hrstrategist’s blog

組織人事ストラテジストのつぶやき、業務連絡など。。

経営の観点でストックオプションを有効活用する、最適配分の考え方

 おはようございます、組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。

 今回のエントリは、経営の観点から、ストックオプションをどう最適配分するかについての話をいたします。

 先日、あるクライアントの役員の方より、ストックオプション(以下、SO)を従業員に付与する際に、どのように配分すべきかについて相談を頂きました。せっかくなので、アドバイス内容のエッセンスを要約し(個社の事情に関わらない範囲で)シェアいたします。

 ストックオプションに関する以前のエントリもぜひご一読ください。

ストックオプションと従業員のインセンティブ - hrstrategist’s blog

 ストックオプションについての解説

「自分の価値」を計るストックオプション制度 | 磯崎哲也事務所

http://www.plutuscon.jp/upload/report/20140430_63/20140430_63_plutus_report.pdf

 そもそも、従業員にSOを付与する目的・狙いとは何でしょうか?その付与基準はどのように決めれば良いでしょか?給与や賞与、福利厚生、またはインセンティブ(報奨金)と何が違うのでしょうか?

 SOの発行は、本来的にはキャッシュアウトが生じないので(実際には、登記費用や証券会社・信託銀行、加えて場合によっては専門家へのアドバイザリー費用等が発生しますが)、営業キャッシュフローのみでは成長のための投資資金に足りないスタートアップ企業と非常に相性が良い手法です。将来的に会社が上場し、株価がSO行使価額より上昇すれは、行使価額と売却額の差額がSO所有者の利益となります。ベンチャー企業の場合は、会社の成長・株価の上昇によって大きな利益の可能性が期待できる訳です。

 キャッシュアウトを要しないため、経営者としては安易に発行を考えがちです。一方で近年は会計上の費用として認識されるようになり、調子に乗ってジャブジャブと沢山発行すると、その分費用計上され、会計上の利益を圧迫します。かつ、過大なSO発行は(株式希薄化の懸念により)株式上場(IPO)の審査で引っかかる場合もあるようです。そもそも既存株主が許すかという懸念もあります。要はほどほどにしなさいという事ですね。

 その上で、従業員へのSO付与というのは、「人件費」であるという認識をしましょう。給与・賞与・福利厚生費と同じく人件費の範疇の中で、SOに対してどれだけの比率を割くのかという点を考える必要があります(当然ながらSO費用も管理会計上の予算・実績管理の対象となります)。
 
 まずは、「そもそも従業員全員にSOを渡すべきか」です。これに対しては、「価値の分かる人に限定して付与すべき」というのが私の基本スタンスです。「みんな仲良く少しづつ」オプションをばら撒くのは不必要な株式希薄化・費用化を招き、非効率なだけでなく、本来多くオプションをもらえるべき人材(会社としてはリテンションすべき人材)に不公平感を与えます。SOの価値を感じていない従業員に与えても「豚に真珠」である一方、SOの価値を理解している優秀な社員は、経営陣の思慮が浅いSO配分によって自分に回る分が少ないことが分かった途端に白けてしまいます(IPO時にSOの付与個数はOpenになるので、その中で自分への配分比率は分かります)。SOの配分は給料よりむしろメッセージ性は強いものであり、安易に決めず、慎重かつ経営者の意思を十分に込めて決めるべきです。

 とはいえ、未上場企業の場合、IPO前からいる従業員がIPO時に一切SOを持っていないというのが可哀想だと経営者が考えることも理解はできます。もしそうであれば、新人やオペレーションレベルの社員(イメージでは社員の半数程度)は最低単位の付与で十分ではないでしょうか。

 そして、「付与個数をどう決めるか」に関しては、これは、「グレード等で同一の個数」といった一律的な基準とするのでなく、経営者の意思で、徹底的に恣意的に差をつけるべき、というのが私の考えです。

 というのも、税制適格の要件(下記)を満たすために、SOの行使は付与してから数年後となり、かつ条件として「行使時に会社に在籍している」とするのが通常です(非上場企業の場合は上場も条件になります)。

ストックオプション税制のご案内(METI/経済産業省)

つまり、「その場で払いきり」の給与・賞与と異なり、SOは在籍し続けなければメリットが無い、リテンションに強く利く長期的なインセンティブ(Long term incentive)です。その特徴を活かし、給与・賞与とは異なった物差しで付与しなければ、わざわざ他の手段と分けて実施する意味がありません。

 差を付ける基準は、その人の「ポテンシャル」です。その人が会社に残って活躍することにより会社にもたらすであろう未来の貢献度(の推定)に応じてSOの個数に差をつけるのです。現状は高い給料だけど将来的にアップサイドが少なそうな人には少なく、今のグレードや給料が低くても将来的に会社に大きく貢献してくれそうな人には多く与えるべきとなります。

「その人の現在価値(報酬)=現時点での貢献度(≒代えがたさ)+将来もたらしてくれるであろう累積貢献度(≒代えがたさ)の現在価値(退職リスクを含む)」

その人は「代えがたい」人材ですか?-「人件費」というパイの分け方(3) - hrstrategist’s blog

であると、以前のエントリで書きました。SOの配分は後者の「将来もたらしてくれるであろう累積貢献度(≒代えがたさ)の現在価値」に連動させるべきです。なお、「在職条件」をSOに付けることにより、「退職リスク」分は配分を決める際には考慮しなくて良くなります(辞めるかもしれない人に多く付与しても、その人が退職すればオプションは無効になるため)。

 よって、グレード間でSO付与個数の逆転があっても全く問題はありません。例えばグレードが高い社員でも上がり目がない、またはローパフォーマーであればSOを付与せず、一方で将来有望な若手に多めに付与するというのも大いにあり、ということです。要は、どういうロジックで付与したかをしっかり説明出来る事が大事です。

 もう1点注意すべき点は、SOの付与は過去の在籍期間・実績等に囚われすぎない方が良いという事です。社歴が浅い人でもポテンシャルが高ければ多く付与すべきですし、一方で社歴が長く、過去に貢献があっても今後のポテンシャルが低ければ少なくすべきです。「社歴を考慮する」というのは過去の実績を評価しているという事を意味し、それは「ポテンシャル」ではありません。ここでは変に経営者の情が入りがちですので、冷静に、ロジカルに決めてください。

 SOの付与は1回では終わらず、IPO前でもSO付与の数回のチャンスはあるかと思います。その際には過去の付与個数、行使価額も考慮に入れながら、付与数を個別に調整していくことも大事なプロセスとなります。前回の時点で期待値が高すぎて付与しすぎたと感じるなら、次回のラウンドでは少なめに与えたり、逆の場合には多めに与える等の調整は、あってしかるべきという事です。

 以上、従業員へのSO発行を想定されている会社の方には参考にしてみて下さい。

 では、Have a nice day!