hrstrategist’s blog

組織人事ストラテジストのつぶやき、業務連絡など。。

「ストレスマネジメント」のお話(2)

  こんにちは、組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。

 東京地方は爽やかな秋晴れですが、部屋にこもってこのBlogの原稿を書いています。このところ週末はいつも雨(それも大雨)でしたが、今週末の連休はようやく秋晴れが望めそうです。

 「ストレスマネジメント」のお話、前回はストレスマネジメントの定義と、私の大学院時代の経験を書きました。今回は続きです。

「ストレスマネジメント」のお話(1) - hrstrategist’s blog

■「ストレスマネジメント」が適切でないと何が起こるのか
 ある人にとってストレスの原因(ストレッサー)が無視・放置できないレベルで存在し、かつ「ストレスマネジメント」がうまくいかないと、心と体が不調になるストレス反応が起こります。

 その程度は人により異なりますが、最悪の場合どのようなことが起きるかについては、河合薫さんのこの記事は大変参考になります。

wol.nikkeibp.co.jp

以下、記事の引用です。

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「過労死する人の多くが亡くなる直前まで「自分が死ぬほど疲れている」ことを自覚できず、「肉体の悲鳴」に気付くことができません。」

「もし、あなたが「忙しいのに慣れた」とか、「睡眠不足でも大丈夫」という状態になっていたとしたら、それは「見張り番が壊れてしまった」というシグナルであり、極めて危険です。」

「「過労自殺」は、単に「労働時間を短くすればいい」というものではなく、本人を追い詰める「仕事上のストレス」も同じように考慮する必要があります。」
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 過度なストレスと適切な対応の欠如により、「過労死」「過労自殺」という最悪の事態が起こりうるというリスクをよく認識すべきでしょう。

 また、河合さんが指摘されているように、往々にして本人は自身の不調・異常に気付けず、また正常な判断・意思決定ができない場合があります。だからこそ、周囲の人たちが本人の不調・異常に早く気付き、積極的に介入しなければならないのです。

■誰に対しての「ストレスマネジメント」か?
 「ストレスマネジメント」には、2つの種類があることに気が付きます。「自分自身」のストレスマネジメントと、「自分の部下(組織)」のストレスマネジメントです。

 前者は自分自身の問題です。自身が晒されるプレッシャー(ストレッサー)にどう対応するかの話です。セルフマネジメントですね。

 一方で後者は、「部下」という他人との関わり方の問題です(労務担当者の場合「同僚」が対象になりますね)。組織の成果に対して責任を持つ管理職にとって必須な視点です。あと、「上司」の立場であれば、自分が部下のストレッサーになってしまう危険性も認識する必要もあります。

■「ストレスマネジメント」クラスで気付いたこと
 とはいえ、そもそもの問題は、当事者自身が「ストレスマネジメントが必要なのだ」と気付かないことです。そういう人たちに「ストレスマネジメントが大事だよ」とただ言っただけでは聞く耳を持たれません。

 それに気付いたのは、大学院(慶應KBS、もう10年以上前です)時代、前回のエントリで書いた、「ストレスマネジメント」クラスを受講した時でした。

 このクラスは「選択科目」なので、「ストレスマネジメント」に特に興味がある学生のみが受講します。教室の中にいる学生の中で同級生たちを探して見てみると、ある傾向に思い当たりました。

 「戦略ゼミ」を選ぶような(そしてその後戦略コンサルティング会社にいくような)、いわゆる”優秀”な方たちは(確か)受講者の中に皆無だったのです(受講されていた方、ゴメンナサイ)。

 そのような方たちは優秀ですから、それまで仕事も完璧にこなし、これまで「ストレスマネジメント」を必要とする状況に遭遇したことも無かったのかもしれません。または、無意識に「自分自身」のストレスマネジメントをうまく行うこともできたのかもしれません。なので、「ストレスマネジメント」的な課題に対しては興味の優先順位が低く、他人事なのかもしれないとその時には感じました。

 そしてその時感じた直感、違和感は間違っていなかったのでは、と最近改めて感じるのです。

■「生存バイアス」の影響
 ストレスへの耐性には個人差があります。ストレス耐性が強い人は、そうでない人に比べて、より「無理をする」ことができます。その結果、実績を挙げ、より出世する可能性が高いと考えられます。

 結果、「強い」個人が出世競争で生き残り、上司・経営者となり、「弱い」人は出世競争から脱落していきます(個別に異なる事例はあるのは承知で、単純化・一般化しています)。

 そして、そのような人達が出世した結果「生存バイアス」が生まれます。そういう方は、往々にして、「自分は(例えば過重な労働時間、上司によるパワハラでも)これまで平気だった。耐えられないのはおまえが弱いからだ」という考え方(過剰な自己責任論)になりがちです。

 これは、いわゆる「生存バイアス」です。

※生存バイアスの解説
「脱落あるいは淘汰されていったサンプルが存在することを忘れてしまい、一部の「成功者」のサンプルのみに着目して間違った判断をしてしまうというバイアス。」

globis.jp

■「強者」の上司による「ストレスマネジメント」不全
 「自分の部下(組織)」に対するストレスマネジメントの初歩は、上司が部下の異変に「気付く」ことです。そのためには、上司は「ストレスマネジメント」的観点をよほど意識し、日頃から部下を観察するという行動が必要です。

 ところが、「強者」である上司はその必要性に気付かず、「自分は大丈夫だったから、部下も大丈夫だろう」という程度の軽い認識で、そのような行動を行う関心・優先順位は低くなります。

 それでは、「弱者」である部下がストレスへの適応不全を起こしている兆候に気付くことができませから、そのような上司の元では部下のメンタル罹患率等は相対的に上がりがちです。

 しかし、そのような上司は、問題を直視しません。あくまで部下の「自己責任」であって、自分に責任の一端があるとは微塵も思っていなかったりします。そして、「下らない」かつ「面倒くさい」、優先順位が低い問題として、事態を放置し、向き合わないのです。

 私自身の過去の企業人事の経験を振り返っても、部下のストレスマネジメントをきちんとやっている上司、部下が業務や人間関係で適応不全を起こしている時にきちんと向き合い、立ち向かえる人は、残念ながら非常に少なかったと感じます。

  この話、まだ続きます。

「ストレスマネジメント」のお話(3) - hrstrategist’s blog