hrstrategist’s blog

組織人事ストラテジストのつぶやき、業務連絡など。。

月末に思う、給与計算の話。

 こんにちは、みぜん合同会社 組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。

 東京地方では、爽やかで湿度の低い、5月の気候もそろそろ終わりつつあります。そして、湿度が高く、雨が多い(そしてバイクに乗れない)梅雨がやって来ます。そのあとは長い夏…。早くまた涼しい季節(秋~冬)が来ないかと、すでに待ち遠しいです。湿気は嫌いです。。

 さて、今月も無事に月末を迎えました。毎月の最終営業日は、各クライアント様より当社の売上を振り込みいただく期日となっております。朝一番に全て入金を確認できると有難いのですが、客先によっては毎回お昼頃に入金となるので、予定した入金がすべて確認できるまでは、なかなか落ち着くことが出来ません(小心者なので)。

 だいぶ昔の話ですが、貸しビルを所有する人の事務所で一時働いていたことがあり、そのオーナー氏が毎月末に賃料の入金にヤキモキしていたことを思い出しました。

 また、新人の頃にいた会社(某不動産ディベロッパー会社)では、調達を担当する部署の先輩が、「ぼくが振込を間違えたら、相手の会社が飛ぶ(倒産する)。だから大変なんだよ」という話をしていたことも思い出します。多くの企業にとって「資金繰り」がいかに重要かを、実際に関わっている方の話を聞いて認識したきっかけでした。

 全ての会社がそのような緊張感を持って支払手続をしているのなら良いのですが、現実にはなかなかそうも行きません。私自身の経験で言えば、お客様からの入金が無く、先方担当の方に確認すると、「すみません忘れていました」「期日を間違えていました」といった事が、年に何回かあります(幸いながら「焦げ付き」はいままで発生しておりません。大変有難い話です)。

 人のやることなので、ミスはつきものなのですが、これが例えば自身が働く会社の給料が給料日に振り込まれませんでした、という話であれば、どのように感じるでしょうか?おそらく、上記の先輩が言っていた、「下手すれば飛ぶ」というのと同様の緊張感をもってちゃんと処理して下さいよ、と給与計算の担当者に文句を言いたくなることでしょう。

 でも、「自身の給与が、給与計算担当者のミスによって振り込まれなかった」ことって今までありますか(会社の業績が悪くて支払遅延、というのは担当者のミスではないので含まれません)?

 多少の振込金額の誤りの経験はあるかもしれませんが、そのような事故をこれまで経験した方は、恐らくほとんどいないのではと思います(少なくとも、今の私の「年に数度」という頻度の人はほぼ皆無でしょう)。

 つまり、給与計算の担当者は「間違えなくて当たり前、間違えたら猛烈に怒られる」という、プレッシャーの掛かる立場にあり、かつ、しっかりと求められたレベルの業務を(概ね)遂行しているのです。

 給与計算担当者の仕事は、誰でも出来るわけでない、プロフェッショナルの仕事です。まず、計算処理を伴うものである以上、事務担当者として高いレベルの正確性と処理スピードが求められます。

 それだけではありません。口が軽い人、うわさが好きな人には向かない仕事です。何しろ自分の同僚や上司、さらに社長や会長の報酬額まで丸見えな訳です。そのような数字をみて(心のなかでは色々と想いはありつつ)表面上は顔色を変えず、感情を乱さず、日々の業務を行う必要があります。私の元上司はよく、「人事担当者は”つるまない”人が良い」と言っていましたが、給与計算の担当者は特にそれが当てはまります。

 また、給与計算担当者は忍耐強くないといけません。工場でいえば、上位工程から下位工程に製品が流れてくるようなイメージで、給料や残業代、各種手当などの情報、また、入社・退社・休職・復職といったデータを取りまとめ、それを金額に反映した上で、銀行に振込額のデータを送る(そして部署別に経費計上の仕訳を切り、経理に提出する)までが給与計算担当者の仕事です。

 ところが残念ながら、ほとんどの会社において、上位工程から流れる情報の精度は必ずしも高くなく、情報の流れは常に遅れがちです。結果的にシワ寄せは、最も下流である給与計算担当者に及びます。不良品が下位工程まで流れ、それを最後に短い時間で必死に検品し、差し戻しをしているような状況です。

 例えば、以下のようなケースはざらにあります。
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・退職者の情報が未達⇒遡って給与日割り、過払い分の回収の手間が増える
・欠勤の情報が未達⇒翌月以降に控除処理が必要
・入社時の書類不備⇒氏名、銀行口座等が違うと振り込みができない
・採用時の個別契約条項の未達⇒「Sign onボーナス」、「1年間月給固定」「賞与固定」といった項目が給与計算担当者に伝わらず、通常処理をして本人からクレームが来る
・採用時の個別契約条項の多発(家賃補助等)⇒イレギュラーチェック項目の増加
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 上位工程の不具合を全部受け、限られた時間の中でその不具合を修正(尻拭い)しなければならず、加えて締切厳守の中でアウトプットである給与支給額は絶対に間違えてはいけないという、プレッシャーの掛かる大変な仕事を、給与計算担当者はやっているのです。

 ところが、往々にして、経営者は人事や給与計算を「誰でも出来る仕事」と認識しがちです。または、給与計算を外注し、社内に担当者を置かなくても良いではないか、という考え方もあります。実際に、給与計算の作業自体を外注業者に業務委託する会社も増えています。

 しかし、その場合でも、最終の品質チェックは内部の担当者がしっかり行う必要があります。というのも、自社で優秀な給与計算担当者の確保が容易でないのと同様に、外注業者にとっても、優秀な担当者を採用・確保することは簡単でありません。つまり、外注したからといって、業者が完璧に仕事をしてくれるとは限らないのです(更には優秀な担当者は、要求品質の高い「うるさいクライアント」に優先的に割り当てられます)。作業を外注するか否かに関わらず、給与計算について理解する人は内部にかならず必要なのです(必ずしもフルタイム従業員でなく、例えば社内の事情をよく理解している、信頼できるコンサルタント等ても構いません)。

※参考、以前人事専門誌に執筆した記事です。
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「うちの会社では人事担当者は2人いるけど、仕事といえば採用がメインで、それ以外に何をやっているのか実はよく知らないんだ。給与計算も税理士だか社労士だかやってくれているみたいだし…」
「そもそも本来人事というのは、それなり以上の成果を出すためには経理やエンジニアと同様に専門のスキルや経験が無いとできない仕事なのですが、多くの経営者はそのような認識を持っていません。」

hrstrategist.hatenablog.com--------------------

 なお、給与計算という仕事は、従業員を雇っている会社では(業務を外注に出していない限り)必ず発生するものであり、ゆえに「給与計算が出来る人」には、必ず採用したいという需要があります。いわば「食いっぱぐれのない仕事」なのです(よく年末調整の時期には派遣社員やアルバイトを大々的に募集していますね)。

 よって、あまりに経営者が給与計算担当者の業務に無理解であり、しっかりと評価・処遇してあげていない場合、特に優秀な担当者はさっさと他社に転職してしまうかもしれないというリスクがある点は、特に経営者の方にはご理解の上、しっかりと彼ら彼女らを大事に扱い、リテンションしてあげて欲しいと思います。ぜひともご注意ください。

 では、Have a nice day!