hrstrategist’s blog

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記事公開:採用の考え方 「月刊 人事マネジメント クラウド人事部長に聞く 経営人事のQ&A」

 こんにちは、組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。

 「月刊 人事マネジメント」の連載記事ですが、掲載から1ヶ月経ち、Webでの転載が可能になった2016年4月号(連載3回目)の記事内容をシェアをさせて頂きます。みなさまの参考になればと思います。

※こちらは前回のエントリです。

hrstrategist.hatenablog.com

 Blogの仕様上PDFファイルを添付できませんので、もしPDFファイルがご希望の方は、arainoori[at]gmail.comまでご一報下さい!

以下、記事内容です。雑誌のページをJPG化して一番下にも貼りましたので、どちらか読みやすい方でご覧頂ければと思います。

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 急成長するなかで組織と人事に関する課題に日々悩むベンチャー企業の創業社長と、俯瞰的視座から人事アドバイザリーとして社長を助ける「クラウド人事部長」の対話の第3回目。今回は、採用についての話です。どうやら社長は採用について悩みがあるようです。

・第3回:採用の考え方
即戦力採用の落とし穴
社長: 最近わが社も退職者が増えてきているんだ。補充の採用をするために人員募集をしているのだけど、なかなか良い人が集まらなくて困っている。どこかに良い人はいないかな?

クラウド人事部長:近頃はどこの会社も人出不足で採用には苦労されていますね。ちなみにどのような人が欲しいのですか?

社長:そうだね、会社への忠誠心が高くて、責任感がある人がいいな。あとは、自ら考えて自発的に動ける人だね。できれば転職歴の少ない若手がいいな。

クラウド人事部長:では、退職されたのは、そのようなタイプの方たちでしたか?

社長:そう言われると、そういう感じではなかったかなあ。

クラウド人事部長:では、なぜそのような人たちを採用したのですか。先ほど社長が言っていた「欲しい人」の基準は、採用時にチェックをしなかったのですか?

社長:そう言われると困るな。「即戦力」ということで、採用を決めたのは現場だったからなあ。

クラウド人事部長:ネコの手も借りたい現場の人たちは自身の業務負荷をとにかく減らしたいわけで、「誰でもよい」から採用したくなります。よって、現場に採否の主導権を任せると、採用のための判断材料として分かりやすい「職歴・スペック」が重視された、誤った「即戦力採用」に走りがちなのです。

社長:「誤った」というのはどういう意味?

クラウド人事部長:考えれば分かることですが、出戻り入社の人でない限り、自社のポジションにぴったりはまる、全く同じ業務経験をしている人などいません。過去の経験・スキルのうち何割かは新しい仕事で生かせるかもしれませんが、その人が戦力として会社に貢献するためには、残りの差分を自身の力と周囲のサポートで埋めていかなければいけません。
その、「差分をアジャストできるポテンシャルがある人かどうか」の視点が、「職歴・スペック重視」だと欠けてしまう場合が多いのです。過去の経験はすぐ陳腐化する一方、アジャストする力さえあれば多少の経験不足などすぐに克服できるのですが。

「欲しい人材像」の具体化
社長:自分の体験を振り返っても、「即戦力」を採用してそのまま期待通りの即戦力にならず、期待外れだったことは確かに少なくないな。

クラウド人事部長:それは本来採用してはいけない人を採用してしまったからです。入口の時点でミスマッチが起きているわけですね。その責任の多くは採用された側ではなく、主に採用する会社側にあります。

社長:というと?

クラウド人事部長:「欲しい人」の基準が曖昧で、社内でコンセンサスが取れていないのです。そのために、採用に関わる人たちが、それぞれ自分の考えるバラバラな「欲しい人」像を候補者に伝えることになります。そうなると、もし候補者がそれに共感して入社しても、実態は異なるために、「話が違う」ということになってしまいますね。

社長:入社した側にとっても、会社が「期待外れ」だったということだね。まさにミスマッチだな。でも、この構図が見えてくると、ミスマッチを減らす方策もありそうだね。

クラウド人事部長:おっしゃる通りです。要は、入社した人の期待を裏切らないようにするのです。建前やきれいごとばかり並べて入社してもらっても、入社後に期待が裏切られればその人は会社に対して不信感を持ち、モチベーション低下や早期離職に繋がってしまいます。
これを防ぐには、まず会社側が、「欲しい人物像」をより具体的に描くことです。これは社長が主導されるのが良いでしょう。そのうえで、その人物像を社内、特に採用に関わる人たちで意思統一します。その上で、面接時には「欲しい人物像」と「現状の実態(の差異)」を率直に候補者に伝えましょう。

社長:とは言え、本当の事ばかり伝えるのも勇気がいるね。

クラウド人事部長:「期待値のコントロール」が大事です。理想は、入社後にその人が「思っていたより良かった」という、入社前の期待値を上回る状態にすることです。そのためには、良いことばかりを言って期待値を高め過ぎてもいけません。
それに、少しでもネガティブな所があると躊躇するような人より、「理想はこういう状態だけど、現実はまだまだ足りない。ついてはあなたに協力して欲しい。」と正直に伝えたら意気に感じるような人のほうが見込みがあると思いますよ。

「大義名分」で差別化
社長:そういう人がたくさん応募してくれるといいのだけど、なかなかいないよね。

クラウド人事部長:そのような候補者を惹きつけるには、「うちの会社で働くとこんな良いことがあるよ」というメリットを明確に見せることが大事です。メリットとはお金のことではありませんよ。お金はあくまで「衛生要因」ですから、そこで他社と張り合う必要はありません。
それよりも、他社からも声が掛かるような優秀な候補者には、その会社で働こうと決断するための「大義名分」が必要なのです。

社長:「大義名分」ねえ。うちのような会社だと、どんな大義名分になるのだろう?

クラウド人事部長:まさに前回お話した、「経営理念」ですよ。他社と比べて遜色のない報酬や福利厚生などの処遇を整えることは最低限の必要条件ですが、これに加えて、候補者が経営理念に共感し、貴社で働くことで「他社では得られない経験価値」が得られそうだという確信が持てれば、それが貴社に入社する唯一無二の「大義名分」となり得ます。

社長:なるほどねえ。でも、わが社の「他社では得られない経験価値」は何なのだろう。あまり考えたことが無かったなあ。

クラウド人事部長:ご安心ください。即答できる経営者はあまりいませんから。だからこそ、「大義名分」を示すことが他社との差別化要因になるのです。「大義名分」は、松下幸之助さんの「水道哲学」のような、他社が容易に真似できない利他的なものだといいですね。この考え方を「CSR採用」と私は呼んだりしています。

社長:「CSR採用」か。なかなか面白そうだね。

クラウド人事部長:実は、経営者を悩ませる組織・人事の問題が発生する原因の大部分は、採用時に発生しています。要は「ふさわしくない人」を採用しているのが問題なのです。
採用は料理でいえば材料の調達です。材料が素晴らしければ、それほど手間を掛けなくても美味しい料理はできるのです。よって、あたかも優秀な調理人が材料の選定に精力を注ぐように、経営者も真剣に採用を行わないといけないのです。そうすれば、労務対応や理念浸透、退職補充などに費やす時間と手間を大きく減らすことが出来るのです。

社長:なるほどねえ。そういえば、お腹が減ってきたな(笑)。ランチにいこうか!

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