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記事公開:経営理念と人事の関連性 「月刊 人事マネジメント クラウド人事部長に聞く 経営人事のQ&A」

 こんにちは、組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。

 「月刊 人事マネジメント」の連載記事ですが、掲載から1ヶ月経ち、Webでの転載が可能になった2016年3月号(連載2回目)の記事内容をシェアをさせて頂きます。みなさまの参考になればと思います。

※こちらは前回のエントリです。

hrstrategist.hatenablog.com

 Blogの仕様上PDFファイルを添付できませんので、もしPDFファイルがご希望の方は、arainoori[at]gmail.comまでご一方下さい!

以下、記事内容です。雑誌のページをJPG化して一番下にも貼りました。

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 急成長する中で日々、組織と人事に関する課題に悩むベンチャー企業の創業社長と、俯瞰的視座から人事アドバイザリーとして社長を助ける「クラウド人事部長」との対話の第2回目。今回は、経営と組織・人事における「一貫したストーリー」と各施策の繋がりの重要性の話です。

・第2回:経営理念と人事の関連性
なぜストーリーが必要か?
社長:企業の規模が大きくなると人事部門でも「タコツボ化」が進みがちということだけど、なぜそのようなことが起きるんだい?みんな仲良くすればいいじゃないか。

クラウド人事部長:一部悪意のある例外はありますが、大半は好き好んでそうしているわけではありません。ケンカをするより、なあなあで仲良くする方が楽ですしね。自分は会社のためを思って頑張っていると信じている人たちがほとんどです。問題は、それぞれの人や部署によって「正しいこと」「頑張ること」の定義が異なることなのです。その結果、担当者やマネージャーごとに異なる「正義」がぶつかり合い、また、互いの考え方をよく知らないゆえに、警戒して歩み寄ることができず、結果として全体最適を損なっているのです。「俺はこんなに頑張っているのに、正しくないあいつらが邪魔をして困る。」と。相手も同じことを思っているのですけどね。

社長:でもうちの会社には経営理念があるのだから、それに従って頑張るのが「正しいこと」じゃないのか。そんなことも、みんな分からないのか。

クラウド人事部長:経営者が経営理念を謳い、願うだけではそれが叶うことはありません。どのように素晴らしい理念でも、末端の従業員には響かないのが現実です。なぜなら、経営者の掲げる「理念」は、時には「雑務」と思えるような今の自分の仕事とのギャップが大きすぎて実感が湧かないのです。「理念」は自分とは関係なく経営者が勝手に言っている絵空事にしか思えず、ときには、「面倒くさい汚れ仕事は自分たちに押し付けて、社長だけがきれいごとを言ってチヤホヤされてるよ」などと逆恨みをしたり、白けたりします。

社長:じゃあ、社長はどうすればいいんだ?立派な経営理念を作っても無駄だし、かえって逆効果ということか?

クラウド人事部長:今の自分の仕事が、どのように会社の「経営理念」の実現につながるかという「一貫したストーリー」を会社や上司は示さないといけません。社長がすべてを見渡すことができた頃は、部下が社長の背中を見ることで「経営理念」と「ストーリー」はある程度伝わっていたのだと思います。しかし、従業員数が増えると社長からそれを直接伝えることが難しくなっていきます。

「拠って立つ所」とは?
社長:そうだね、さすがに社員全員と密なコミュニケーションをするのは現実的でなくなるな。

クラウド人事部長:そうなると、元々社長が行っていた「ストーリー」を語るコミュニケーションは中間管理職であるマネージャーに権限移譲をせざるを得なくなります。彼らの役割は重大ですが、社長はマネージャーに対してどのように権限移譲をされましたか?

社長:え!?「権限移譲」として何かをマネージャーに指示した覚えは無いなあ。

クラウド人事部長:そうでしょうね。その結果マネージャーは、「社長はこう思っているらしい」という自身の推測と解釈を基に、自部署の方針を決めて部下に指示することになります。でも、その解釈は当然ながら、マネージャー自身のバイアスによって曲がり、違うものとなります。

社長:言われてみると確かにそうかもしれないね。

クラウド人事部長:もしその方針が間違えていたとしても、それが「間違えている」と確信をもって言えるのは社長だけです。たとえ他の人が指摘しても、「それは解釈の違いですから」という水掛け論にしかなりません。要は、「口述伝承」ではだめなのです。

社長:こちらが伝えたつもりでも、伝言ゲームになってしまい、相手に正しく伝わっていかないということだね。

クラウド人事部長:そして、各マネージャーそれぞれの「正しいこと」「頑張ること」の解釈の違いが、「異なる正義」となり、「タコツボ化」につながってしまうのです。

社長:なるほど、そういうことなんだね。

クラウド人事部長:そうならないためには、まずは「拠って立つ所」として、ビジョン(組織が目指す、あるべき「社会」の姿)・ミッション(ビジョンを実現するために、「組織」がどのように行動し、社会に貢献するか)・バリュー(ビジョン・ミッションを実現するために従業員「個人」1人ひとりが持つべき価値観)を明記した「経営理念」を定めることが必要です。自社の経営理念が、この3つの項目を過不足なく表現できているか確かめてみて下さい。もし過不足があれば、従業員に対するメッセージが弱くなり、社長の真意が曲がって解釈される恐れが大きくなります。

「腑に落ちる」伝え方とは?
社長:そういう観点でチェックしたことは無かったな。分かった、やってみるよ。

クラウド人事部長:その上で、「一貫したストーリー」を従業員に伝えるのは、「権限移譲」をされたマネージャーの役目となります。マネージャーには、「経営理念」を十分に理解し、それを自分の経験に照らし、自身の言葉で噛み砕いて、部下が「腑に落ちる」ように伝えてもらう必要があります。

社長:「腑に落ちる」とは?

クラウド人事部長:極論すれば、どんなに正しいことであっても、その人にとっての「モチベーション」と「インセンティブ」が無ければ人は自らの意思で動きません。モチベーションとは、その人が「どうしたいか」であり、インセンティブとはその人にとって「損か、得か」ということです。上位概念である経営理念、それに則った経営戦略の実現のために自分は何を求められ、何をすべきかを、上司であるマネージャーは部下に説明しないといけませんが、加えて、それがその人の「やりたいこと」につながり、それをするのが「得」であることも示す必要があるのです。そこまでやって、その人にとっての「自分ごと」にならなければ、部下は動きません。

社長:いきなりそれをうちのマネージャーにやれと言っても、なかなかうまく出来そうにないな…。

クラウド人事部長:おっしゃる通りです。会社はマネージャーを支援する必要があります。体系化された経営理念の提示だけでなく、さらには、例えばバリューをより具体化し、どのような行動が「賞賛」されるのかを示した「行動指針」を明示したり、行動指針に沿った行動がどのように成果に繋がったかという成功事例を収集し、「伝説」として社員に伝えたりというような施策まで踏み込んで行きたいですね。そして、これらの施策を推進するのは、人事の役割です。

社長:そうか、人事の仕事は思ったより奥深いね。

クラウド人事部長:そして、個人・部署の損得ではなく、全体最適≒経営戦略・理念の実現のために、従業員自らができる役割を果たし、貢献する意識を持つこと、そして、そのような貢献に対してしっかりと報酬・評価などで報いてあげることが「タコツボ化」を防ぐために肝要なことなのです。

社長:言われてみるとおっしゃる通りだね。もっとそういうことを意識しないといけないなあ。

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