大谷選手のエンゼルス移籍と「囲い込み」の功罪(1)
こんにんちは、組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。
風邪をひきました。おそらくはちょっとした不注意が原因だと思いますが、できるだけ静養するようにして、なんとか悪化しないように保っております。クライアントの皆さんにご迷惑を掛けないように、体調管理はしっかりしないといけませんね。
今日のエントリは、野球の話からです。プロ野球(NPB)日本ハムファイターズの大谷翔平選手の、メジャーリーグ(MLB)への移籍が大きな話題となっています。
「ポスティングシステム」により海外移籍を目指した大谷選手は、代理人を通じた交渉の結果、アメリカンリーグ西地区所属のエンゼルス(Los Angeles Angels)への入団で合意しました。
ロサンゼルス・エンゼルス・オブ・アナハイム - Wikipedia
当初はヤンキースなどの著名な有力球団が獲得に名乗りを上げていたようですが、最終的にエンゼルスを選んだのは、お金や球団のブランド等でなく、彼がこだわる投手と打者の「二刀流」を続けていくための条件、環境が最も整っているのがエンゼルスだ、と本人が判断したようです。自分を成長させる機会、キャリアの目標を最優先したということです
「彼はエンゼルスこそが、自分が成長でき、次のレベルにたどり着き、キャリアの目標を達成する最高の環境と見ている」
実は、現在のポスティングシステムでは、25歳未満の選手が移籍する際には本人に支払われる契約金が制限され、さらに年俸も格安のマイナー契約しか結ぶことができません。
現在23歳の大谷選手は、あと2年待てば上記の制限が無くなり、初年度からより多額の年俸を得ることも可能でした。しかし、それよりもできるだけ早くメジャーリーグの環境に挑戦する道を選んだわけです。
元はといえば、高校卒業後に直接メジャーリーグへの挑戦を志望していた大谷選手に対し、日本ハムファイターズはドラフト1位で強行指名しました。その上で、「二刀流への理解」「メジャー挑戦への理解」などをプレゼンで示し、大谷選手を翻意させて獲得したという経緯があります。
つまり、今回のポスティング移籍に関しても、ファイターズは元から想定していたのであろうと思われます。数年間の在籍でもその期間の活躍だけで十分にペイできると計算し、結果その通りに大谷選手は大活躍してくれました。
このファイターズ球団の判断で特筆すべきは、大谷選手が入団してから後の損得計算でなく、その前段階である、「入団してくれるか、否か」まで遡って期待値を分析し、計算したことです(「デシジョンツリー」のイメージです)。
今のところ日本のプロ野球界では、「1つの球団で生え抜きで過ごす」「フリーエージェントの権利を得て移籍する」というのが(少なくとも球団側が望む)常識的な選手のキャリアです。しかし、チームの都合・希望を優先させて条件を出しても、大谷選手には入団してもらえません。また、入団時の約束を後から反故にしてしまう手もありますが、そうなると、今後大谷選手に匹敵するレベルの大物選手には入団してもらえなくなってしまいます。
今年のドラフトでファイターズが清宮選手をクジで引き当てたのは運ですが、結果的に清宮選手が入団してくれたのは、過去の大谷選手、ダルビッシュ選手をファイターズ球団が育て、メジャーリーグに送り出したた実績があったからこそ、信頼ができたのでしょう。
一方で、これと対照的なのは読売ジャイアンツです。昔は他球団のドラフト指名を拒否してジャイアンツに入団した選手たち(江川卓氏、元木大介氏、菅野智之選手(当時の原監督の甥であった特殊事情がありますが)などが有名ですね)もいた昔と異なり、メジャーリーグへ挑戦する選手が珍しくなくなった今となっては、メジャー挑戦を視野に入れているような超一流選手にとって、ジャイアンツの環境は魅力的で無くなってきているようです。
確かに報酬水準は12球団でトップレベル(今やホークスが1位で、ジャイアンツは2位)ですし、引退してOBになってからも「巨人の選手」という知名度は解説者などの仕事を得るのにも有利だそうです。
しかし、12球団内での報酬格差など、メジャーリーグとの差分(下記の通り、10倍近いです)を思えば、「誤差の範囲内」に思えます。
「メジャーリーガーの給料事情。平均年俸は4億9800万円!」
【MLB】メジャーリーガーの給料事情。平均年俸は4億9800万円!最も稼いでいる選手は・・・? | ベースボールチャンネル(BaseBall Channel)
メジャーリーグへの移籍の経緯(下記)を振り返っても、松井秀喜氏や上原浩治選手に対する扱いは、少なくとも選手にとって寛容ではない、ネガティブな印象を感じます。
「何を言っても裏切り者と言われるかもしれないが、」
「球団首脳陣は頑としてポスティングシステム行使を容認せず、「わがまま」であると評した」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%8A%E5%8E%9F%E6%B5%A9%E6%B2%BB#ポスティング移籍問題
昔は今と違い、野球選手として活躍する選択肢は実質的に日本のプロ野球(NPB)だけであり、その中の差分で球団を比較するしかありませんでした。そしてそのヒエラルキーの一番上がジャイアンツでした。
あれ、この構図って何かに似ていませんか?
この話、続きます。
※Appendix
日本プロ野球のフリーエージェント実績をよく調べると、大変興味深いです。
■ジャイアンツ
・生え抜き選手からFAで国内他球団に移籍したのは、駒田徳広氏(1993年)のたった1名のみ、その後24年間なし。
・海外移籍は松井氏、上原選手、高橋尚成氏の3名
・ポスティングシステムによる海外移籍は無し
・一方、FAで他球団から獲得した選手は、先日獲得が決まった野上亮磨選手を含め延べ24名(!)
・そのうち、ジャイアンツで現役生活を終えて引退したのは、川口和久氏、金城龍彦氏、片岡治大氏、相川亮二氏の4名のみ(うち片岡氏、相川氏は2017年限りの引退)。残りの人たちは他球団に移籍の後、選手生活を終えている。
■ファイターズ
・生え抜き選手からFAで国内他球団に移籍したのは、片岡篤史氏、小笠原道大氏など7名+大野選手、増井選手(オリックスバファローズに移籍決定)
・海外移籍は建山義紀氏、田中賢介選手(後にファイターズ復帰)の2名
・ポスティングシステムによる海外移籍は、ダルビッシュ有選手と今回の大谷選手の2名
・一方、FAで他球団から獲得した選手は、稲葉篤紀氏(メジャー移籍を希望していたが獲得希望球団が無く、ファイターズが「拾った」形。)の1人のみ
⇒12月18日に、鶴岡慎也選手の獲得を発表(ファイターズ出身選手の出戻り)。