hrstrategist’s blog

組織人事ストラテジストのつぶやき、業務連絡など。。

「同一労働同一賃金」判決から学ぶこと(1)

 こんにちは、みぜん合同会社 組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。

 東京地方は本格的に梅雨入りですね。暑さが苦手な私としては、涼しいのは良いのですが、同時に湿気も苦手、かつ、雨も嫌い(何しろバイクに乗れないので)なので、しばらく我慢の日々です。とはいえ、梅雨が明けたら今度は夏の暑さが来る訳で、ここ数ヶ月は気候に文句を言い続けつつ、隙を見ては涼しい高原に避暑の旅行でも行こうかと企んでおります。

 さて、日本でビジネスをする(大半の)企業にとって注目すべき、重要な訴訟の最高裁判決が最近ありました。

契約社員のドライバーが、正社員にのみ諸手当等が支給されるのは労契法に抵触する不合理な労働条件として差額を求めた訴訟(ハマキョウレックス事件)と、定年後継続雇用したドライバーの賃金を2割引き下げたことが期間の定めの有無によるもので不合理と訴えた事案(長澤運輸事件)の最高裁判決が6月1日に出た。」

www.rodo.co.jp

判決文は以下の通りです。
ハマキョウレックス事件

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/784/087784_hanrei.pdf
長澤運輸事件

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/785/087785_hanrei.pdf

 いずれのケースも、いわゆる正社員と同様の業務をしていながら、雇用形態の違いにより正社員より悪い処遇である原告(契約社員、定年後継続雇用による嘱託社員)が、処遇の差額を会社に請求するものです。

 その根拠が、労働契約法20条(以下)となります。同条では、期間の定めの有無による労働条件の相違が「不合理と認められるものであってならない。」と定めています。

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労働契約法
第二十条 有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。 
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 この2つの事件の最高裁判決がどのようなものであったのか、詳しく見てみましょう。

 まずは、ハマキョウレックス事件について。最高裁の1つ手前の高裁判決についての詳細な解説が以下にありますので、まずはここで概要を掴んで頂くのが良いかと思います。定期昇給、賞与、退職金、各種手当等について、労働契約法20条に違反しているかどうかにつき判断しています。

重要判例解説 ハマキョウレックス事件高裁判決 | 茨城で顧問弁護士をお探しの経営者の方は弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談を。

 大変ざっくり要約してしまうと、高裁判決では以下のような結論となっています。

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定期昇給、賞与、退職金、家族手当については、請求を認めない(差分を容認)
・無事故手当、作業手当、給食手当、通勤手当については、不合理と認め、請求を認める
・住宅手当、皆勤手当については、不合理と認めず、請求を認めない
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 これに対して最高裁判決は、高裁判決と大筋で同様としながら、皆勤手当については高裁判決とは判断を変え、無事故手当等と同様に不合理と認め、請求を認めました。

 では、合理不合理の判断基準は何なのか、ということになりますが、まさに各手当等がなぜ支給されるのか、という理由に基づき個別に判定されています。要は、「業務内容が同じであるなら、処遇に差をつける理由を合理的に説明できない」ものについては、すべて「不合理」であり、容認できないとしていますね(判断理由は上記サイトで詳しく解説されています)。

 一方で、差分が是認された項目に関しては、無期契約(正社員)と有期契約労働者との違いは、「契約期間(有期・無期)」「転勤・出向の可能性」「中核を担う人材として登用される可能性」を挙げています。それらの要素によって差分が生じる理由を合理的に説明できるのであれば良いという事なのです。

 次に、長澤運輸事件です。こちらも高裁判決についての解説は下記が参考になります。

www.sharoushi-nagoya-hk.com

 ここでの大きな論点は、業務内容が同じであるにもかかわらず、労働契約法20条に照らして、「年収ベースで約2割の差」が許容され得るのか、という点でしたが、高裁判決では、同条にある「その他の事情」に鑑みて、「不合理でない」と判断しています。

 最高裁判決は、ハマキョウレックス事件と同様に高裁判決を大筋で認めながら、精勤手当については高裁判決を翻し、差分を「不合理」と判断しています(これに関連し、超過勤務手当の算定基礎額に精勤手当相当額を加えて計算し直せ、としています)。       
 なお、本件において、無期契約(正社員)と定年後継続雇用嘱託社員の違いは、「契約期間(有期・無期)」と「再雇用に至る経緯(継続雇用以前に正社員として定年まで勤続していた)」とされています(継続雇用嘱託社員も転勤の可能性有)。

 両判決に関しては、著名な労働法の学者の方たちが解説をされています。これもぜひご覧下さい。

日経記事:水町勇一郎先生の解説

www.nikkei.com上記の解説に対する大内哲哉先生の解説

lavoroeamore.cocolog-nifty.com

こちらは八代尚宏先生(経済学者)の記事

diamond.jp

 という訳で、今回エントリでは「判決の紹介」で終わってしまいますが、次回エントリではこの判決が実務上どのような意味を持つか、人事の実務家としてはどのような視点で捉え、実務にどう生かして(対応して)いくか、という点について解説をしていきたいと思います。

 とりあえず、今日はここまでです。Have a nice day!