hrstrategist’s blog

組織人事ストラテジストのつぶやき、業務連絡など。。

企業にとって望ましい「人口動態」とは?(2)

 こんにちは、みぜん合同会社 組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。

 先日、12月に鎖骨を骨折して以来、久しぶりに志賀高原へスキーに行ってきました。やはり雪山は楽しい!スキーは楽しい!もう、スキーは生き甲斐ですね。ちなみに骨はまだ付いていません。

 そういえば、志賀高原でスキーやスノーボードを楽しまれている外国人(主にオーストラリアの人たち)が数年前と比べて非常に増えていることに驚きました。どうやら、以前に白馬や野沢温泉に訪れた人たちが、「Shigaも良い所らしい」と仲間の口コミで聞き、流れて来ているようです。もちろん、アジア系の人たちも大勢見かけます。こういったインバウンドの需要を取り込んでいくのは、とても良いことですよね。

 さて、前回のエントリでは、我が国において、人口動態の「少子高齢化」が深刻な社会問題として認識されているのと同様のことが多くの企業にも起きている現状について取り上げました。

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 問題は、現状、その状況に経営者や人事担当者がどの程度気付き、危機感を持っているかです。

 例えば、このような話もあります。某都銀(死語?)は90年代後半のいわゆる「就職氷河期」には新卒採用数を絞り込み、総合職の新卒採用数は百数十名程度だったのですが、その後景気回復と他行との合併・メガバンク化等の事由もあり、今では1,000名を大幅に超える人数を新卒採用しています。それだけの人数を確保するためには、採用者の「質」をいかに確保するかは、いろいろと悩まれているようではありますが。

 一方で、メガバンクはバブル世代の人員の社外への排出が進んでおらず、転籍先探しの「営業」を熱心にやっているらしいという話も漏れ聞こえてきます。資金調達の方法も多様化し、いわば「金余り」の現状において、企業に対する銀行の影響力が低下していますので、なかなか「営業」も大変なのだろうなと想像されるところです

メガバンクの人員問題については、このような分析記事がありました。なかなか参考になります。

www.financepensionrealestate.work

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 別の事例もあります。複数の大手企業の出資により創立された某企業は、華々しい広告宣伝と同時に大々的に「即戦力」として、30歳代以上の世代の中途採用を大量に進めました。ところが程なく業績が低迷し、その後新規の(若手世代の)採用が進まない中で、平均年齢はそのまま上がっていった結果、20歳代はほぼ皆無で、30歳代後半~40歳代が従業員の大多数を占めるという非常にバランスの悪い人員構成となってしまったのです。さらにはその方たちは「前職見合いの給料」で入社し、当時の人事制度に則り、年功序列的に昇給していった結果、ただでさえ業績が低迷している中で、人件費が収益を圧迫する事態となってしまったのです(その会社がその後どうなったかはまた別の話…)。

 いずれの事例からも学べる教訓は、「人口動態は予め予測できるのだから、このような事態は防げたはずだ」ということです。極論すれば、こんなことは「ちょっと考えれば分かること」のはずなのです。

 ところが、実際には「失敗から学習」せずに、同様の事態が繰り返されます。日本の「少子高齢化」と同じで、企業の業績等を圧迫するような形で「人口動態」の問題が顕在化するまでにはタイムラグがあり、一方で企業の意思決定は短期(単年~長くても2,3年)の観点で最適化しがちです。つまり、経営陣が気にするのは「人口動態」でなく、欠員補充+α(部門からの積み上げの人員要求)の単純な「人員数」と「人件費」だけであったりするのです。

 さらには、採用の担当者・責任者が短期的に変わるため、過去の事例が引き継がれず、かつその人たちの評価指標が「単年での(指定校毎の)採用人数」などであったりすれば、彼ら彼女らが「いかに(経営から求められる)人数を(「前年並み」といった数字自体に疑問を持たず)確保するか」ばかりを追いかけるインセンティブを誘発することになります。

 そこで経営者、人事責任者が考えるべき観点は、上記の事態を見越し、いかに中長期的な観点で自社の「人口動態」を作り、または(どの程度の時間軸で)作り替えていくか、そのような視点を持ち、施策に反映できるかです。

 単に部署別の人員数だけを見ても「人口動態」は分かりません。本来あるべきは、各事業部門・職種ごとに等級(年齢)別の人員分布を確認、把握したうえで、各等級、職種ごとにどのような人材を何人採用し、かつ育成を行いながら、並行して(厳しい話ですが)どの程度リテンションと退出の施策を実行すべきかを計画・実施する姿です。現状を分析して全社的な人員計画(案)を作るのは人事部門の仕事であり、現状を把握した上で「あるべき人口動態」を定義し、それを実現させるのが経営者の仕事です。

 では、具体的にはどのような分析を行えば良いのでしょうか。

 多くの日本企業においては、まずは新卒採用で基礎的な人数を確保し、足りない分を中途採用で調達・補充するというやり方が一般的でしょう。各等級・職種ごと(企業規模によっては事業部ごとも)の「人口動態」が明らかになれば、どの職種、等級を何人くらい採用すべきかが明らかになります。この時に、
現場が要求する人員のニーズ(人数、スペック等)と異なる場合は、どちらを優先させるか検討します。

 もし、年齢と給料の相関が高く、また人材の流動性が低いのであれば年齢別構成の把握は重要になります。

 その上で、(「動態」なので)各等級ごとの昇格数・率をコントロールしつつ(これにより各等級ごとの平均滞留年数も変わります)、数年後を見越して有望人材を上位等級に送りこめるよう、(育成計画・戦略的人事異動などを)仕込んでいくという、いわゆる「リーダーシップ・パイプライン」的な仕掛けも取り入れていきたいところです。

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 さらには、各職種、等級ごとの退職率・休職率などを確認・比較することにより、特定の部署や職種などにおける職場環境等の問題を発見するきっかけとすることもできます。

 なお、自社の「人口動態」に対して働きかける際には、「労働市場の環境」という外部要因も考慮する必要があります。

 企業においては、同程度のスキル・能力であれば、より長い在職期間とその間の貢献度(ライフタイムバリュー(LTV))を高く期待できる若年層へのニースが高い(中高年層ほど労働市場での流動性が低いという問題もあります)一方で、第二次ベビーブームの世代から比べると比べていわゆる「若年層」の人数が半減しているという現状があります。企業の人口動態問題は、実は、日本の人口動態における問題の相似形なのです。
 
 幸いなことに、企業における人口動態は、国家におけるそれと異なり、企業の意思において調整をする裁量が多くあります(「新卒・中途採用数の調整」、「希望退職の実施」、「(人材確保のために)他社を買収」等々)。そうであれば、企業は自社・自業態における時間軸(調整期間)を考慮しながら意識的・積極的にその機会を活用し、人口動態の最適化を目指すべきです。(経営戦略を実現するための)組織・人事戦略の一環として、貴社においても「人口動態」のあり方を考えてみてはいかがでしょうか?

 では、Have a nice day!

mizen.co.jp