hrstrategist’s blog

組織人事ストラテジストのつぶやき、業務連絡など。。

賞与の決め方は配当性向で(2)

 こんにちは、みぜん合同会社 組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。

 お盆も過ぎ、例年では残暑が残るものの何となく「真夏のピークが去った」感があるのがいつもの東京地方ですが、今年は猛暑が続きますね。本当に今年はちょっと異常な暑さですね。わが家のエアコンも例年になくフル稼働しております。

 そのような中で、関西地区の台風や、北海道での大地震など、災害が立て続けに起きてしまいました。被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。

 さて、前回エントリでは「賞与」について取り上げましたが、その続きとなります。

hrstrategist.hatenablog.com

 賞与原資を決める考え方として、「企業における「配当性向」の決め方」が参考になる、と前回は締めました。本エントリは続きとなります。まずは「配当性向」の説明が必要ですね。

 企業が企業活動により得た純利益のうち、今後の成長・利益増大のために手元に残した分が「内部留保」であり、株主に対して出資比率・株式数に応じて現金を配分するのが「配当」です。

 「配当性向」とは、「企業がその期の純利益額からどの程度の割合を配当として株主に還元しているかを比率で表したもの」です。計算式で表すと、以下のようになります。

 純利益=配当+内部留保

※参考

配当性向│初めてでもわかりやすい用語集│SMBC日興証券

kotobank.jp

 配当をしなければ配当性向は0%、純利益の全てを配当で払えば配当性向は100%となりますは。多くの企業はあらかじめ配当性向の範囲(〇%程度、〇~〇%の間など)を決めており、その上で諸々の要素を考慮しながらその期の配当性向、配当額を決めます。

※配当性向が100%を超える場合、好ましくないものとして「タコ足配当」などと言われます。

タコ足配当│初めてでもわかりやすい用語集│SMBC日興証券

※余談ですが、REIT不動産投資信託)の場合、内部留保はせずに利益を全て配当に回す仕組み(配当性向100%)となっています。

www.toushin.com

※もう一つ余談ですが、REITとはReal Estate Income Trustの略ですが、不動産に限らず、一般の企業をIncome Trustとして所有するという形態もいくつかの国で存在し、特にカナダでは盛んなようです(昔カナダに留学していた時にさんざん勉強した覚えがあります)。

Income trust - Wikipedia

 ところが、各企業において配当性向を何パーセントにすべきかという「正しい」答えはありません。財務的な話になるので詳しい説明は避けますが、要するに、配当性向をどうするか各企業の経営者の裁量に任されているのです(厳密には株式会社では株主総会の決議が原則、一定の条件下で取締役会決議が可能)。

 とはいえ、特に上場企業に関しては、年によって大幅に配当性向や配当額が変わるのは(株式を所有する側にとって不確定要素が増えるため)あまり好ましくありません。投資家にとって不確定要素は「リスク」であり、リスクが増えると(理論上は)株価下落の要因となります。

 そこで、多くの企業は自社の配当性向について幅を持たせた表現で目標を定め、公表しています。前回のエントリで賞与原資を「純粋な業績連動」とすると都合が悪い理由を述べましたが、配当に関しても同様のことが言えます。

「経営者の本音としては、「来期に備えて」「特損を受けて」賞与額はできれば少なめにしたいと考えるでしょうし、実際に経営の安定を考えると、少なくともそうするかもしれないという意思決定のオプションを経営者は持っておきたいと考えるのは自然です。」
(前回エントリより)

 配当原資は純利益なので、特損については「そのまま連動」の考え方でも良いかもしれませんが、「来期に大幅減益見込み」「毎期の純利益の増減が激しい」といった場合は、何らかの「塩梅」をしたいと経営者は考えるでしょう。

、そのため、自社の配当性向は業績連動を基本としつつ、経営サイドが「諸般の事情を鑑みて」配当性向の決定についてある程度の裁量、幅を持たせるというのは、ある意味「落としどころ」なのでしょう。

※参考:日本生命の(投資先に対する)「国内株式議決権行使の方針と判断基準 」
原則「配当性向25%未満」「100%以上」は反対
ただし、例外として「中長期のROE向上」「配当性向向上」が判断できる場合等を例示

https://www.nam.co.jp/company/responsibleinvestor/pdf/voting.pdf

www.nikkei.com

 で、賞与にこの考え方をどう反映するかです。

 大原則として、「賞与は業績に連動させる」こと。これは譲れません。あとは「業績」をどう定義するか、どの範囲で業績を測るか、計算式としてどのように「連動」させるか、この3つが問題となります。

 「業績の定義」に関しては、選択肢はそれほど多くありません。損益責任を負う事業単位が対象の場合は、「営業利益額」「営業利益の目標または予算に対する達成率」あたりが一般的に用いられる業績の指標になるでしょう。管理会計における事業部単位の場合、「配賦額」「減価償却費」等を反映させるか、除外すべきかは議論が分かれる所です。また、従業員のとっての「分かりやすさ」という観点も重要です。そういう意味でも「営業利益」というのは理解されやすい指標と言えます。

「業績連動型賞与の指標に何を選ぶか」

www.hrpro.co.jp

 「どの範囲で」というのは、例えば1つの会社に複数の事業部がある場合に、賞与原資を決める単位が「全社」とするか、「事業部ごと」とするかです。どちらにしても一長一短があるので、自社におけるメリット・デメリットを勘案していずれかに決めるしかありません。

 最後の「連動」に関しては、工夫が必要です。単純に「営業利益の〇%」「予算目標達成率」としてしまうと、あまり具合がよろしくないのは、前回ご説明した通りです。

 そこで配当性向と同様に、例えば「賞与原資は営業利益の〇%~〇%の間」としてしまえば良いというのが私の主張です。

 毎回の賞与で「〇%~〇%」の間でどの値を取るかは、納得感のある根拠を経営者が従業員(会社によっては労働組合にも)に説明する必要があります。その場合も、幅の中でどの値を用いるかを示す「最低の数字である〇%を取るのは大幅な特別損失が発生した場合など」といった基準も作成して公表すれば納得感もだいぶ高くなります。

 このような話をすると、「従業員や労組にいちいち説明するのは面倒だから」「うちの社長はどうせ気分で恣意的に決めてしまうから」計算式で自動的に決まったほうが良いと反論される場合があります。

 しかし、前者は経営者としての説明責任放棄であり、後者はそもそもそういう人が社長をやってはいけないのでは?(従業員の方たちに同情しますが)と私は考えます。
 
 人事評価でも同様の話があって、「目標の達成度で評価が自動的に決まり、評価者の主観が入らないのが良い人事評価制度である」と考えている管理職も未だ少なくありません。

 この考え方がどうダメかは、さんざん当Blogで書いてきましたので(例えば以下の記事)繰り返しません。

hrstrategist.hatenablog.com

 人事評価の精度を高めるためには、評価者が非評価者をよく観察し、評価者が認識したその人の「貢献度」を定性的に評価してあげる必要があります。実は、真剣で責任感がある評価者であればあるほど、(何らかのガイドラインはあるにせよ)自分の主観を反映したいと思っているものです。

 賞与原資の決め方も同じです。経営者が従業員の貢献に対してどれだけ報いてあげたいかを示すのが、業績に応じて(時には「この業績にも関わらず」)賞与をどれだけ出すかなのです。

 当期中の貢献度は当期の利益としてリニアに反映されていないのは明白ですから、そこに裁量の余地はあって当然です。経営者が裁量を働かせて「これでどうだ!」と賞与原資額を決めた上で、説得力を持ってそれを従業員に説明できて初めて、その人は経営者として役割を果たしたと言えるのではないでしょうか。

 賞与という人件費項目は月給と比べて経営サイドの決定の裁量・自由度が高く、それが故にどんなルールが「正しい」のか、「納得感が高い」のか、簡単に答えの出ないものです。
 
 ここで私が提案した方法も、どの会社にも適するものではありません。あくまで一つの考え方として、ぜひご自身の会社における賞与の決め方の参考にしてみて下さい。