリギリに減らされます。

 その結果、相対的に売上が減る深夜時間はずっと1名勤務になり、「休憩できない」「トイレにも行けない」といった状況が発生しました。さらには、「ワンオペ」を狙われて強盗が多発するという事態まで起きています。これに対し警察庁は2011年にゼンショーに対して防犯強化の要請をしており、ワンオペを解消すると会社は発表したにも関わらず、未だにこれは実行されていません。

 つまり、会社の大義名分として、24時間365日営業を止めることなど考えられない。一方で、収益の追及がトップダウンで強要される。その結果、現場では「法令遵守」などという言葉は意図的に忘れ去られたのはないか、また、それを止めるべき立場の人たちも、惰性に流されてしまい、会社の組織文化、常識に本気で逆らって従来のやり方を自己否定をすることができなかったのではないか、そのように思えます。

 報告書の中(36ページ)でも経営幹部と委員会とのやり取りが取り上げられています。

「Q: 「(過重労働問題への対応として)営業時間を短縮するという話は?」
 A: 「ない。考えたこともない」
  「労働基準監督署とか労働環境を考えたことはない」」

 また、会社は、アルバイトからの残業代未払いの訴えにたいして、「アルバイトは業務委託である(だから残業代は発生しない)」という、目を疑うような主張を従来からしておりました。

www.seinen-u.org

 

toyokeizai.net


 おそらく、「これまで何とかなってきた」、「労働基準監督署に何を言われようと知ったことではない」、「警察のいう事など聞く気はない」、という発想が、少なくとも幹部層の考えの根底にあったのではないかと思います。「赤信号、みんなで渡れば怖くない」的な発想です(古い)。

まだ続く。

すき家(ゼンショー)の調査報告書を読んで感じたこと(3) - hrstrategist’s blog