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hrstrategist’s blog

組織人事ストラテジストのつぶやき、業務連絡など。。

「夢は正社員」!?(3)「期間の定め」をなくしたら

労務

おはようございます、組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。

これまで2回のエントリで、正規雇用非正規雇用の違いや、正社員という「身分」を原因とする様々な問題について書かせて頂きました。

「夢は正社員」!?(1)正規雇用と非正規雇用の違いについて - hrstrategist’s blog

「夢は正社員」!?(2)正社員を「辞められない」「辞めさせられない」問題 - hrstrategist’s blog

 今回の話は、これらの問題に対する解決の方策として、ある単純な提案をさせて頂きます。この提案が世間の多くの方々に受け入れてもらうことができるかは別の問題になりますが、一つの思考実験として捉えて頂くことで、新たに見える視点があるのではないかと思います。

 以下、提案です。

 「働かないオジサン」「ブラック企業」「メンタル問題」「正規・非正規」の全てを解決する名案があります。それは労働規制の"強化"です。

 具体的には、「期間の定めのない雇用契約」を禁止して、労働契約は全て有期契約とします。全員を「非正規雇用」にすれば良いのです。そうなれば、「正社員」という身分は消滅します。

 雇用契約の期間の上限を、例えば3年程度に規制すれば、契約更新の時点で「働かないオジサン」は雇い止め、または減給の上契約更新となるでしょう。解雇規制の問題も解決しますし、「追い出し部屋」を作る必要も無くなります。また、「正社員」の価値が無くなれば、従業員は「ブラック企業」にしがみつく理由・必要も無くなります。同様の理由で、会社を辞めることが出来ない、辞められないという理由でのメンタル疾病の発症も減少が見込めるのではないでしょうか。

 このような条件の元で、長期雇用を標榜する会社、「日本型雇用システム」を続けたい会社は、自らの選択として長期雇用を前提とした「契約更新率の高さ」を売りにすれば良いのです。同様に、安定を求める従業員はそのような会社で雇用されることを目指せば良いのです。契約更新率の明示を義務化するのも良いかもしれませんね。もちろん、企業は働き続けてもらう努力、従業員は雇い続けてもらうための努力を続けていく必要があるのは当然です。

 このような枠組みを意図的に作って、労働市場を流動化していくことが大事だと思います。法律・規制の問題も確かにあるのですが、それよりも「年功序列・終身雇用バンザイ」という、未だに多くの人たちに残る意識を変化させるトリガーをどうするか、というのが、現実的には重要なのではないでしょうか。

 この提案を実現するためには、細かいテクニカルな条件設定は詰めなければいけませんが、そこはしっかり決めて行けば良い話です。要は「やるのかやらないのか」。腹を括れるかではないでしょうか。

 この提案に対し、いくつかの反論が想定されます。まずは教育研修の話です。「期間の定めのある」契約を前提とすると、企業は従業員の退職を見込んで、長期視点に立った教育研修、人材育成をしなくなるのではないか、という疑問が、まず出てきそうです。

 私は以下のように考えます。会社としては、優秀人材、ポテンシャル人材には引き続き働いてもらいたいので、そのような人達には常に契約更新のオファーをするはずです。にも関わらずそのような人材を引き留めることができないのは、要するに「会社に魅力がない」からです。それを防ぐためには残って働き続けたいと思わせる会社にすれば良いだけの話です。

 そもそも多くの日本企業では人材育成においてOJTの割合が高く、従業員1名あたりの教育研修投資額で比較すると、決して他国と比べて高い訳ではないようです。人材育成に熱心なグローバル企業は、特定の人材に対しては典型的な日本企業とは及びもつかないようなコストを人材育成・教育に投資します。そのような企業は、健全な労働市場による競争の結果、企業の戦略としてそのような戦略を採っているのです。それと同じことをすれば良いのです。

 一方で、従業員に対して十分な育成投資をしない会社は、労働市場において相対的な競争力を失っていきます。教育研修に限らず、会社が従業員に対して何を与えることが出来るのか(そして、そもそも会社がそれを明確化し、説明できるか)、言い換えると、従業員にとって、その会社で働くメリットが何なのかが重要になります。

 会社が与える魅力・メリットは、各社毎に様々で良いと思います。「高い報酬」、「人材教育・育成に熱心」、「豪華なオフィス環境」、「同僚同志の仲が良い」、「グローバルな職場環境」などなど。「期間の定め」が無くなれば、従業員の流動性は必然的に高まりますから、優秀な社員ほど、より「職場の魅力」が高い会社に移っていくことになるでしょう。

 同様な事が従業員サイドでも起こります。これまでと異なり、「終身雇用」は保証されなくなりますから、「働かないオジサン」は通用しません。契約打ち切りにならないように、一生懸命働いて会社に貢献しなければなりません。しかも、ただ頑張っているだけでは会社都合で契約を止められる(更新されない)リスクがありますから、他社でも通用する、ポータブルなスキルを身に着けることを意識する必要があります。労使双方で、良い意味で緊張感が高くなります。

 会社側からすると、ポータブルなスキルが身に付く仕事であれば相対的に給料が低くても「なり手」を探すことは容易になるでしょう。そのような仕事は転職をしても同様の仕事を見つけやすく、職にあぶれるリスクが少ない代わりに、「なり手」のライバルも多くなり、(相対的に)報酬は高くなりづらいでしょう。
 
 一方で、自社に特有のスキルを求められるような職種は、給料を高くしないとなり手が集まりません。流動性が低く、つぶしがきかないので、職を失った際のリスクをカバーするだけの高いリターンを与える必要があります。いずれの職種を選ぶのも本人の意思ですが、「リスクとリターンに応じた報酬」が、会社と従業員の双方により強く意識されていくことになります。

 このような労働契約が一般的になれば、「一つの会社に依存しない働き方」がより促進されます。その結果、人々はより将来性の高い仕事は何かと真剣に考えるようになり、産業ごとの人の移動もより活性化するようになるでしょう。一方で、会社にとっても従業員にとっても、新規に雇う、または雇われるのはコストもリスクもある話ですから、お互いに同じ所で働き続けられるのが、本来的にはベストでしょう。よって、必要以上に雇用が流動化するということも現実的には起こり得ないと思います。

 結局は「期間の定め」の差を無くすことがポイントだと考えます。(民主党のコマーシャルの)「夢は正社員」の人が、会社都合で転勤や職種転換を際限なく受け入れたいと積極的に考えているとは想像しにくいです。彼女が欲しいのは「期間の定めのない」身分なのでしょうが、それを際限なく保証することは経営側の立場からは受け入れ難く(会社が潰れますから)、かつ、現状の「士農工商」的な「正規・非正規格差」を解消するためには、この位の発想の転換をしない限りは、現状の「正社員は正しい働き方、非正規は間違った働き方」という固定概念・序列を打ち破ることは出来ないのではないかと感じます。

 また、「従業員の生活を保証するのが企業の役割である」という議論も出てくるかもしれません。歴史的に日本企業は、パフォーマンスと賃金を短期的には相関させず、若いうちは賃金を抑え、40,50歳代に手厚い賃金を払い、従業員の生計費を保証する、「生活給」「賃金カーブ」の思想に強く影響を受けていました。この手の仕組みはかつては機能したのでしょうが、非正規雇用者が増加した近年では、このロジックを通すのは難しくなっています。というのも、非正規雇用者は企業による「生活給」保証の対象ではない現実に対し、「正社員だけが対象である」という「身分格差」を正当化できる理屈は無い訳です。

 「いや、優秀で選ばれた人だけが正社員になれるのだから、格差は当然である」という意見も出てくるかもしれません。しかし、会社にとって必要なのは入社時の「優秀さ」ではなく、今ここにある業務に対してより高い成果を挙げ、会社に貢献できるかどうかの「優秀さ」であるはずで、入口で格差が固定される「身分制」は、本質的に合理的でないと言えるのではないでしょうか。

 これだけではなく、例えば「住宅ローンが組めなくなるのでないか」など、いろいろな反対意見はあるのではないかと思いますが、そのような議論をする中で、現状の何が問題で、どのように改善、解決していくべきかというコンセンサスを少しづつでも作っていくことが大事なのではないかと思います。

 「期限の定めのない雇用契約の禁止」について、ぜひ皆さんのご意見もお聞かせ下さい。