hrstrategist’s blog

組織人事ストラテジストのつぶやき、業務連絡など。。

新垣結衣さん演じる、「 獣になれない私たち(けもなれ)」の主人公、”深海晶”の給与額について考察してみた。

 こんばんは、みぜん合同会社 組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。

 今年もあと1日となりました。「組織人事ストラテジスト」として独立して4年半、今年もなんとか生き延びることができました。いつもお世話になっている皆さまに感謝です。ありがとうございます。そして、来年もよろしくお願いいたします。
 
 などと今年を振り返っていたら、なんとBlogの更新が1ヶ月以上滞り、12月の投稿がまだゼロであったことに気付きました。Blogを始めた当初(4年前)は「週2回投稿が目標!!」などと寝言を言っておりましたが、ここ2年は月イチ更新がやっとです。「原稿書きの時間を取れない」というのは言い訳で、要するに(面白そうな)ネタを見つけるのがとても大変なのです(と、言い訳をする)。RIZAP様ありがとうございますw。

 「月イチ更新」を維持すべく、かつネタ切れ対策のために今回は趣向を変えて、この間まで楽しく見ていた(ハマッたと言って良いでしょう)ドラマ「 獣になれない私たち(けもなれ)」をネタにしてみようと思いつきました。このドラマをご覧になっていない方は全く興味がないし理解できない内容かと思います、と予め予告しておきます(申し訳ございません)。

www.ntv.co.jp

 本作ですが、「空飛ぶ広報室」の大ファンとしては、野木亜希子さんと新垣結衣さん(ガッキー)の「最強タッグ」(4たび)再来ということで、放送開始前から期待をしていました。世間的にも前評判、期待は高かったようです。

www.tbs.co.jp

 ところが意外にも視聴率は(予想より)伸びず、内容についても「内容が重い」「予想と違った」などと否定的な意見がネットでも見受けられ、賛否両論といった感じです。
(「視聴率」をもって(未だに)作品の成否を評価する風潮には全く賛同しませんが)

realsound.jp

 個人的には、「さすが野木さん、素晴らしい、ありがとう!」というのが感想です。「逃げるは恥だが役に立つ」のヒットで誤解も多いようですが、野木さんの素晴らしさは、どの作品においても「仕事」の描き方の秀逸さであり、その点では期待以上であったと思います。かつ、(録画して)何度も見返すほどに新しい発見がある「味わい深い」コンテンツであったというのが私の評価です。

www.tbs.co.jp

 作品自体への(個人的な)感想を書くとキリがありませんので、本エントリでは「組織人事ストラテジスト」目線で気付き、かつ、おそらくこれまでネット上でもあまり分析されていない(と思われる)視点につき、書いてみようと考えました。
※ネタバレ注意ですが、本作品を視ていないと記述内容はほぼ理解できないと思われます。

 主人公の(新垣結衣さん演じる)”深海晶”というキャラクターへの否定的な意見として、「オシャレな服装を沢山持ちすぎ」「クラフトビアバーに頻繁に行きすぎ」「普通のひとり暮らしのOLがそんなにお金を持っているなんて非現実的で共感できない」といった感想をネット上でチラホラ拝見しましたが、はたして、晶さんのような人は現実ではどのくらいの給料をもらっているのか?その給料でオシャレな服を沢山買ったり、クラフトビアバーに通い詰めることは可能なのか、推測してみました。

 彼女が勤務しているのは、「ツクモ・クリエイト・ジャパン(以下、TCJ社)」という、東京にあるITベンチャー企業で、業務内容は(当初は)「営業アシスタント」です。

 年齢30歳、中途入社で勤続4年、かつ、いろいろと重要な仕事(と、そうでない雑務も)を任されている(第9話では、「特別チーフクリエイター部長」(笑)まで昇進しました)という晶さんの状況を考えると、市場価値として基本給で月給30万円以上は貰っていて全然不思議ではありません(なお、ベンチャー企業における中途入社社員の給料の決め方として、「年齢×1万円=月給」をひとつの「目安」として用いる場合は割とあります)。

 加えて、ドラマ内で描写されている彼女の勤怠状況(恒常的に過剰労働、かつ、深夜残業もあり)では、残業時間もかなり多いはずです。「営業アシスタント」である晶は「管理監督者」ではないし、「裁量労働制」が適用される職種でもありませんから、所定労働時間を超えた「時間外労働」には、時間数に応じた(1.25倍以上の)割増賃金が支払われているはずです。

www.njh.co.jp

www.kaonavi.jp

 計算を簡単にするために所定労働時間を150時間(完全週休2日で概ね1日あたり7.5時間相当)、月給30万円と推定すると、時給は2,000円、残業(時間外労働)25%増の単価は2,500円となりますから、月40時間(1日2時間)残業で残業代は10万円、60時間(1日3時間)で15万円となります。

www.kisoku.jp

 つまり、基本給と残業代の合計で額面月収は最低でも40万円超、賞与を基本給の3~4ヶ月分と推定すれば、年収は600万円を超えます。

 借家の契約更新の書類を見ると家賃は63,000円(文京区であの物件でこの値段は安い!羨ましい!)ですし、ファッションと飲み代以外では浪費をしている感じもありません(仕事と彼氏対応で忙しいし、趣味も無さそうだし)から、多少お高い服や靴を買ったり、バーに通ったり、「生き残り頭脳ゲーム」を(松田龍平さん演じる)"根元恒星"兄弟のために自腹でネットオークションで買ってあげたり(結構な高値が付いているようです)してもまあ問題なさそうな報酬水準と言えるでしょう。

 第2話で恒星が、晶について「小金溜めてそう」と発言していましたが、(晶の服装の変化には気付かない鈍い男の割には)なかなか鋭い指摘をしていますね。

 要は、彼女は能力的にも、処遇的にも、もはや「普通のOL」ではないのです。

 「樫村地所」で働いていた派遣社員時代はそこまで残業も多くなかったでしょうから年収もおよそ300万円台だったでしょう。第2話の、(田中圭さん演ずる)"花井京谷"との回想シーンでの晶の服装(やヘアスタイル)は、いかにも「カツカツなOLの仕事着」風でした(このドラマはそこまで念入りに演出されています)。

 そこから転職して(ようやく)正社員になり、自分の実力で(残業代込みですが)「年収600万」(中間管理職レベル)まで出世したとすれば、晶がたとえ過剰労働に加えてパワハラ、セクハラを受けていたとしても、会社を辞めて今の立場を失うことに大きな不安感、恐怖感を感じるのも理解が出来ます。

 ちなみに、「私の会社では残業代なんて出ない。だからこのドラマは非現実的だ!」という意見も出そうですが、世の中には「きちんと残業代をフルに出す」会社も少なからず存在します(単なる法令順守ですけど)し、ドラマの中でTCJ社従業員たちは、残業代に対する不満の発言を誰もしていなかったので、残業代はきちんと払われていると解釈するのが自然だと思います。

 もう1点、解説します。最終回(第10回)で晶はTCJ社を退職し、「失業手当を貰って、ゆっくり考える」(by晶)ことになりますが、本件に関し、晶は「失業手当」をいつ、どのくらい貰えるのでしょうか?

 「失業手当(雇用保険の基本手当)」の支給要件は、「退職理由」「年齢」「勤続年数(被保険者であった期間)」によって決まります(以下のリンクに解説されています)。

ハローワークインターネットサービス - 基本手当について

ハローワークインターネットサービス - 基本手当の所定給付日数

 晶の場合、自己都合(自ら申し出て)退職、かつ勤続1年以上~10年未満(現職4年+前職2年)の場合、給付日数は「90日(約3ヶ月)分」となります。
(第9話で、晶は(山内圭哉さん演ずる)九十九社長に「さっさと辞めえ、今すぐ辞めえ!」と怒鳴られており、これを「会社から退職を強要された」として争う余地は多いにありますが、最終話で晶は自ら退職届を提出して辞めたので、一応「自己都合退職」として考えます)

 退職理由が自己都合の場合は、「離職票の提出と求職の申込みを行った日」から手当の給付までに7日間の「待機期間」+3ヶ月の「給付制限」期間があります。通常離職票は退職により最後の給与が支給された後に会社より発行されるので、退職日から最初の「失業手当」を受け取るまで、概ね4ヶ月以上間隔が空くことになります。

ハローワークインターネットサービス - 失業された方からのご質問(失業後の生活に関する情報)

 そして「失業手当」額は、30歳以上で月給40万とすると、給付率50%で400,000÷30日×50%=日額6666円(端数切捨て)、月額で約20万円となります。(厳密には、通勤手当等も含めた過去6ヶ月の平均給与額により算定します。)残業代が多ければ、手当ももう少し増えますね。

www.situho.com

tanabota-life.com

 つまり、晶のケースでは、退職してから「約4ヶ月後」から、「約20万円」が、「3ヶ月」分だけ貰えるという計算になります。よって、退職後4ヶ月は自身の貯金で食い繋ぐ必要がある訳です。最終話の、TCJ退職後の恒星との電話での会話(「ビール飲もうよ、一緒に飲みたいよ。」の名場面!)にて、今は「節約生活!」と晶は言っていましたが、4ヶ月間無収入+あと3ヶ月も従来の半分の月収(さらにその先は働かないと無収入)で暮らすのは確かに辛いですが、それでも平気な程度十分な貯金と、生活のための再就職ならいつでも出来るという自信を晶は持っているのでしょうね。

 まあ、節約生活の割には誘われて恒星に会いに(かつ「ナインテールドキャッツ」ビールをおごって貰いに)那須高原まで行っているのですが(愛ですね)。
(東京⇒那須塩原、新幹線で行くと自由席でも片道5,390円(ドラマ設定での12月16日の運賃・料金)します)

※15時前に現地着だと、この列車か?

東京 → 那須塩原|乗換案内|ジョルダン

 という訳で、年末休みの気安さもあり、本業から少し離れて(?)ドラマの設定に対して突っ込んでみましたが、改めて感じるのは、この「獣になれない私たち」というドラマがいかに細かく(矛盾が無いように)設定を突きつめ、ドラマの世界観を作りこんでいるか、ということです。良質な作品からは、いろいろと学びを吸収することが出来ますね。数え上げればきりがありませんが、例えば、最終話での「終わってないよ。変わっただけ」「それでも飲む」という晶のセリフ(長くなるのでやめておきます…)。

 ご本人のTwitterコメントによれば、2019年の新作は無いそうですが、いちファンとして、野木さんの次回作を大いに期待して、じっくり待ちたいと思います!

 

 ではでは、みなさま良いお年を。Have a Happy New Year!