hrstrategist’s blog

組織人事ストラテジストのつぶやき、業務連絡など。。

「森ビルの経営理念」

 こんにちは、組織人事ストラテジスト 新井です。

 先週13日の人事セミナーは、多くの皆さまにお越し頂きました。お越し頂いたみなさま、ありがとうございます!今後ともよろしくお願いいたします。

 さて、先日Facebookで「Blogで紹介します!」と宣言してから、早3か月。ようやく出来ました。書き起こしました「森ビルの経営理念」をアップします。
 
 新卒で入った森ビルの関連会社(今は森トラストの系列になっています)で、毎年配られていた「森ビル手帳」からの転載となります。森ビル創業者の森泰吉郎氏が昭和43年の入社式にて新入社員に向けて話した講話です。

 現役森ビル社員の情報によれば、現在は手帳にも載っていないそうです。森ビル、森トラストのWebサイトにも(おそらく)掲載されていないようです。

 まあ、読んでみてください。

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森ビルの経営理念

昭和43年4月1日
入社式にて

1.人間の生活は、まず先人に育てられ(教育、訓練され)ついで後人を育てることの無限の連続である。

2.職場は、単に労働を提供して報酬を得る場ではなく、その仕事に即した訓練(O.J.T-On the Job Training)の場であって、その過程で実現した生産性に対応して報酬が存在するのである。

3.職場は、人がその一生を賭ける場であるから、苦痛の場ではなく楽しい場でなければならぬ。楽しいとは安易ではなく、たとえ取り組む仕事が苦しくともやる気(意欲)があれば生きがいが生じ楽しいのである。それには、やる気を起こさせるような職場環境が必要であり、経営者側の配慮とそれに応ずる従業員の協力との両者の呼吸が合ってはじめて可能となる。

4.教育されて先人から受け継いだものを、自らの創意工夫によって一段と進歩充実せしめて生産性の向上に役立て、これを後人に受け継がせることの連続が、われわれの生活の永遠の進歩発展を約束する。これが自己充実の楽しみであり、また、生産性向上の度合いが同僚、同業他社に抜きん出ることは、競争を基調とする現社会において自己の存在を一段と強調することに繋がる。

5.技術革新、景気の波瀾、資本自由化等、個別企業の置かれている厳しい環境で、自らが生き抜くためには、他業者に優る経営成績を上げて社会のお役に立ち、自らの存在理由を世に誇示せねばならぬ。これにより、社会も肩身が広くなり、またよりよい利潤とよりよい従業員の報酬が約束される。

6.創意工夫は積極的な生産性の向上を約束し、発展の原動力となるが、他方むだの排除と節約は不況とか見込み違い等で、経営財政が不時の困難に陥った時の耐久力を高め、紙一重の差で企業の倒壊を救う。創意工夫で攻撃力をつけるとともに、節約によって有事における守備力を涵養しておきたい。この習性の体得は、一朝にしては成らず、日常の心がけと修練実践が必要である。

7.創意工夫、節約とならび、ZD(Zero Defects)に徹することによって日常の守備力の強化を計りたい。ZD運動とは同じ誤りを二度と繰り返さぬことであり、誤りの起こりやすい環境の改善整備であり、かつ各人がそのために意識的に注意することであって、創意工夫の精神の涵養に必要なTrial and Error(試行錯誤)を抹殺するものであってはならない。ZDは経営力強化の単なる手段ではなく、O.J.Tの場としての経営の大目的そのものでなければならない。

8.教える者は教わる者に対して一日の長がある。職務の上では上役、年齢の上では年長者に対して敬意を忘れてはならない。他方、教わった者が教えた者に勝る、追いつき追い越すことが必要である。相撲道で先輩に勝つことを「恩を返す」といっているのは味わいがある。

9.「席ただしからざれば坐せず」とは、組織内における己の地位役割を正しく意識してそれに相当する席に坐り、席にふさわしく振る舞えという教えであるが、これは第一には、対外的、社内的、上下間、同僚間の正しい礼儀作法を教えたものであり、第二には、自らがその置かれた組織内における秩序規律の中にあることを意識することであって遵法精神に繋がる。ここに言う秩序規律とは成文化したものと自然的道義的なものを問わない。第三には、進んでその席にふさわしい己の役割を適正に果たす積極性を含めたい。そこには、組織の機械的歯車ではなく、システムとしての組織を充分に理解し、組織目標達成の推進力たらんとする意欲が要請される。礼儀作法といい、秩序規律といい、また役割意識といい、これを固定化していたずらにそれに盲従するのではなく、まず現在の「しきたり」を十分に守り生かしつつ、その発展と改善に工夫協力することなのである。たとえば、座すべき席が自らにふさわしくないと感じたら、席そのものを自己に適するように工夫すべきであり、席意識にかけた無席者となって、自らの生活を粗末にしてはならない。

10.生きものが神経系統と循環系統とによって、頭脳から手足の末端に至るまで実によく伝達関係が行き届いているごとく、われわれの経営システムもTopとMiddleとBottomとの間、または部門間にコミュニケーションが迅速正確に行われていることが何にもまして必要である。企業活動に必要なすべての意思決定にコミュニケーションなしでは闇夜の歩行に等しく、危険の極みだといわねばならない。

11.以上、箇条書にするとたくさんあるが、実際に経験を積めばいつの間にか身について、仕事や行動を起こすとき、無意識にやったこともこの「のり」にかなうようになる。これが生活の理想であろう。

12.社員各自がこのように仕事を通じて訓練された力を、究極的意思決定者としてのTopが過誤なく積極的成功的に結集して、企業目標に向かって経営を進めることができれば、組織全体として社会のお役に立てることができ、その度合いにより利潤を得て、諸君にも一層多く報い得る。また諸君も互いに教育訓練し合って涵養された能力をもって経営に参画すれば、組織自体も強化発展して一段と大規模な仕事に取り組め、社会的貢献力が加わるのである。

13.諸君が昨秋「一日社員」として来社したときに話したように、森ビルは虎ノ門という良い立地にあって、いまや中小企業から脱皮して、この地域の再開発に貢献する第一人者として自信を強めつつある。5万坪計画という外延的発展を目標にし、これに耐えうる内的受入態勢を整えるためにいま組織改革の第一歩に入らんとしているが、改革の精神と方向は以上述べたところに尽きる。全社的にこれから改革に取り組むところだから、この点新人旧人ともに新しい経験に入るのである。自信を持って行動することを望む。森ビルの将来は君が背負っているのである。

14.ビル経営としてのわれわれは、絶えずより良いビルとより行き届いたサービスを提供申し上げて、お得意様をはじめ関係各層の信頼感をいよいよ増すことを永遠の目的にすべきである。前節の量的目標はこの質的目標の達成過程を通じてのみ実現可能である。そして、この信頼をエネルギーとして、ビル造り(単体開発)から街づくり(面的再開発)へと展開することが可能である。

15.私は多年、研究・事業・生活の三位一体を考えてきた。これはO.J.Tの精神に他ならない。楽しみながら充実、改善努力していくのがわれわれの生活であるならば、以上の話は生活にそのまま通用し得ると思う。

16.以上の展開の最大の支えは技術である。高度の科学知識と合理的計算により整備されたる不動産貸室に関する交渉力、官庁、銀行等との折衝力、建築技術、法律ならびに経済情勢についての判断力等を独自の方法で合理的に結集した総合力(=森ビル的技術)を以上の諸行動原理を指針としつつ、緩急に応じtimelyに駆使することができるならば、これこそがわれわれが森ビルの全社的総合的なO.J.Tの努力目標に他ならない。

17.この努力目標は、あくまで冷静な判断力、行動力(cool head)により合理的に行われなければならない。しかし、一層大切なこと、否、むしろ何にもまして大切なことは、かかるものとしての目標達成への努力が、常に温かい心いき(warm heart)に包まれ、効果的(effective hand)に導かれ行われることでなければならない。その点特に銘記すべきである。

 

森トラストの森章社長が、この経営理念について触れられている記事を発見しました。

経営理念として、父の泰吉郎が森ビル時代に作った17箇条というのがあって、根本的な会社のあり方として、私はそれを変えていない。娘もそれを承継している。

とのことです(2016.4.19追記)

toyokeizai.net

 ※森トラストの伊達美和子社長が、この経営理念について触れられている記事を発見しました。(2019.4.15追記)

style.nikkei.com