hrstrategist’s blog

組織人事ストラテジストのつぶやき、業務連絡など。。

「ランチ選び」と「人選び」

 こんにちは、組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。

 今回のネタは「ランチ」の話です。みなさまは日々どのようなランチをお召し上がりでしょうか?お勤めの方は、社員食堂があればそちらを利用される方が多いかもしれませんね。社食がない場合は近所のレストランや弁当屋、コンビニで済ませたり、または手作りのお弁当を持参される方も少なくないでしょう。

 かく言う私自身も、若い頃には自分で弁当を作っていた時期がありました。当時は安月給で、コスト削減のために「弁当男子(当時はそんな言葉はありませんでした)」を始めたのです。中身はもちろん「男の料理」ですが、自分で作って食べる分には見た目など気にしなくても良いし、自分で必要な栄養を考え、食べたいものを自分で作って食べるというのはある意味合理的だと感じていました。

 ともあれ、毎日のランチで何を食べるかという意思決定はなかなか悩ましいものです。「食べたいものか否か」だけでなく、「価格」「量」「時間(短い時間で済ませたい時もあります)」「手間(お店への距離や並ぶ手間など)」など様々な条件を無意識に考え(っていう表現は正しいのかな?)、優先順位を付けながら、今日はランチに何を食べるかを決めるのです。「昨日は中華を食べたから、今日は和食にしよう」という感じですね(お弁当を作ってもらっている人は、作っている方が代わりに考えてくれているはずです)。

※以下、余談です。
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 そういえば、牛丼の吉野家の「うまい、やすい、はやい」という有名なキャッチフレーズはまさにこの意思決定の要素そのものですね。
※なお、時代と共に上記の順番(=優先順位)は変わっているそうです。
「うまい、はやい」→「はやい、うまい、やすい」→「うまい、はやい、やすい」→「うまい、やすい、はやい」
確かに、キン肉マンがアニメで歌っていた順番は「はやい、うまい、やすい」でしたね(40代の元男の子しか分からないかも)。。

www.yoshinoya-holdings.com

detail.chiebukuro.yahoo.co.jp

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 さて、ランチに何を食べるかを決めるためには、「食べる目的」について、短期と長期の両方を頭に入れておく必要があります。

 短期の「目的」とは、「空腹を満たすこと」です。これは理解しやすいですし、実際にその場でお腹はすいている訳ですから、忘れることもありません。

 一方で、長期の「目的」である、「健全な体を作るために十分な栄養を過不足なく取ること(健康維持)」を実現するためには、長期的に「適量」で、「栄養バランスの優れた」という条件が必要になるでしょう(人によってはより細かい条件があるでしょうが、そこは今回の本題でないので省略します)。これを実現するためには、ランチに限らず、できるだけバラエティに富んだ食材を、栄養のバランスを考えながら摂取することが求められます。ここで言う「長期的に」という言葉を加えた意味は、1回の食事で多少量が多くなったり、栄養が偏ったとしてもそれ自体は問題ではないということです。別の日は少なめにしたり、前回足りなかったものを補うというような方法で取り返せば長期的には問題ありません。

 それをせずに、「うまい」や「やすい」という短期の目的に適う条件ばかり優先して、同じものを毎日食べ続けたりしていると栄養のバランスが悪くなり、健康維持という長期の目的を損なう恐れが出てきます。

極端な例がこれですね。

スーパーサイズ・ミー - Wikipedia

 ところが、長期の「目的」を軽視した食事を続けていても、(上記のように極端でなければ)当人にとって差し当たり不都合なことは起こりません。「健康を損う」のは(おそらく)将来の話ですし、本当にそうなるかどうかは、実際になってみないと分かりません。

 そのため、長期の「目的」は、多くの人にとっては忘れたり、軽視・後回ししてしまいがちです。

 さて、延々とランチの話をしてきましたが、ここからが本題です。

 これって、企業における「人選び」の話と似ていませんか?

 短期の目的「空腹を満たすこと」は、イコール、「人員不足の補充」です。お腹が空いたからご飯を食べるのと一緒で、人が足りないから雇うのです。そのための優先順位として、「価格(採用費やその人に払う給料)」「量(人数等)」「時間(採用に至るまでの時間軸)」「手間(会社が掛けられる工数)」などの制約要因があり、かつ、加えてその人が会社にとって「おいしい(一緒に働きたい)」かどうかで採否が決まる訳です。

 会社が急成長して常に人員が逼迫している状態は、いわば「腹ペコ」の状態ですから、とにかく早く空腹を満たす=人を獲る必要があります。この時には味の良し悪しなどと贅沢を言っている場合ではないので、「はやく、(できれば)やすく」採用を進めることが優先されがちです。

 ところが、この状態は長くは続きません。手当たり次第に食べていると、その中に腐っていたり、体に合わないものも混ざっていたりするものです。そう、会社もお腹をこわすのです。「大量採用、大量離職」の会社は、まさにこの状態です(想像して下さい)。もしそこまで行かなくても、「栄養バランスの悪い(人材が偏った)」会社は組織の状態としては健全ではありません。人でいえば「メタボ」「高血圧」「生活習慣病予備軍」であったり、「やたら風邪をひきやすい」といった状態に例えることができます。

 一部の会社では、「このままではいけない」と気づきます。組織の「健康の維持」という長期の「目的」の為に、どのような人を選ばなければいけないかを考え始めるのです。そしてそれは、「ランチ」の場合と同じく、長期的な「適量」と「栄養バランスの重視」です。

 「適量」とは、いわば適材適所の人員配置です。必要な業務に必要な人員が行き渡っており、特定の部署や人員に過大な業務負荷が掛かっていたり、意味もなく余分な人員が滞留したりしていないということです。

 そして「栄養バランス」とは、「ダイバーシティ」の話に通じます。会社の発展・維持のためには多様な人材(多様な栄養素)が必要だということです。「良薬は口に苦し」ということわざもあります。好き嫌いだけで採用を判断すると危険であり、時には直感に合わない人を(ちゃんと調べた上で)採る勇気も必要になります。

 加えて「外食派」「自炊派」のどちらが良いか、という話もありますね。自炊弁当だと食材を自分で選ぶわけですから、栄養バランスに配慮をしやすいというメリットがあります(かつ、相対的に低コストです)。一方で、「手間がかかる」のは無視できないデメリットです。これは「新卒採用(材料を揃える)」と「社内研修・育成(調理する)」に当てはまります。一方で外食は、買ってきてそのまま食べる「中途採用」ですね。

 私の意見は、新卒(自炊)であれ、中途(外食)であれ、あくまで上記の「目的」を果たすための「手段」に過ぎませんから、どっちでも良く、その会社に合ったやり方で良いのではないかと考えます。

 その議論よりむしろ重要なのは、前提としての要員・人員計画とそれに沿った採用計画・戦略の策定です。

hrstrategist.hatenablog.com

 人事のトップや採用担当者の仕事は、今の自社にはどの「栄養」が足りなくて、何が過剰かを考えて要員・人員計画をまず立て、足りない部分を補うためにどのような採用と教育研修を行うかを(予算に応じて)決めることです。

 このような計画を持たずに、行き当たりばったりで活動を行うのは、「腹が減ったから満腹になるためにメシを食う」という、頭を使わない本能レベルでの活動しかしていないと言われても仕方がないでしょう。

 そして最後に、「楽しい休息時間を過ごす」というのも、ランチの目的のひとつです。採用プロセスにおいても同じように、「一緒に働く人を探す」ことが、関わる人にとって楽しい、わくわくするプロセスにしていきたいものですね。