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hrstrategist’s blog

組織人事ストラテジストのつぶやき、業務連絡など。。

新卒採用と経団連の「採用選考に関する指針」の諸問題への感想(2)

 こんにちは、組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。東京地方は大雨です。こういう日こそ、在宅勤務が出来る会社などは魅力的だよなあ、と思います。残念ながら本日は外出予定ありでした。お手伝いしている会社のオフィスの席をお借りして、この記事を書いている所です。

さて、前回のエントリの続きです。

 新卒採用に対する経団連の「採用選考に関する指針」に関する一連の動き(?)に対する私の考えを前回は述べました。

 今回は、「あるべき新卒採用選考」の姿はどういうものか、についての私見を書かせて頂きたいと思います。

新卒採用と経団連の「採用選考に関する指針」の諸問題への感想(1) - hrstrategist’s blog

 私の提案は、まず、「指針」は廃止することです。その上で、「インターンシップの全面活用」「新卒採用の応募資格の見直し」の2つを提案します。順番に説明します。

 「指針」の廃止については、そもそも実効性のないルールなんて廃止しましょうということです。世の中には経団連会員の企業だけではありませんから、経団連ルールを全ての企業に適用するのは不可能です。

 実際、経団連が勝手にルールを作り、いろいろと変更することで、学生だけでなく非会員の多くの企業(恐らく多くの会員企業も)が、一方的に迷惑をしています。そもそもみんなが納得するルールなどというものを「お上」が作れるなどという社会主義的発想は幻想でしかありません。

 会員企業ですら「指針」を遵守できず、「本音」と「建前」を使い分けてあの手この手の抜け駆けを図ろうとしている訳ですし(会社が経団連会員であるが故に、不本意ながら従わざるを得ない採用担当者の皆さまに同情します)。正々堂々とした透明性の高いルールを作れないのなら、ルールなど無い方がマシです。

 ではどうすれば良いかというと、「就職活動をもっともっと長期化させる」ことです。一発勝負のお見合い型ではなく、より長期に渡る接触機会を作ることで(結婚前の同棲のようなものです)応募者と企業のマッチングを図るのです。

 経団連が謳うニセモノのインターンシップ※ではなく、本来の「採用選考活動としてのインターンシップ」を行うのです。学生は大学1年からどんどんいろいろな会社にインターンシップに参加し、その中で行きたい会社を絞り込めるようにすればよいのです。「インターンシップとはキャリア教育の機会であるべきだ」という、この国での認識が、そもそも間違いであると私は考えます(このような変な見解が経団連から出てきた経緯・理由は、改めて研究したいです)。

経団連「「採用選考に関する指針」の手引き」より抜粋
インターンシップは、産学連携による人材育成の観点から、学生の就業体験の機会を提供するものであり、社会貢献活動の一環と位置付けられるものである。したがって、その実施にあたっては、採用選考活動とは一切関係ないことを明確にして行う必要がある。」

経団連:「採用選考に関する指針」の手引き (2013-09-13)

 このような意見を言うと、「学生が学業が本分だから学業に専念させろ」と言い出す人たちが必ずいます。その人たちが学生時代に本当に学業に専念されていたのかどうかは疑わしいですが、それはさておき、この意見は正しいのでしょうか?

 そのような人たちに私がお伺いしたいのは、「学業」の定義です。ここでの学業の範囲とはどこまで入るのでしょうか。「大学の授業に出る事」や「卒業論文を書くこと」に専念して、それ以外のことはしないのが「学業に専念」であれば、それはあまりに狭い解釈ではないでしょうか。アルバイトやインターンをしたり、本を読んだり、友達と交遊したり、旅行をしたりといった幅広い経験が、大学生が学ぶべき広い意味での「社会勉強」であると考えます。

 結局、「就職活動によって学業に支障が出る」という理由は、あまりに短い期間に集中して就職活動を行わなければいけないために、その期間に授業の出席や研究が出来なくなるためです。であれば、今の就職活動のやり方をそもそも変えるべきでしょう。それを経団連が言わず、さらにはインターンシップによる選考の邪魔をするのは、結局彼らにとって今の就職活動のスタイルが都合よく、変えたくないから(担当者的には必ずしもそうでないですが)でしょう。

 さらに言うなら、本当に学業のみに専念したければ、在学中は就職活動もせずひたすら勉強すれば良いのです。学生がそのような選択を出来ないのは、卒業した後に「既卒者」として就職活動をするという選択肢が、現状では現実的に考えづらいからです。

 そこで、「新卒採用の応募資格の見直し」も提案します。既卒者も新卒採用に応募が可能とし、積極的に採用すべきということです。

 実は、すでに厚生労働省からも2010年に、「青少年雇用機会確保指針」により、卒業後3年以内の既卒者に対して新卒枠の募集に応募できるよう要請をしています。

「青少年雇用機会確保指針」について|厚生労働省

Q&Aよくある質問と回答|厚生労働省

3年以内既卒者は新卒枠で応募受付を!! |報道発表資料|厚生労働省

 また、実際に有名な事例では、ライフネット生命さんが、30歳未満であれば誰でも応募することができる、「定期育成採用」というものを始められています、

ライフネット生命 定期育成採用

 私自身は別に卒業後何年経っても、30歳以上の人でも(年齢差別ですし)新卒採用に応募するのでも構わないと思っていますが、まあ細かい応募条件は各社の裁量で決めればよいです。この方式の肝は、大学受験や司法試験のような資格試験と同様、「複数回応募の機会を与える」という点だと考えます。

 ディスコ社のアンケート(以下)によれば、新卒採用について既卒者の応募を受け付けている企業は66%ですが、実際に内定を出した企業はわずか14%に過ぎません。この差分の大きさの原因は、「そもそも既卒者の応募が少ない」「役所に言われたので既卒者可と謳っているが、実際に採用する気は無い」の両方ともあり得ると思いますが、いずれにせよ、少なくとも応募者側は「既卒者は不利である」と感じているし、企業側が積極的に既卒者を獲りに行っていないのであろうという推測は恐らく間違っていないでしょう。

http://www.disc.co.jp/uploads/2014/09/2014kigyou-report09.pdf

 現状では、「既卒」が不利であると考える学生は、焦って就職活動を行い、思い通りの結果が出なかった時には「就職留年」をしたり、確たる目的も無く大学院に進むことによって、何とか「既卒」という立場を避けつつ、次回の就職活動の機会を伺うことになります。

 学費を払ってもらえる大学にとっては有難い話かもしれませんが、実際のところ、1年間就職留年をしていた学生や、勉強することを主目的とせず大学院に入って無為に過ごした学生と、その間どこかの会社で働いたりしていた学生のどちらが本人にとって成長の機会があるかというと、恐らく後者ではないかと思うのです。

 既卒者といってもいろいろな人がいる訳で、どこか他の会社で働いていたかもしれませんし、留学やワーキングホリデーで海外に行っていたかもしれません。ボランティア活動をしていたかもしれません。そのような様々な経験を積み、多様な属性を持つ人達が、「新卒採用」という枠で、普通の新卒学生と同じ処遇で働きたいと言ってくれるのです。こんなにありがたい話は無いと思うのですが。

 結局、既卒者の採用が促進されないのは、「新卒採用はこうあるべき」という我々の「先入観」だと思うのです。つまり、「既卒者なんて普通に就職できなかった落ちこぼれしかいない」「他社で働いていた経験がある人はわが社の色に染まってくれない」「キズモノは欲しくない」という思い込みです。

 これって、ある意味学歴信仰と同じものだと思います。「〇〇大」「既卒者」という集団の特徴で物事を捉えようとすることで、一人ひとりの個人の特性を見ることを放棄しているのです。

「集団の傾向≠個別の特徴」であることについて、以前のエントリで触れたことがありますので、こちらを引用いたします。

「つまり、母集団のパフォーマンスを平均すると他の母集団より優秀ではあるが、個別のパフォーマンスにはばらつきがあるので、「ディープインパクト産駒」や「東大生」というのはそれ自体で品質保証にはならなず、結局は個体を見極めて判断をするしかないという事です。」

「集団の傾向≠個別の特徴」である話(2) 採用編 - hrstrategist’s blog

 もし複数回の挑戦の機会があるなら、学生たちは意中の企業に今年受からなくても、来年や再来年までに力を蓄えて、またチャレンジすれば良いのです。複数回受けて受からなければ諦めもつくでしょうし、恐らくその間に志望も変わる事も多いと思います。「また受けるチャンスがある」というだけで、学生たちもだいぶ気分が楽になるのではないでしょうか。

 そして、企業側も、選考の母集団をより大きく取れることになります。一部の人気企業にとっては面倒な手間が増えるだけかもしれませんが、それでも母集団の中に優秀な人が増えるというメリットがある訳で、あとはメリットとデメリットを比較しての経営判断になると思います。または、堂々と「学歴フィルター」を公言してしまう手もあります(反対の意見もあるかもしれませんが、そのような採用基準があるのなら堂々と示したほうが応募者、会社の双方のためです)。

 という訳で、私の意見(私見)を書かせて頂きました。経団連会員企業の採用担当の皆さまは、残念ながら「指針」を無視するわけにはいきませんので、当面はその中で頑張っていただくか、経団連脱退をTopに働きかけていただくか、いずれかで頑張って頂くしかありません。
 
 一方で、非会員企業の採用に関しては、上記の取り組みは「やる」と決めればすぐに取り組むことが可能な施策です。担当者としては「前例踏襲」が無難であり、そこから外れることに対する恐怖感はあるとは思いますが、一方で、他社がやっていないことにいち早く取り組むことによる先行者利益は必ずあると思いますので、ぜひ、積極的に他社と違う、尖った採用選考を推進していただき、「経団連の指針」を無力化していきませんか?学生たちのためにも、ぜひ、我々の手で世の中を変えていきましょう!