hrstrategist’s blog

組織人事ストラテジストのつぶやき、業務連絡など。。

事業再生じゃなくても問われる当たり前

 おはようございます、組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。もうクリスマスですか。キリスト教徒でもなく、子供もいない我が家では縁のないイベントではありますが、ともあれ1年は早いものだと感じます(おやじ発言ですが)。独立して1年半、今年も何とか生き延びることができました。これも応援して下さる皆さんのおかげです。ありがとうございます。

 おそらく今年最後となるであろう今回のエントリを記念して(?)、私の大学院時代の同級生である、マーサー ジャパン株式会社の組織・人事変革コンサルタント 吉田継人さんの執筆されたコラムをご紹介させて頂きます。

 テーマは、「事業再生という局面で、人事的に行わなければならないこと」で、私自身が過去に事業再生に当事者として関わった経験を思い出し、うんうんと深く頷きながら興味深く読みました。

www.mercer.co.jp

 吉田さんご本人によれば(先日忘年会でお会いした際に直接聞きました)、このコラムは「実は短い時間で書き上げた」とのことでした。それが功を奏して?文章に勢いがあり、吉田さんの想いがとても良く伝わる良記事になったのではないかと思います。

 本当は全文を引用したい位なのですが、リンクした記事を直接ご覧いただくことにして、私が「その通り!」と共感した部分をいくつか紹介いたします。

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「(事業再生の局面で)人員削減により固定費を削減することは急務であるが、同時に再生を牽引する人材を如何に確保し、動機づけて、高いパフォーマンスを発揮してもらうのかを考え、実行する必要がある。」

「重要になるのは、希望退職における社員へのコミュニケーションと人事制度改定を同時に実施して、経営から社員に適切なメッセージを送ることにある」

「(年功序列型など業績・貢献度に報酬が紐付かない)人事制度では、会社業績と社員個々人のパフォーマンスの関係が曖昧なまま報酬が支払われるということになり、パフォーマンスの低い社員にとって居心地が良く、希望退職を募集してもこのような社員が社外のキャリアを選択するというインセンティブに乏しい。」

「最も重要なのは限りある人件費を最適に配分する仕組みを作り、実行するということである。(略)人件費を会社業績に連動させ、会社業績が良ければそれに応じて一人当たり人件費が上がり、個人のパフォーマンスによっては、業績不振に陥る前よりも高い報酬を手にする可能性を残す。逆にパフォーマンスが低ければ、これまで配分されてきたよりも少ない処遇が配分されることになる。」

「人事制度改革によって成し遂げなければならないのは、ローパフォーマーにとっては居心地が悪く、ハイパフォーマーにとっては成果が報われる制度である。このように書いてみると、あまりにも当たり前すぎて本コラムの載せることに若干の躊躇はあるものの、実際にご相談を頂いて人事制度に関する資料を拝見すると、この当然やるべきことが為されていないケースが殆どである。」
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 という訳で、個人的にはまさに「我が意を得たり」なのですが、ただ引用するだけでは芸が無いので、(せめて)少し補足させて頂くことにします。

 ここで吉田さんは、「ローパフォーマーにとっては居心地が悪く、ハイパフォーマーにとっては成果が報われる制度」を取り入れるという提言が「当たり前すぎる」と言っています。これは私にとっても至極当たり前な感覚です。しかし、現実には事業再生に至っていない普通の企業であっても、このような「当たり前」な評価・報酬制度が取り入れられていない、またはうまく運用されていない企業は少なくありません。

 それは年功序列的な仕組みだけを指すのではありません。例えば、中途入社社員の給料を「前職見合いの給料」で決め、その後も実際の貢献度と連動した修正がされず、貢献度と報酬額の相関度が低くなっている会社も少なからず見受けられます。

 「(事業再生の相談に来るような会社は、人事制度に関して)当然やるべきことが為されていないケースが殆どである。」と吉田さんが言い切られておりますが、本来ならば「当たり前」のことが出来ていない多くの企業が他山の石とすべき話にもかかわらず、皮肉にもそのような企業にとって、「当たり前」の感覚、「やるべきこと(やるべきでないこと)の基準が違うが故に、このメッセージはなかなか伝わり辛いのでしょう。

 でも、それではいけないのです。
 

biz-journal.jp

 上記も大変参考になる記事です。この記事では、自身が会社を倒産させた経験がある元社長が挙げる「倒産の原因ベスト10」が挙げられています。これらの原因は、「直因・遠因共にすべて経営トップ(社長)に起因する」そうです。また、同時に「倒産する社長の共通10項目」も挙げられており、筆者である新将命氏は、「倒産の原因は社員でもなく世の中の景気でもなく、企業の頭としての自分自身であるという、倒産社長の遅まきながらの反省を込めた告白から学ぶところ大である。」とまとめられています。少なくとも、会社に中で何らかの問題が解決されずにいるというのは、少なからず経営者にその責任があるという事です。

 「ローパフォーマーにとっては居心地が悪く、ハイパフォーマーにとっては成果が報われる制度」の導入・運用という、「当たり前」のことを多くの会社が出来ない理由は2つしかありません。経営者の目が曇っていて「当たり前」のことを「当たり前」と認識していないか、または別の誘惑または圧力に負けて「当たり前」のことを蔑ろにするかのどちらかです。

 例えば、「ローパフォーマーの報酬額を下げる」ことすらやりたがらない、できない社長は本当に多いです。人事評価の結果・報酬額のダウンを本人に伝えて納得させるプロセスを自分の責任においてやるのが嫌なのでしょう。従業員に嫌われたくないという感情が先に立ち、「限りある人件費・報酬額の最適配分を実現する」という、「当たり前」の経営判断よりその感情が優先されがちなのです。

 一方で、そのような社長は、会社への貢献度が高い社員に対しても応分に報いようとしなかったりします。人件費という資源を最適配分する努力を放棄し、「予算が無いから」「他の人よりあなたを多く昇給させたから」という言い訳を平気でして、自己正当化するのです。おそらく社長ご本人にとってはそれが「当たり前」の世界なのでしょう。残念ながら。

 ところが、従業員はそのような経営者の姿勢を実によく見ています。「うちの社長は、きちんと筋を通せるのか」、「反対意見や抵抗勢力に対して腹を括れているか」を観察し、認識しています。表面的には従業員に優しそうな事を言っていてもお見通しです。そして、優秀な従業員はシラけ、幻滅し、やがてタイミングを見て会社を去ります。おそらくもっともらしい別の退職理由と共に。

 そうならないために、経営者はどう腹を括れば良いのでしょう。

 私は次のように考えます。まずは、自社にとっての「当たり前」が、本来の「当たり前」の姿と合っているか、ずれていないかを確認することです。内部の人間だけではどうしてもバイアスが掛かりがちなので、外部の専門家(吉田さんや私のような)に検証してもらうのも良いでしょう。

 その上で経営者自身が「頑張っている、貢献している人に報いる」姿勢を常に示し、その姿勢を一貫する事、目先の安易な(本質から外れる)方策に走らない事です。これを貫くのは強い精神力が必要ですが、より高い志の元で、正しいことをしているのだという意識で、襟を正しましょう。

 吉田さんの元上司である経営コンサルタント、株式会社CORESCOの古森 剛さんも、吉田さんのコラムへの感想として、「多くの人は当たり前と分かっていることが出来ない。当たり前のことを普通に実行し続けると「凄い」ことになる」という趣旨のコメントをされていましたが、全く同感です。

www.coresco.net

 そう、周囲の声に惑わされず、愚直に「当たり前」を追求し、続けることが、事業再生のようなダウンサイドの状況にまで追い込まれるリスクを「未然に防ぐ」ために必要なのです。「事業再生の当たり前」は、事業再生に至る前、もっと言えば最初から「当たり前」だったはずなのですから。

 そして、未然に防ぎ、当たり前のことをする、そのための手伝いをするのが「組織人事ストラテジスト」の役目でございます。ということで、お後がよろしいようで。。

 では、みなさま、Happy Holidays!

※本エントリと同様の話をしております。

貴社の人事評価制度は人件費をコントロールできますか? - hrstrategist’s blog


※「当たり前」を知るためのお勧め本です。