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副業・兼業を推進する前に押さえておくべきこと(2)

 こんにちは、組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。

 「我が家(マンション)の前の公園のサクラは満開」と先週のエントリで書きましたが、週末の雨にもかかわらず、まだまだ頑張ってくれています。

副業・兼業を推進する前に押さえておくべきこと(1) - hrstrategist’s blog

 そのエントリの続き、副業の話です。

 前回のエントリでは、多くの企業がなぜこれまで「副業禁止」のスタンスを取っている(いた)かについて、以下3つの主な理由を挙げました。

1.複数の雇用元に雇用されることによる労働時間管理と安全配慮義務の問題
2・競業・情報漏洩の問題
3.レピュテーションリスクの問題

 このうち、1番目の「労働時間管理と安全配慮義務」については前回エントリで説明しましたので、今回はそれ以外の理由について解説すると共に、従業員の副業に対して会社が取るべき望ましいスタンスについて考えてみたいと思います。

 競業とは、従業員が副業として本業の仕事と競合する会社に雇用されたり、自らそのような事業を営むことです。雇用主としては従業員の持つスキルや経験、人脈等を期待して雇用している訳で、それを利用して競業をされてしまえば堪ったものではありません。よって、一般的には「競業避止義務」は(少なくとも在職中は)従業員に課されるものとされています。

「競業避止義務」とは? - 『日本の人事部』

 情報漏洩に関しては、例えば自社の顧客リストが従業員の副業先に流れるといった類の事態が起こり得るのでないかという懸念です。これに関しても、従業員は秘密保持義務を負うものとされます。

従業員等による情報漏洩や競業行為に対する法的手段

 よって、いずれも「競業行為」「情報漏洩行為」自体の問題であり、競業でもなく情報漏洩も起こり得ない「副業」まで会社が一律に禁止するのは行き過ぎのように思われます(「危ないから」といって何でも子供に禁止する過保護な親のようですね)。

 最後のレピュテーションリスクとは、従業員が行う副業が、自社の評判に悪影響を与える可能性を指します。本業はお堅い仕事にもかかわらず副業がいわゆる水商売系だったり、または本業の会社名や肩書を利用して(例えばマルチ商法アフィリエイトビジネス的な)副業の宣伝を行ったりした際に、会社がそれによって自社の評判に悪影響を被ると(会社が)みなす場合にこれに当てはまります。

 これらの「副業禁止の口実・理由」を検証していくと、従業員の副業自体を会社が一律に禁止するのは、実は合理的ではないことに気付きます。実際に以下のような判例も出ています。

判例:兼職の発覚を理由とする懲戒解雇

http://www.mhlw.go.jp/churoi/chyousei_jirei/dl/29.pdf

就業規則は使用者がその事業活動を円滑に遂行するに必要な限りでの規律と秩序を根拠づけるにすぎず、労働者の私生活に対する一般的支配までを生ぜしめるものではな い。兼職(二重就職)は、本来は使用者の労働契約上の権限の及び得ない労働者の私生活における行為であるから、兼職(二重就職)許可制に形式的には違反する場合であっても、職場秩序に影響せず、かつ、使用者に対する労務提供に格別の支障を生ぜしめない程度・態様の二重就職については、兼職(二重就職)を禁止した就業規則の条項には実質的には違反しないものと解するのが相当である。」

 就業規則で規定したからといって、会社は従業員に対してあらゆる副業を一律に禁止することはできない、ということです。

 裏を返せば、会社が副業を禁止または制限をする口実・理由として合理的・妥当なのは、従業員がその副業を行うことよって、「会社に迷惑が掛かる場合」に限定されるべきということです。

 そこで、従業員の副業に対し、会社が取るべき望ましいスタンスについて、具体的に考えてみましょう。

 「雇用される労働者」という立場で従業員が副業を行うことは、(前回エントリで指摘したように)会社が割増賃金を負担する義務が発生する可能性や、従業員の健康上に問題が生じた場合に会社が安全配慮義務を問われる可能性を鑑みると、会社が禁止することは合理性の面から見ても妥当性を十分に説明できます。

 一方で、「競業禁止、情報漏洩の禁止」は確かに会社に迷惑が掛かりますが、これらの事象は副業の有無に関わらず、そもそも競業行為、情報漏洩行為自体が問われるべきです。要は、競業でなく、かつ情報漏洩の懸念が無い副業まで禁止する合理的理由にはならないということです。

 レピュテーションリスクに関しては、自社の評判に悪影響になる(会社の迷惑になる)と思われる副業だけを禁止すればよいのです。

 なお、従業員個人に、自分がやろうとする副業が「会社に迷惑を掛けるか否か」の判断を委ねることは避けるべきです。迷惑かどうかの判断は「迷惑をかける方」ではなく、「迷惑を受ける方」の判断を尊重すべきであり、あくまで会社が判断する必要があります。

 故に、従業員が副業を行うにあたっては事前に会社の許可を取る(または会社が示す条件を満たしたうえで届出制とする)というプロセスは妥当であると言えます。

 その上で、会社が副業を許可する判断基準の大原則は、「業務時間以外の個人での活動は、会社に迷惑を掛けないのであれば本人の自由である。」であり、これに照らして考えていけばよいのです。

 先月に取り上げた「副業採用」の話などもあり、副業に対して企業がどの程度容認し、または積極的に推進していくかが今後企業の採用力や組織競争力に影響していく時代になり始めているのかもしれません。「副業禁止の見直し」は、今からでも遅くありません。貴社でもぜひ、真剣に検討を始めましょう!

「副業採用」のススメ - hrstrategist’s blog

 では、Have a nice day!

※副業に関しては、こちらのエントリもぜひご覧ください。