hrstrategist’s blog

組織人事ストラテジストのつぶやき、業務連絡など。。

「4ドアのジムニー」と労働政策

 こんにちは、みぜん合同会社 組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。

 だいぶBlog投稿をサボっていましたが、元気です。それなりに忙しかったのと、なかなかネタを思いつかなかったので執筆が後回しになっていました。

 今回は、ある2つの記事を読んで思ったことを書こうと思います。ひとつは、先日20年ぶりにモデルチェンジを行ったところ大人気となり、未だに長期の納車待ちという、「スズキ ジムニー」について、開発担当者にインタビューした記事です。開発者の米澤さんと取材者のフェルディナント・ヤマグチさんのやり取りが大変興味深いものでした。

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business.nikkei.com

ジムニーはスズキを代表する特別なクルマだ。
 特別な思い入れを持つ人が多いため、開発に関して、社内外からアレコレと口を出してくる人が大勢いる。」

「それはもう、ありとあらゆることですよ。それをいちいち100%聞いていたら、もうジムニーどころか、クルマじゃなくなっちゃうんですよ」

「社内外とも、関係のない外野の人がいろいろ言ってきますね。もっと大きくしてくれとか、そんなことを。基本骨格さえ決まってしまえば、それ以降はもう自分の中では味付けの領域なので、何を言われても関係ないんですけどね。」

「確かに4枚ドアを望む声は多く寄せられているのですが、今の形がいいという新しいお客さんにもたくさん来ていただいているので、計画はないですね。それにホイールベースを延ばしてしまうと、アングルも変わってきて最小回転半径も大きくなってしまう。すると悪路走破性も変わってしまう、そうなるともう……。」
ジムニージムニーでなくなってしまう、と。」
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 要は、「外野」の意見は一切無視をして、ジムニーという車に求められる本質的な性能と商品性(軽自動車である、高すぎない価格、取り回し・悪路走破性の維持、現在の要求水準に適合した安全装備など)を開発者が軸をブレさせずに突き詰めた結果として、多くの消費者から熱狂的に歓迎される「新しい名車」が出来上がったということです。いい話ですね。

※一方で、4ドア(5ドア)ジムニー発売の噂は根強くあるようです。

bestcarweb.jp

 

 ふたつ目に気になった話は、(業界が全然違いますが)、労働法の専門家である、神戸大学大学院 大内伸哉先生の記事です。

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lavoroeamore.cocolog-nifty.com

「4月から高度プロフェッショナル制度が導入されています。誕生したときから,自由に羽ばたけないように重しをいっぱいつけられた可哀想な鳥のような制度です。」

「本来,(労働時間規制の)適用除外であることの意味は,時間外労働の抑制手段として,割増賃金を使わないところにあります。」

「論理的に考えると,この制度を適用してよいのは,時間管理を本人に任せてよい労働者となります。そうした労働者の範囲をどのように画するかについての基準は,いろいろありえるのですが,イメージは,知的創造的な仕事に従事している人です。」

「これが現在の高度プロフェッショナル制度と大きく違うのは明らかです。」

「自分で健康管理をできないかもしれないから,法が休息や健康管理に配慮してあげなければならないということでしょうが,私の考えでは,そういう人は,そもそもエグゼンプションの対象としてはならないのです。エグゼンプションの対象とするから,休息や健康管理はより厳格に法が配慮するというのは,論理的におかしいのです。」
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 2019年4月から施行された「高度プロフェッショナル制度」とは、「高度な専門知識」かつ「一定水準以上の年収(現時点では1075万円)を得る」労働者に対して、(本人同意の上で)残業代の支払などの労働時間規制の対象から除外することを可能にする制度のことです。

高度プロフェッショナル制度 わかりやすい解説
厚生労働省、わかりやすいという割には32ページもある!)

https://www.mhlw.go.jp/content/000497408.pdf

ja.wikipedia.org

 大内先生は、いわゆる「ホワイトカラーエグゼンプション」導入の議論が、マスコミや労働組合などの反対勢力により「残業代ゼロ法案」といったレッテルを貼り執拗に抵抗されてきた結果、本来あるべき姿とかけ離れた形で「高度プロフェッショナル制度」が出来上がったことについて(皮肉っぽく)感想を書かれています。

ja.wikipedia.org

 出来上がった「高度プロフェッショナル制度」の中身を見ると、いったいこの国に本制度適用の対象者(年収1075万以上&高度の専門性&管理監督者でない)が何人存在するのか(少なくとも「万単位」ではないでしょう)、10年以上の期間を掛けて導入可否を大騒ぎする必要があったのか、対象者に対してより厳格な「健康・福祉確保措置」を確保する必要があるのか(大内先生は「論理的におかしい」「政治的な妥協」と言い切っています)といったツッコミどころがいくつもあります。

 要は、本質的な正攻法の議論は避け、政治的な妥協は重ねてでも「ホワイトカラーエグゼンプション」的なものを「アリの一穴」的にまずは導入してしまえという事なのでしょう。そのような(誰かさんの)「執念」を感じます。法案を通すことが最優先だとすれば、上記のような「変なところ」もある意味確信犯なのでしょう。

 そこで(ようやく)冒頭のジムニーの話に戻るのですが、本件に限らず、(大内先生も愚痴られているように)、今の労働政策は、「4枚ドアのジムニー」になっていないかと思った訳です。「外野」の意見に配慮し、政治的妥協をしすぎた結果、当初目指した政策の目的・意図とはかけ離れたパッチワークのようなものが出来上がってしまっている気がします。とはいえ政策は「法案を通してナンボ」であり、そうしない限りどれだけ議論をしても現状は何も変わらないという面は理解していますが。
  
 ちなみに、民間企業における意思決定でも「4ドアのジムニー」的な話は少なくありません。会議を通すために、当初の施策案の「とげ」が抜かれて毒にも薬にもならないものとなり、結果としてその施策の優位性が無くなってしまい、失敗するという事象です。

 例えば、下記の本は「破綻企業に共通する意思決定の法則」についての研究なのですが、破綻企業の共通点として、「ミドルが多大な労力を事前調整にかける」「調整プロセスは(略)強い妥協色を帯びる」点を指摘しています。

「衰退の法則」小城武彦

 この2つの話の教訓としてまとめるなら以下のようなことではないでしょうか。
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1.何らかの成果物を作る際には、「何を目的・ゴールとするか」、「それを達成するために何を追求し、何を捨てるか」という判断軸がブレずに意思決定する「プロデューサー」的存在が必要
2.上記「プロデューサー」に権限を全面委任し、たとえそれが上司やスポンサーだったとしてもあらゆる「外野」の口出しを排除する。
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 とりとめのないまとめ方になりましたが、皆さまにとって何らかの参考になればと思います。

 では、Have a nice weekend!