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hrstrategist’s blog

組織人事ストラテジストのつぶやき、業務連絡など。。

日本テレビのアナウンサー採用内定取消事件から学ぶ教訓

 こんにちは、組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。

 昨日、川崎大師に初詣に行きました。昨年まで3年間「厄除け」のお祓いを毎年していただいたお蔭で無事厄が明けましたので、そのお礼をしてきました。初めて(年明けの)平日に行ったのですが、まだまだ多くの人達が初詣に訪れていましたね。さすが大師さまですね。

 また、今週は(お蔭さまで)1月からお手伝いすることになった新しいクライアント様との初回ミーティングも行いました。先方の皆さんの熱意を受けて、「皆さんのためにしっかり貢献しなければ」と改めて感じたりしている今日この頃です。
 
 さて。日テレの「アナウンサー内定取り消し」裁判の件については、以前にこのBlogでも取り上げましたが、どうやら和解の上、「内定取り消しの取り消し」「当初予定通りアナウンサーとして内定」という形で決着したようです。

アナ内定取り消し、一転採用へ 日テレと和解が成立:朝日新聞デジタル

某テレビ局のアナウンサー採用内定取消事件について - hrstrategist’s blog

 会社側は辣腕弁護士を立てたにも関わらず、原告(学生)側の全面勝利の内容で早々に和解したようです。という事は、会社側は「全く勝ち目はない」と理解したのでしょう。地裁の和解勧告の内容は、「このまま裁判を続けても、会社は負けますよ」というものだったのであろうことは想像が付きます。

日テレ内定取り消し裁判は「女子アナの卵VS剛腕熟女弁護士」

 このような結末になるなら、初めから「内定取り消し」なんてしなければ良かったのに、というのは後付けの感想であるのは間違いないですが、それにしてももう少しやりようがあったのではないか、「賢明な判断」が出来たのでは、もっと端的に言うと、「何やってんの?」と、私は感じます。

 例えば、「内定取り消し」を決める前に、「デシジョンツリー」のような分析をすることは出来たはずです(していたのかもしれませんが)。

 内定取り消しを行った際の「訴えられるかどうか」「裁判で勝てるかどうか」の(予想される)確率によって、メリット・デメリットの期待値が推定されます。同様に内定を取り消さない場合の期待値を推定し、どちらの選択をするか判断する訳です。

内定を取り消す -訴えられない         ○
        -訴えられる  -裁判で勝つ  ○
                -裁判で負ける ×

 内定を取り消した場合の考えられる結果は、以下の3パターンです(単純化しています)。

1.「訴えられない」
2.「訴えられる」「争って勝つ」
3.「訴えられる」「争って負ける」

 その上で、期待値を出すためには、「訴えられる確率」「争って勝てる確率」を推定する必要があります。

 会社と学生が採用選考から内定、さらには取り消しまでどのようなやり取りをして来たかは会社は分かっている訳で、内定取り消しを出す前に弁護士も交えて冷静に分析すれば、争った場合に「勝つ」可能性はかなり低いことは、概ね予測できたはずなのですが。。

 ここで注意すべき点は、相手(学生)から「訴えられる確率」は、「争って勝てる確率」によって大きく変わるという事です。というのも、相手が訴えるか否かは、あくまで先方のデシジョンによって決まる訳で、そのデシジョンを決める根拠として、相手側が「争って勝てる(会社側が負ける)」かどうかの可能性が大きく影響します(相手も「デシジョンツリー分析」をする訳です)。そして、相手にとって「争って勝つ」可能性が高いほど、訴えてくる可能性も高くなります。

 このように冷静に分析していけば、「内定取り消し」が本来的には「無理筋」であることはあらかじめ予測できただろうと思います。そして、少なくとも会社の中で同様の意見を持っていた人達(例えば労務担当者)はいたはずですし、おそらく経営陣に意見もしていたでしょう。

 ただ、残念ながらそのような「賢明な意見」を退けて、合理的でない「内定取り消し」の強行を指示した誰か(それが出来るのは役員のうちの誰かでしょう)がいたのだろう、というのが私の見立てです(私自身も某社内で似たような事例を見たことがあります)。

 そして、その「指示をした人」と、それを止める事が出来なかった周囲の関係者の双方とも、相手側が「訴えてくる」可能性を実際よりもかなり低く見積もっており、その結果判断を誤ったのではないか、という気がします。つまり「相手が訴えてくる」ことはまず無いであろうと考えていたのだと思われます。

 今回訴えを起こした学生側としては、「銀座のクラブでアルバイトしていた」という事実が世間に知れ渡ってしまうことになるし、そうなると、今後普通に就職することも難しいに違いない、世間体を考えるとそんなリスクを冒してまで会社を訴えることなどありえない、というのが会社の偉い人達(おそらく50代以上のオジサンたち)の「常識」だったのでしょう。

 ところが、今回の学生は、幸いにも?まだ「会社の常識」に染まっていませんでした。会社を訴えなければ、泣き寝入りするしかありませんし、この会社でアナウンサーになる可能性はほぼ0%です。一方、会社を訴えて争えば勝ち目がありそうだとすれば、内定取り消しを撤回させてアナウンサーになれるかもしれないし、たとえ金銭保証だけの決着となり入社出来なかったとしても、「アナウンサーになれる能力を持ち、かつ理不尽な会社と争って主張を認めさせた」というキャラクターを芸能界が放っておきません。

 かつ、以前に比べて、いわゆる「水商売」的な仕事に対する世間の認知度、許容度も上がっている点も見逃せません。アナウンサーに「清廉潔白」さが必要か、「クラブのアルバイトが清廉潔白か」の議論はここではしませんが、少なくとも、「銀座のクラブでアルバイトをしたことがある」程度では、通常の就職では、会社によっては選考で不利になる場合もあるかもしれませんが、多くの会社では合否に響く決定的なマイナス要因になることは無いのではないか、というのが私の感覚です(入社後もそのバイトを続けるのは別の意味で問題ですが)。

 その辺の感覚のズレも今回の件では垣間見える気がします。いずれによ今回の事例は、(おそらく経営者個人の個人的感情によって)筋が通らない非合理的な、かつコンプライアンス上も問題ある経営判断が通ってしまった点に問題があったと言えます。

 本件の「失敗事例」は他山の石です。これを教訓として学び、同様の失敗を「未然に防ぐ」ことが他企業にとって最も大事な対応ですので、私自身も経営者の皆さまに本件の教訓を伝えていきたいと思います。

 あともう一言、この学生が無事に入社したら、受け入れる側の職場の上司・先輩・同僚達は、これまでの経緯に関わらず、温かく迎え入れて、しっかりと仕事をさせて上げて欲しいな、と思います。裁判で訴えてまで、「御社に入りたいんです」なんで、素晴らしい愛社精神じゃないですか(皮肉ではないです)。この人が変な辞め方をしたら、また会社側の評判が下がるでしょうし、別に特別扱いせず、普通に接してあげるのが一番ですね。そこからどうなるかは、本人の実力次第ですから。

 今週末は三連休ですね。みなさま、Have a nice weekend!