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組織人事ストラテジストのつぶやき、業務連絡など。。

リクルートマーケティングパートナーズ社で、リモートワーク(在宅勤務)の話をお伺いしました。

 おはようございます、組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。東京地方は雨が降り出しております。気温も下がり、だんだん冬が近づいてきましたね。 

 さて、今日のテーマは、またまた「リモートワーク」です。

 先日、株式会社人材研究所様で開催された「リモートワークを語る会」という、ゆるい勉強会(by 曽和社長)にて、株式会社リクルートマーケティングパートナーズ(以下RMP社)の宇尾野彰大さんより、RMP社におけるリモートワーク(在宅勤務、テレワーク)の取り組みと導入の経緯についてお話をお伺いした件は、以前に本Blogにてご紹介させて頂きました。

リクルートマーケティングパートナーズ社の、リモートワーク(在宅勤務)の話をお伺いしました。 - hrstrategist’s blog

 そして、このたび同社よりお声がけ頂き、改めて「リモートワーク」の取り組みについて取材することが可能になりました。そこで早速(でもないですが)先日京橋のオフィスに訪問し、広報桑原さま、人事岡さまにお話をお伺いすることができました。桑原さん、岡さん、ありがとうございました!(写真を撮っておけばよかった!)

 先日の日経新聞にも大きく取り上げられたように、リクルートグループのリモートワークの取り組みは世間的にも関心が高いと思われます。宇尾野さん、桑原さん、岡さんにお伺いしたRMP社の先進事例をここにご紹介させて頂きますので、ぜひ、各社で在宅勤務を推進する際の参考にして下さい。

リクルートマーケティングパートナーズ社における在宅勤務の取り組み
 株式会社リクルートホールディングスのグループ会社である株式会社リクルートマーケティングパートナーズでは、オフィスに出社せず、働く場所に囚われずに(自宅やシェアオフィス、カフェ等で)勤務する働き方である「リモートワーク」を2015年2月から開始し、グループ内でも他社に先駆けで実践してきました。当初はトライアルとして始められたこの取り組みですが、RMP社では、既に2015年10月より本格導入フェーズに移行しております(このスピード感も凄いですね)。

 RMP社におけるリモートワークのトライアルは、まず2月から1ヶ月間、希望するマネージャーが手を上げて自部署で実践するという形で実施されたそうです。トライアルの目的は、リモートワークの「有効性」と「実施によるクリティカルな問題・課題の有無」の確認でしたが、結果が非常に良好、かつ好評だったため、RMP社では徐々にトライアルの対象範囲を拡大し、最終的に10月からの会社全体での本格導入に繋がったそうです。

 本格導入後のリモートワーク実施状況ですが、対象範囲の制限は基本的に無く、派遣社員を除く直雇用の社員は原則全員OKだそうです。リモートワークの実施がデフォルトとなっているため、業務上の都合でリモートワークを制限するのは部署としての「個別ルール」という扱いであり、人事も「どの部署がリモートワークをしている、していない」という管理は10月以降はしていないとのことでした。

 ただし一部例外は設けています。入社半年以内の方(新卒、中途いずれも)は一律禁止(会社に慣れるまでは駄目という意味で、これは納得できます)で、あとは部署ではなくセキュリティ上の理由で自宅等に持ち帰れない一部特定の業務に関しては(業務単位で)リモートワークを禁止しているそうです。

 また、パフォーマンスが低下している部下等に対して、一時的にリモートワークを制限する権限(「当面、1週間くらいは出社するようにしようか。」といった感じで)は上長に与えているそうです。とはいえ、そういうケースはほとんどないのでは(さすが、レベルが高い!)、ということでした。

〇リモートワーク導入の背景
 RMP社がリモートワーク導入に踏み切った一番の目的は、「労働生産性の向上」です。元々皆さん熱心に忙しく仕事をされていた訳ですが、これまでと違う新しいチャレンジを行うには、労働生産性を向上させ、従来業務に費やす労働時間を圧縮して時間を捻出しなければいけないという経営サイドの危機感・課題感が元々あったそうです。

 また、RMP社では「ゼクシィ」など女性が意思決定に関わるようなサービスが多いにも関わらず、女性の管理職比率が低いのはなぜか、という問題意識がありました。こういった女性活用の議論をする中でも、いわゆる「ダイバーシティ」が目的ではなく、組織全体の生産性向上により、結果としてダイバーシティが実現するというのが正しい順序なのではという結論に至り、全社での「ワークスタイル変革」をトップダウンで実施することになったそうです。目の前の問題に表面的に対応するのでなく、本質的な問題発見・解決に取り組まれているのはさすがです。

 なお、「あくまで目的は生産性向上であり、そのためにワークスタイル変革を実施しています。「リモートワーク」の実施はあくまでワークスタイル変革のための手段の一つに過ぎません。」という点を、桑原さんと岡さんは強調されていました。

 生産性向上により従来業務に費やす時間を圧縮することで、新しい提案や新規事業に掛ける時間が捻出できるし、自己啓発や家庭に費やせる時間も増えるようになる。ケアが必要な一部の人を助ける個別施策でなく、そもそもリモートワークなどの「ワークスタイル変革」によって全員の生産性を上げるのが本質ではないかという議論にいきついた訳です。そして、実際に最もリモートワークの恩恵を受けてるいのは営業スタッフではないかという事でした。客先の往訪の合間にオフィスに立ち寄る移動時間が削減できるという事ですね。
 
〇リモートワークの課題
 RMP社での2月からのトライアル期間では、リモートワークを実践する中で、いくつかの課題が発生しました。

・自宅で働けない問題
 一人暮らしなら良いですが、家族、特に小さいお子さんがいらっしゃる家庭では、家で仕事をするというのもなかなか容易ではありません。カフェなどを利用するにしても、一つのお店にあまり長居をすることはできませんし、(周囲の客に話を聞かれたり、迷惑を掛けたりする懸念から)電話やWebを使った遠隔会議の実施もお店によってはなかなかハードルが高いです。

・情報セキュリティ問題
情報セキュリティに関するリスクマネジメントの問題もあります。リモートワークで働いていると、「紙の資料を捨てる際のシュレッダーがない」「PCの施錠ができない」「カフェだと機密資料を扱えない」「万が一資料紛失等のトラブルがあった際の初動が遅れるのでは」といった懸念も上がりました。

・業務アサインメント問題
 元々リクルートは、「ミッションマネジメント(経営理念を体現化する経営)」がよく出来ている(指示が無いと何もやらない、できない、ということはない)会社であり、「リモートワークだと社員がサボるのではないか」という懸念に関してはあまり問題になっていないようです(素晴らしい社風だと思います)。なお、労働時間は「自己申告制」とのことで、細かい管理はしていないようです。

 ただし、働き方(働かせ方)という面での課題として、「要件定義ができていない仕事」に関してはマネジメントが難しいとの意見が出たそうです。業務分担や求めるゴールが曖昧(不明確)で、手探りで進めていく業務というのは特に企画系の仕事などではあり得ることですね。

・リモート会議への対応
 当初はそれぞれの社員が対応に慣れていない面もあり、皆が一堂に会する会議に比べて、リモートで実施する電話・テレビ会議への対応に苦慮している面があったそうです。例えば、電話の音声や画面越しに相手の反応(リアクション)を感じることが難しいため、ファシリテーションが難しい。または、機器の問題で音声が聞き取りづらく、会議に集中しづらいなどなど。

・その他の課題
 上記に加えて、「組織が生む創造性が生まれづらいと感じる」「偶発的なつながりの頻度が減る」「組織風土にたいするロイヤリティが薄まるのでは」といった声も一部上がったそうです。

 同じ場所にいることによる、「周りの会話が聞こえる」「すれ違った人との何気ない会話」「誰がどんな時に褒められ、叱られるのか」といった無意識的な情報のやり取りの機会の現象が、中長期的に創発的・創造的な機会の減少、企業の活力の低下に繋がるのではないかという懸念が出ているそうで、これに対してコミュニケーションスタイルの変化や新たなツールの導入などを意識的に取り組まれているそうです。

 これらの課題については、トライアル期間中にほぼ対応は済み、解決されたそうです。ただし、本格導入後の今でも「リモートワークでの部下マネジメントと若手育成」については継続的な課題として唯一残っているとのことでした。

・高度なマネジメントが求められる
 元々リクルートでは、新人・若手のマネジメントは「背中を見て学べ」といった(ハイコンテキストな)社内文化であり、リモートワークを導入する際には、従来とは異なったコミュニケーション方法を工夫する必要があることは改めて認識されたそうです。特に若手社員にとっては、従来と比べて、物理的にすぐそばにいない分、ちょっとした事を上司や先輩に相談しづらいという声もあるようです。

 RMP社では、この(難しい)課題に対する解決策の一つとして、新人・若手向けに、社内でタスクマネジメントに関するオンライン講座を始めたそうです。リモートで働くには、各個人がより自律して働けることが重要ということで、従来は暗黙知的に伝えていたスキルを、形式知化して研修しているのです。また、これだけでなく、従来に比べて社内的な研修、勉強会の場は圧倒的に増えているそうです。

 例えば、トップ営業マンの話を聞き、ワークショップ形式でディスカッションする営業塾などの取り組みが行われているそうです(リモートワークの方もオンラインでも受講可能、また、後から動画も見ることができるそうです。徹底していますね)。リモートワークによる生産性向上で生まれた時間を研修・勉強に充てることが出来るようになれば、非常によい循環となりそうですね。また、他にもいろいろとトライアルをしている最中とのことでした。

 リクルートグループの中でも先行して取り組まれているRMP社のお話をお伺いする事ができ、非常に参考になりました。大企業ながら、トップダウンでこのような取り組みをいち早く進めるリクルートグループの取り組みは、他の会社にとっても大変参考になる先進事例です。今後とも引き続き注目していきたいですね。

 では、Have a nice day!