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組織人事ストラテジストのつぶやき、業務連絡など。。

「春闘」「定昇」「ベア」って何?

 こんにちは、組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。最近マスクが手放せません。まだひどいアレルギーではないのですが、外出すると目がかゆくなり、鼻水とくしゃみが出てきます。室内でも空気清浄機を持ち出し、活躍してもらっています。とはいえ、私にとってもっと辛いのは秋口のヒノキやブタクサの花粉だったりするのですが。。

 さて、毎年春になると、新聞などのニュースで「春闘」が話題になります。労働組合と会社が交渉し、その結果として「定昇」が何円、「ベア」が何円、「賞与」が何か月分と決まったニュースが今年も流れていますね。今年だと、トヨタやシャープ、東芝あたりが大きく取り上げられていました。

response.jp

www.asahi.com

mainichi.jp

 ところで、これらのニュースで出てくる「春闘」「定昇」「ベア」といった用語ですが、例えば定昇とベアの違いを自信を持って説明できる人はそれほど多くないのではないのでしょうか?今日のエントリでは、簡単にこれらの用語について触れてみようと思います。

 まずは、いつものように(?)、まずは辞書を引いてみましょう。私の手持ちの「新明解 第三版」では、以下のように解説されています。 

春闘春季闘争):春に行う賃上げのための闘争
定昇:→記載なし
ベア:ベースアップの略
ベースアップ:(和製英語)平均賃金の引上げ

 何となく意味は伝わるものの、「だからどうした、ようわからん」という感じです。。

 では、Wikipediaを見てみましょう。

春闘 - Wikipedia

定期昇給制度 - Wikipedia

ベースアップ - Wikipedia

 いろいろと書いてありますが、簡単にまとめてしまうと、以下のような感じではないでしょうか。

 まず、春闘とは、「従業員(組合員)の毎年の昇給と賞与の水準を決めるために労働組合と会社が交渉する儀式」であるといえそうです。

 そして、昇給額の内訳として「定昇」「ベア」があります。日本型の年功序列的賃金体系においては、入社後何年で何歳になったら給料がいくらになる、というテーブルが(大まかに)存在したりします。実際には、月給の内訳として年齢・勤続年数が影響する部分が半分位、残りは人事評価や役割によって同期の間でも差がつく部分、という複数階層の構造になっているのが、最近でも多いようです。

 そのテーブルによれば、20歳前後で新卒入社ののち、50歳代半ばまでは右肩上がりに月給が上がり、その後に少しづつ定年まで下がっていくというのが一般的です。この推移を「賃金カーブ」と呼びます。このテーブル・賃金カーブにより、年齢・勤続年数が1年増えるとどれだけ前年より月給が増えるか、という金額の差分が「定昇(定期昇給の略)」と呼ばれます。

 日本企業はいつまでこのような仕組みを続ける気なんでしょうか、という疑問を持たれる方もいらっしゃると思いますが(私も思います)、そのような方はぜひこちらのエントリも読まれてみて下さい。

「定期昇給」「賃金カーブ」を疑え! - hrstrategist’s blog

 これとは別に、世間の物価の変動(主にインフレ)と企業の労働生産性向上に対応してテーブル自体を書き換えるのが「ベア(ベースアップの略)」です。例えば、物価が1年で5%上がっていたとすれば、給料もその分5%増えていないと実質的にマイナスになってしまうので、全員の給料を5%づつ上げましょう、というのがベアの意味となります。

 ところが、以下のグラフをみるとよく分かりますが、日本では、バブル崩壊後の20数年間に、全般的な物価はほとんど上昇しておりません。また、リーマンショックなどもあり、企業業績も芳しくなかった(「労働生産性の向上」もない)ために、「ベア」についてはほとんど顧みられませんでした。

ecodb.net

 ここ数年の「アベノミクス」でようやく「ベア」は復活しましたが、今年の回答は厳しいようです。企業としても先行きは楽観視できないということなのでしょう。

toyokeizai.net

 実は、経営側にとって、「定昇」「ベア」「賞与」の中で最も譲歩しやすいのは「賞与」です。「定昇」にしても、「ベア」にしても、固定月給の変動なので、一旦これを上げてしまうと、賞与原資、退職金などにも影響しますし、月給は一度上げるとよほどの理由付けが無い限り下げることが困難な、下方硬直的なものです。

 テクニカルな話ですが、人事担当者としては、「定昇」のパーセントをあまりいじられたくありません。都度の業績によって「定昇」が変わると、いちいちテーブルを作り直さなければいけなくなりますし、年次によっての不公平がいろいろと起きます。よって、「定昇」のパーセントは出来るだけ動かさず、ベアと賞与で調整すべきというのが人事サイドの考え方です(一方で、特に中小・ベンチャー企業ではこのことを理解していない経営者は多いです)。

 また、いやらしい話ですが、月給が「下方硬直的」であるが故に、経営側の本音としては、「ベア」は物価上昇率よりできるだけ低くしたいという思惑もあります。そうすれば「下方硬直性」で得をしている(相対的に給料をもらいすぎている)ローパフォーマーの実質賃金を下げることが出来ます。

 一方で、賞与はあくまで「払いっきり」で、後腐れがありません。今年多く払ったとしても来年も同様に払わなければいけないという事にはなりませんから、経営側としては意思決定の裁量・自由度がより大きい訳です。

 かたや、従業員(労働組合)側にしてみれば、1回限りで終わる賞与の増額よりも積上げ方式で計算される月給の増加がより嬉しい訳です。そこで、落としどころをどうするか、という労使の交渉が行われるのですね。

 私(新井)は、春闘を実施する会社に所属したことが無いのですが、この時期になるといつも、大手電機メーカー社員である友人が言っていた、「賃上げ額より組合費の方が高いんだよね」という話を思い出したりします。もはや春闘自体の意義、意味も昔と比べてだいぶ薄れてしまっていることは否めないでしょう。そろそろ春闘のあり方も考え直した方が良いのではないでしょうか。。

 では、Have a nice day!