hrstrategist’s blog

組織人事ストラテジストのつぶやき、業務連絡など。。

個人の「頑張り」は人事評価に反映されるべき?

 こんばんは、組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。「今年は猛暑」という予想でしたが、少なくとも東京地方ではそこまで至っていないように思います。願わくばこのまま何事もなく真夏が過ぎて頂くと個人的にはありがたいですね。一方で、突発的な大雨(ゲリラ豪雨)は多くなった気がします。以前住んでいた(赤道直下の)シンガポールでよく経験したようなスコールです。もはや東京は熱帯ですね。

 さて、今回は人事評価に関するトピックです。多くの会社において、人事評価の手段として「目標管理」「目標評価」という手法が導入されています。評価期間の初めに各個人ごとの目標を設定し、期末(または期が終わった後)に設定した目標の進捗状況を確認し、評価に反映するという仕組みです。

 目標評価・目標評価の「あり方」については様々な意見・主張がありますが、その話から始めると話が広がりすぎますので、「被評価者の個人的な「習熟目標」を人事評価に反映すべきか、否か」という点にテーマを絞ります。

 ここでは「習熟目標」を、「会社の業績向上のための直接的な活動」でない活動に対して設定された目標、と定義します。例えるなら、プロスポーツ選手の「練習」に当たるものです。「ランニング〇キロ」「腕立て伏せ〇回」「素振り〇回」「ノック〇本」といった類のものです。ビジネスでいえば「(業務上必須ではない)資格取得」「TOEIC〇点」「〇〇関連本を〇冊読む」といったものですね。

 このような「習熟目標」を従業員に決めさせ(会社や部署の業務目標とは連動しないものなので、従業員が自ら決めるのが自然です)、その結果を人事評価とそれによる報酬(給与・賞与等の増減)に反映させている会社は少なくありません。

 その意図は、「従業員の育成」です。経営者や人事担当者は、「ぜひとも従業員には成長して欲しい」と考えます。100%善意です。そこで、「業務の目標とは別に、成長のために必要な自己啓発をやらせるために、仕組みとして目標を立てさせよう」、「単に目標を立てさせるだけではインセンティブがないから評価に反映させよう」というロジックです。

 気持ちは分からないでもありませんが、このやり方には私は反対です。

 目標を立てさせること自体は良いことですが、それを報酬に連動させると話がおかしくなるのです。

 スポーツ選手(例えばプロ野球選手)が試合に勝つために沢山練習したとします。その人の報酬は練習量に比例するでしょうか?練習をするのは試合で良い結果を出すためであり、たとえ人一倍練習をしたとしても本番で良い結果が出なければ評価されないのがプロの世界です。目的は「本番の結果」であり、あくまで練習はそのための「手段」です。

 だからといって練習の手を抜けば、それは結果に反映されます。人一倍練習をしなければ(少なくとも長期的に)活躍を続けることはできません

 「成果(結果)」に関わらず、「習熟目標」の出来を報酬に反映するとなると、「練習をすること」が手段でなく目的になってしまいます。それは、子供に対して「勉強をしたらお小遣いをあげる」と言うのと同じことです。お小遣いをもらうために勉強する子は、お小遣いを貰わないと勉強する気を失ってしまいます。

 考えてみて下さい。「あなたは毎日ランニング〇キロという目標を達成したから、来年の年俸を10%上げましょう」というプロスポーツチームがあるでしょうか?自分がチームのオーナーだとして、「私はこれだけ練習を頑張ったのに、なんで年俸を上げてくれないのですか?」と、二軍の選手に言われたら、どう思いますか?

 「習熟目標の評価反映」はそれと同じことです。会社の業績には全く貢献せず、熱心に「習熟目標」の達成だけを追求する従業員が現れることになりかねません。そして、(皮肉なことに)会社の人事制度がそれを促進しているのです。

 頑張ること(Input)は大事ですが、それはあくまで結果(Output)を出すための手段に過ぎないのです。頑張っている人に共感する気持ちは分かりますが、「頑張っているかどうか」はあくまで主観的な印象に過ぎません。
 
 報酬はあくまで成果(結果)と「成果に繋がる(会社が正しいとする)行動をどれだけやったか度」で決まるべきです。よって、「習熟目標」に限らず業務目標に関しても、頑張り基準(労働時間とか、訪問件数とか)でなく、成果基準(やった前後の変化度や、訪問後の獲得件数等)、生産性を反映させるべきです。たとえサラリーマンであっても、業務の対価として、成果・貢献度に応じて報酬をもらうというプロフェッショナルです。プロは「結果(Output)」で勝負すべきというのが私の主張です。

 「手段」に対する頑張り度を評価に反映するのは、その人を「プロ」として認めていないことになりませんか?と私は思うのです。プロに対して失礼である、と。

 人事制度は会社が従業員に伝える、重要なメッセージなのです。

 では、Have a nice day!