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組織人事ストラテジストのつぶやき、業務連絡など。。

貴社の人事評価・報酬制度は人件費をコントロールできますか?

 こんにちは、組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。先週、日本ダービーの話題に触れましたが、結果についてある人から「どうでした?」と聞かれました。もしかして興味のある方がいるかもしれませんので、一応報告です。結果は、「ハナ差」に泣きました。2着と3着がひっくり返っていれば、大本線的中だったのですが。。まあ、予想としては間違いなかったと思うので、気を取り直して頑張りたいと思います(何を?)。

 さて、そんな話はさておき、今日は、「経営者(雇う人)」と「従業員(雇われる人)」の関係について考えてみたいと思います。いわゆる労使関係ですね。

 突き詰めて単純化すると、経営者と従業員が人件費の配分について考えるべきは、以下の3点となります(経営理念云々を考慮すべき点は当然の話ですが、今回はさておきます)。

1.利益をいかに最大化するか
2.利益からの人件費配分をどの割合にするか
3.人件費を個別の従業員にどう配分するか

 1は収益というパイをいかに大きくするか、2と3はパイの分け前(配分)をどう決めるかの話となります。

 経営者と従業員の関係性で考えた場合、上記1~3でそれぞれ思惑は異なることになります。

 1に関しては、労使で利害は一致します。なお、厳密に言えば双方の利害が一致するのは、「人件費を除いた利益(付加価値)」の最大化となりますね。これは、おそらくどこからも異論は無いのではないかと思います。

 2に関しては双方の意向は相反します。株主から経営を任されている経営者にしてみれば、人件費も経費の一つですから、利益を増やして株主へより配分するためには、可能な限りこれを極小化したいという考えます。一方で、従業員としては自分の給料が高いに越したことはありません。可能な限り人件費の極大化を求めます。

 とはいえ、現実的にはどこかで落としどころを見つける必要があります。経営者にしてみれば、人件費をケチりすぎて優秀な社員が離職したり、やる気が下がってしまえば1の目標を達成できません。一方で、従業員としても、人件費の配分が多すぎるために会社が潰れてしまっては元も子もありませんから、どこかで妥協をする必要があります。よって、労働組合がある会社の場合は、「春闘」等の労使交渉により、双方の「可能な限り」の交わる点を落とし所として決める訳です。

 労使交渉というのは、「双方の利益が相反する」かつ「背後に大勢の人達が勝手な意見を言って"世論"が形成される」といった意味でまさに国際間の外交交渉と同じ構図だと思います。より双方にとって良い結論を出すためにははどのような交渉をすべきかについては、個人的にとても関心がある話(過去の労務担当時の経験から、日中関係などを見ていても、ある意味「既視感」があります)ですが、「ゲーム理論」とか「交渉術」とか、難しい話にもなりますので、また別の機会に取り上げたいと思います。

 3については、今度は従業員同士のパイの分け方の問題なので、個々の従業員同士でも希望が異なります。これを決めるための仕組みが、人事制度の中でも基幹となる「評価制度」「報酬制度」となります。
 
 要するに、人件費について考えるべきことは、「いかに利益を確保するか」「利益からどれだけ人件費に配分するか」「人件費をどう個別に配分するか」に尽きます。はるか昔の時代から、「報酬の配分」はトップに立つものの最重要任務であったことは、以前のエントリでも書きました。

人事評価制度なんていらない - hrstrategist’s blog

 なぜこのような話をしているかというと、多くの会社において、上記の原点を見失った議論・運用がなされているのではないかと思われるのです。

 私自身、いくつもの会社の「人事制度の見直し」をお手伝いしてきましたが、従前の制度をレビューしてみると、上記の2、3の観点が全く考慮されていない仕組みとなっている場合が少なからず見受けられます。そのような会社では業績や予算と人件費が連動しておらず、「絶対評価」でどんどん昇給してしまったり、本人の働きぶり(会社に対する貢献度、成果)と報酬が連動しない仕組みになっています。

 気をつけなければいけないのは、著名な経営・人事コンサルタント会社が関わった人事制度であっても、「人件費をどう管理するか」「限られた原資をいかに配分するか」についての考慮が足りない制度設計である場合が少なからずあります。彼らが謳う、「ビジョン」とか「価値観」といったきれい事(もちろんそれも大事ですが)だけでなく、実際に制度、仕組みが実効的に運用できるかという側面も制度設計・運用においては同等に重要であり、その目利きが必要なのです。皆様に置かれましても、業者の選定にはくれぐれもお気を付け下さい。→一応、まずは私にお声掛けを、と宣伝しておきます(笑)。

 人件費の話は「パイの分け方」の話であると理解すれば、昔からよく議論になる「絶対評価」と「相対評価」のどちらが良いかという問題も自ずと結論が出ます。パイの大きさが決まっている以上、人事評価はあくまで「いかにパイを分けるか」の問題であり、評価の落としどころは必然的に相対的になるのです。みんな頑張って会社の業績が良くなったなら、結果パイは大きくなるので、相対評価の「配分」が同じでも個別の取り分は大きくなっているはずなのです(もちろん、ちゃんと従業員に配分する報酬制度である前提ですが)。

3の「従業員同士のパイの分け方」については、詳しい話を次回のエントリで触れようと思います。

その人は「代えがたい」人材ですか?-「人件費」というパイの分け方(1) - hrstrategist’s blog

その人は「代えがたい」人材ですか?-「人件費」というパイの分け方(2) - hrstrategist’s blog

その人は「代えがたい」人材ですか?-「人件費」というパイの分け方(3) - hrstrategist’s blog


 では、Have a nice day!