hrstrategist’s blog

組織人事ストラテジストのつぶやき、業務連絡など。。

「給料を上げてくれないと辞めます」と言われたら?

 こんにちは、組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。前回のエントリで書きました「筋肉痛」ですが、ちょっと長引いておりまして、どうやら「坐骨神経痛」という症状のようです。腰が原因で、足先に向けて痺れるような痛みが残っています。元々腰はよく痛くなる傾向があり、それを未然に防ぐため、スキーの際にも腰に巻くサポーターを常用しているのですが、先日の作業中にはサポーター使用を忘れていたので、それも原因となったのかもしれません。

 という訳で、本当は病院に行った方が良いのでしょうが、とりあえず日常的にサポーターを巻いてみて様子を見ております。。

本題に入ります。今回は、よくある話について取り上げたいと思います。

 もし、あなたが、「今の給料から〇割多い給料を払うから転職しませんか」と他の会社から誘われたらどうしますか?

 おそらく、「『〇割』の金額によるよー」「誘われた会社による」と答えられる方が大多数だと思います。それがノーマルな反応ですよね。

 では、「〇割給料が多くなるので転職したい」という話を上司にしたら、「うちでも同じ額になるように昇給するから、うちの会社に残ってくれ」と慰留されたらどうでしょう?なかなか悩ましいですね。

 以下は私の意見です。もし私がその立場であれば、上司からの慰留の話は断ります。つまり、他社の「〇割増し」の話に心が動いたのであれば、その時点で転職意思は決まっており、その後慰留をされても意思は曲げないということです。

 なぜ私が「慰留」を受けないかというと、これは端的に言えば、「だったら初めからその金額を払えよ」という、会社・上司に対する不信感です。さらには、一度退職を切り出したら、「この人はいつ辞めるかも分からない」と会社や上司に思われること(自分が上司ならそう思います)のデメリットも考慮します。

 従業員から「辞めるぞ」と脅されて報酬額を上げるということは、その人にこれまで会社が払っていた報酬水準が誤りであったと会社が認めたということです。上司から慰留され、転職を思いとどまって報酬を上げてもらった本人は、その時は嬉しいかもしれません。しかし、そもそも会社は自分の本来の価値と比べて低い報酬で自分をこき使っていたという事実は変わりませんし、会社が過去に遡って差額を精算することも無いでしょう。極論すれば、会社に「搾取」されていたという事実は消えません。

 さらには、「人の口に戸は立てられぬ」とのことわざの通り、「辞めるといったら給料が上がった」というような話はいずれ周囲の人達にも知れ渡ります。そうなると、「なんであいつだけ?不公平だ!」という不協和音が他の社員にも波及し、結局、組織全体に、現状の報酬水準と評価制度、さらには自社の戦略や理念、価値観に対する不信感が蔓延することになります。

 では、従業員が、「給料を上げてくれなければ辞めます」と言ってくるという事態が起きた場合、会社(経営者)はどう対処すればよいのでしょうか。

 その人が、要求する報酬アップに値しない「それなり」の人であれば、残念ではありますが辞められてしまってもやむを得ません。もしそちらの会社で働くほうがより高い貢献ができ、高い給料をもらえ、さらには本人がそれを望むなら、その他社に移った方が本人にとっても、社会にとってもためになるのではないでしょうか。

 一方で、本人が求める報酬額を自社で払う価値がある、それでも残ってもらいたい人だとしても、その人に対して慰留はすべきでありません。理由は上記の通りです。そのような事態が起きた時点では、もう手遅れなのです。

 せめて経営者が出来るのは、その人の報酬水準を間違えた or あえてケチったことを猛烈に反省し、二度とこのような事態を繰り返さないようにすることです。

 なお、経営者が言いがちなダメな言い訳として、「予算が無いからこれ以上報酬を出せない」というワードがあります。本人の市場価値と会社の予算は無関係であり、会社の都合を一方的に押し付けても、相手にとっては「この報酬でいやなら、よそに行ってくれ」と言われているのと同じことです(私も以前転職活動をしている際に、そのようなオファーをされたことがあります。その会社には結局行きませんでしたが、それで良かったと思っています。)

 結局大事なのは、「未然に防ぐ」予防策なのです。具体的には、報酬の世間水準、相場を随時ウォッチして、適正な報酬水準を保つ努力を怠らないことです。その際に気を付けるキーワードは、「代えがたさ」と「貢献度」、「割引現在価値」です。

※報酬の決め方や決めるための要素である「代えがたさ」については、以下に詳しく解説をしております。

給料の決め方はシンプルで良い - hrstrategist’s blog

その人は「代えがたい」人材ですか?-「人件費」というパイの分け方(1) - hrstrategist’s blog

その人は「代えがたい」人材ですか?-「人件費」というパイの分け方(2) - hrstrategist’s blog

その人は「代えがたい」人材ですか?-「人件費」というパイの分け方(3) - hrstrategist’s blog

 そして、「適正な報酬水準」を考える際に避けられないのは、「誰かを上げれば誰かを下げざるを得ない」という事実です。相手の言うなりで報酬を上げれば良いのであれば、経営者としてこれほど楽な話はありませんが、人件費という経費に費やせる金額は有限である以上、そのような対応は不可能です。

 結局、限られたパイを配分するためには、何らかの基準を元にメリハリを付けざるを得ません。そして、メリハリを付けるためには、報酬を下げる人、上げない人を作らないと、本来上げるべき人に回せないのです。

 ところが、「嫌われたくない」「下げる人とコミュニケーションしたくない」が故にこれに手を付けるのを避ける経営者は少なくありません。その帰結は、上げるべき人の報酬を上げずに辞められてしまったり、その人のモチベーションダウンを起こしたり、または、過剰な人件費が原因で業績が悪化します(稀にそのような事例があります)。いずれにしても、経営者の判断、行動としては失格と言って良いと思います。

 そもそも、雇用する従業員に対して「給料を値切る」「お買い得」という発想は間違いです。そのような行動により、会社(経営者)は短期的に会計上では得をしているように見えますが、適正な報酬を与えないと従業員の不信感を招き、長期的には従業員の信頼と企業の競争力を失います。私自身もそのような事例をこれまでさんざん見てきました。

 「報酬の世間水準、相場を随時ウォッチして、適正な報酬水準を保つ」には手間も掛かりますし、経営サイドの努力・コミットも必要です。でも、その位の真剣な気持ちで従業員の報酬については考えるべきです。歴史を遡れば組織のトップに立つもの(例えば戦国武将)はそれだけ真剣にやってきたということは、以前に紹介しました。

人事評価制度なんていらない - hrstrategist’s blog

 という訳で、経営者の方は自社の従業員の報酬が市場価値や会社への貢献度に対して適正かどうか、改めて検証をされることをお勧めします。私がお手伝いすることも可能ですよ!

 では、Have a nice day!

 

※以下も参考記事です。
「本人との給料交渉においては、本人の希望が控えめであっても、会社側はあまり安く買い叩くべきではないと考えます。自分が「安く買い叩かれた」と本人はいつか認識するものです。そうなるとその人は会社へのLoyaltyを無くします。」

中途入社時の給料の決め方(1) - hrstrategist’s blog

「会社は成果を挙げた人にはフェアにその価値を認め、処遇します。給料を多少ケチる事による利益より、優秀な従業員に退職される損失の方が会社にとってはるかに大きいので、そのような事はいたしませんからご安心下さい。」

中途入社時の給料の決め方(2) - hrstrategist’s blog

「まず被評価者の順番を付け、その後にその順番に従って報酬を決めて下さい」

「辞められたら困る順番を考えて下さい」と言っています。単に「困る」と言っても、「その人が抜けたら人手不足になって大変」という話でなく、その人自身の「代えがたさ」について考えてもらうためです。「代えがたい」人が組織にとってより価値がある人だからです。

その人は「代えがたい」人材ですか?-「人件費」というパイの分け方(1) - hrstrategist’s blog

「ポイントは、3割打者や9秒5のランナーは2割打者や10秒5のランナーより圧倒的に出現数が少ない、希少な人達であるということです。」

「「希少性」×「代替困難性」=「代えがたさ」である、というのが私の定義です。」
「つまり、「優秀な社長」というのはあくまで相対的な存在であり、それが故に「希少」なのです。平凡な社長≒2割打者、優秀な社長≒3割打者という、プロ野球と同様の構図な訳です。」

その人は「代えがたい」人材ですか?-「人件費」というパイの分け方(2) - hrstrategist’s blog

「その人の現在価値(報酬)=現時点での貢献度(≒代えがたさ)+将来もたらしてくれるであろう累積貢献度(≒代えがたさ)の現在価値(退職リスクを含む)」
「社内での貢献度>市場価値」の人達には、市場価値に関わらず、貢献度に応じてフェアに報いてあげるべきと考えます。この人たちの市場価値以上の「代えがたさ」は、(ポータブルな市場価値に繋がる)自身のキャリア構築を少なからず犠牲にし、リスクテイクをして会社に尽くした結果です。それに会社が報いなけれは、極端に言えばこの人達から「搾取」をしていることになります。」
「「社内での貢献度<市場価値」の人達はどうでしょう。私は、その方達も同様に、市場価値に関わらず社内での貢献度に応じた(市場価値より低い)処遇をすべきと考えます。もしその処遇に不満を感じて退職されてもやむを得ない(社内・外で代替人材を調達できる)ということです。」

その人は「代えがたい」人材ですか?-「人件費」というパイの分け方(3) - hrstrategist’s blog

「「いなくなったら困る」のは明らかにBさんの方です。つまり、会社にとってBさんはAさんより「代えがたい」訳です。ところが、評価者がよくやる間違いは、AさんをBさんより高く評価してしまうことです。」
「組織への「貢献度」とは、目に見える(定量的な)パフォーマンスに限らないという事なのです。Bさんがいることにより、会社としてはキーポジション人材流出の潜在的なリスクが低減されています。その「見えない貢献度」をしっかりと評価し、処遇に反映させるべきなのです。」

「ユーティリティプレイヤー」の価値について(「代えがたい人」の話の続き) - hrstrategist’s blog