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その人は「代えがたい」人材ですか?-「人件費」というパイの分け方(3)

 こんにちは、組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。本日の東京地方は、梅雨らしく(?)豪快に雨が降っております。個人的には、じめじめと降り続くより、南国のスコールのようにざっと降ってさっと止んでくれる方が好きです。そういう意味では一昨年住んでいたシンガポールも良かったかもと思ったりします。。

 では、「代えがたい」話の続きです。

その人は「代えがたい」人材ですか?-「人件費」というパイの分け方(1) - hrstrategist’s blog

その人は「代えがたい」人材ですか?-「人件費」というパイの分け方(2) - hrstrategist’s blog

 報酬の差を決める「代えがたさ」という概念の説明と、より「代えがたい人」により高い報酬を与えるべきという話を、前回までしてきました。

 「希少性」×「代替困難性」=「代えがたさ」であるという定義もしましたが、そうなると次に、「希少性」「代替困難性」の中身についてもう少し考える必要があります。

 何をもって希少・代替困難とするかは、仕事の中身によってそれぞれ異なるので、具体的に(個別に)定義することは難しいです。一方で、報酬を決める際に考慮すべき要素としては「時間軸(短期・長期)」と「社内特有の価値と社外の市場価値」という2点は押さえる必要があります。

 前者の「時間軸」については、現在の希少性・代替困難性だけでなく、中長期的にその人がどの程度「代えがたい」人なのかを報酬に反映する必要があります。式にすると以下のようなものです。

「その人の現在価値(報酬)=現時点での貢献度(≒代えがたさ)+将来もたらしてくれるであろう累積貢献度(≒代えがたさ)の現在価値(退職リスクを含む)」

 ただ、「将来の貢献度」は将来時点でその都度現在価値を反映した報酬を受け取るはずなので、ここでは将来引き続き自社で働いてくれる見込みに対するオプション価値という認識で良いのではないかと思われます。

 そのように考えれば、もし同じ貢献度であれば、ベテランより将来の成長が見込める若手をより高く評価し、報酬に反映させるべきということになります(いわゆる「年功序列」とは異なる考え方なので、人によっては違和感があるかもしれませんが)。また、成長せず同じ事をしているだけであれば、その人の報酬は右肩下がりになってしまうという事にもなるのです。

 後者の「社内・社外の価値」は、話が複雑になります。社外の「市場価値」については、いろいろな要素が組み合わされて「市場価値」という名の報酬レベルの相場ができます。株価と同じようなものであり、その人の本質価値をリアルタイムで反映しているものでは(当然)ありません。一方でその人をいま市場から調達するためにはその価格を払わなければいけないし、自社の社員の「市場価値」が現在の報酬より高ければ、その人が社外に流出する危険性も高くなります。よって、「市場価値」を無視するわけにはいきません。

 そこで問題になるのは、「社内での貢献度>市場価値」と、「社内での貢献度<市場価値」の双方の場合に、どのようにその人達を処遇をすべきかです。

 私の考えでは、「社内での貢献度>市場価値」の人達には、市場価値に関わらず、貢献度に応じてフェアに報いてあげるべきと考えます。この人たちの市場価値以上の「代えがたさ」は、(ポータブルな市場価値に繋がる)自身のキャリア構築を少なからず犠牲にし、リスクテイクをして会社に尽くした結果です。それに会社が報いなけれは、極端に言えばこの人達から「搾取」をしていることになります。そのような処遇を当該従業員は「アンフェア」に感じますし、本人も周囲も、その後積極的に会社に尽くそうという気持ちも起きなくなるでしょう。こういう方達は企業の文化を作り上げていく貴重な人材ですので、積極的に評価し、リテンションすべき人材です。

 なお、従来型の日本企業などでは、市場価値はあまり無いが、社内貢献度がそれに比べてやたらに大きい(社内調整(のみ)がやたらに上手な)タイプの人材が存在するようですが、そこまで行くとやりすぎに思えますし、そのような人を積極的に評価する必要はありません。市場価値に繋がるポータブルスキルの成長、育成はビジネスパーソンとしては常に心がけるべきことであるのは当然の前提となります。

 一方、「社内での貢献度<市場価値」の人達はどうでしょう。私は、その方達も同様に、市場価値に関わらず社内での貢献度に応じた(市場価値より低い)処遇をすべきと考えます。もしその処遇に不満を感じて退職されてもやむを得ない(社内・外で代替人材を調達できる)ということです。

 というのも、もしその人が市場価値以下の貢献しかこの会社で出来ないのであれば、それは会社と本人の双方にとって不幸なことです。その状態がこのまま続くより、本人が早く決断をして新しい機会を追求すべきです。また、会社の人件費のパイは限られているので、ある人に評価以上の報酬を与える事は、他の人に本来与えられる報酬が削られるということであり、そのような判断は頑張っている他の社員に対してアンフェアではないかと思うのです。

 なお、「代えがたさ」についてのよくある誤解について触れておきます。私自身がこれまで何度も現場で経験してきました。

 「この人が抜けると仕事が回らなくなる」というフレーズ、皆さんも聞いたことがあると思います。言ったことがある人も多いでしょう(私もあります)。

 それは、その人が「代えがたい」のでなく、単に業務の仕組化がされず、その人の属人的なやり方で業務遂行をしているだけ、という場合が多いのではないでしょうか。特に、「判断」「意思決定」がさほど伴わないような業務の場合はほとんどそうです。

 その人が本当に会社にとって価値がある「代えがたい」人なのか、それとも単に業務上のボトルネックになっているだけなのかは、「その業務を引き継ぐ(または別の業務フローに代替する)にはどの程度のレベルの後任者を当てて、どの位の期間を引継ぎに費やせば良いか」を考えれば概ね答えはでます。

 要するに、相応の後任者が適切な時間を取ればキャッチアップできるような業務は、単にその人の属人仕事のせいでボトルネックになっているだけなのです。ところが、きちんと業務の中身を見ずに、往々にしてそういう人が「代えがたい」とみなされ、評価が高かったりする場合があります。

 この人は自分の業務を属人化することで、いわば業務を人質に取っているのです。全社最適には興味がなく、自分さえ良ければよいという、Selfishな人です。そのような人に高評価を与えれば、従業員はその方針に従います。自分の仕事をよりブラックボックス化し、隠そうとするでしょうし、人事異動も拒否するでしょう。このような人への対策は、とにかく一刻も早くその業務から剥がし、後任者がその業務を仕組化する事なのです。

 そして、裏返せば、全体最適を考え、あれもこれもできる「ユーティリティプレイヤー」がいれば、企業にとって非常に高い価値があるということです。この話は改めてすることにしましょう。

「ユーティリティプレイヤー」の価値について(「代えがたい人」の話の続き) - hrstrategist’s blog

 という訳で、今日はここまでとします。Have a nice weekend!