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記事公開: 福利厚生の考え方 「月刊 人事マネジメント クラウド人事部長に聞く経営人事のQ&A」

 こんにちは、組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。

 「月刊 人事マネジメント」の2016年6月号(連載5回目)が、記事掲載より1ヶ月経ちましたので、記事内容をシェアをさせて頂きます。みなさまの参考になればと思います。

※こちらは前回のエントリです。
http://hrstrategist.hatenablog.com/entry/2016/06/06/175809

 Blogの仕様上PDFファイルを添付できませんので、もしPDFファイルがご希望の方は、arainoori[at]gmail.comまでご一報下さい!

以下、記事内容です。雑誌のページをJPG化して一番下にも貼りましたので、どちらか読みやすい方でご覧頂ければと思います。

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 急成長する中で日々組織と人事に関する課題に悩むベンチャー企業の創業社長と、人事アドバイザリーとして社長を助ける「クラウド人事部長」の対話の第5回目です。今回は福利厚生がテーマです。ベンチャー・成長企業にふさわしい福利厚生の考え方とは?

・第5回:福利厚生の考え方

福利厚生費は人件費の一部
社長:昨日、久しぶりに企業経営者の先輩と飲みに行ったのだけれど、先輩から、「お前の会社の福利厚生はどうなっているんだ?従業員のためにも福利厚生を充実させないとダメだぞ」なんて言われたんだ。福利厚生なんて儲かっている大企業にだけある特典で、自分の会社には関係ないと思っていた。だからそんな風に先輩から言われるとは意外だったんだが、従業員にとって福利厚生はそんなに大事なのかな。うちの会社は十分に給料を払ってるつもりだし、それ以上要求するのは単なるわがままじゃないか?

クラウド人事部長:飲み過ぎないように気をつけて下さいね。福利厚生については、会社によっていろいろな考え方があっていいと思います。手厚い福利厚生を用意するのも、逆に「すべて給料で還元するから福利厚生は最低限」とするのもありです。実際に、大企業でなくても福利厚生を充実させている会社はたくさんありますよ。要は、自社の経営理念・戦略と整合性があり、かつメリットがあると思えばやればよいのです。

社長:福利厚生を手厚くすることでこれまでより良い人材を採れたり、離職率が下がるならやる価値もあるかもしれないな。

クラウド人事部長:従業員や応募者にとっては、福利厚生がないよりあった方がいいでしょうね。でも、そのコストはどうやって捻出するのですか?

社長:えっ、それは考えていなかったなあ。

クラウド人事部長:それはまずいでしょう。福利厚生費は人件費の一部です。新たに何かを始めるなら、現行の人件費予算の枠内でやるか、または人件費予算を増やすかを決めなければいけません。単なる思いつきで実施するのでなく、人件費の中で他の使い道と費用対効果を比較検討すべきです。
 また、「何か」をやるということは、「他の何か」を(少なくとも現時点で)やらない理由を従業員に説明できなければいけません。例えば、「新しい施策よりも、その分の費用を昇給に回してほしい」と言われたら、何と答えますか?

社長:それも考えてなかったなあ。うちの従業員はそんなことを言ってこないと思うけど。

クラウド人事部長:でも、思っていますよ。社長が聞く耳を持たないと思って、あえて言わないだけです。

社長:確かにそんなことを言われたらイラッとくるかも…。

クラウド人事部長:会社が「使うべきところに使わず、無駄なことにお金を使っている」と感じると、頑張っている従業員ほど意欲が萎えます。その施策の意義を、メリットを受益しない従業員に対してもきちんと説明し、感情面と論理面の両方で理解させる必要があります。これは結構難しいです。
 そういえば、やたらと報酬や福利厚生を手厚くした結果、潰れてしまったベンチャーもありました。あくまで予算は有限ですから、「生産性向上につながるか」「費用対効果が見込めるか」「他の施策と比べて効果が高いか」を基準に判断しないといけませんね。

既得権にしない仕掛けを
社長:そう言われてしまうと、なかなか悩ましいね。今の給料を削って福利厚生に回すなんて言ったら、みんな怒るだろうし。

クラウド人事部長:高度成長期以前のわが国では、「生活給」という概念が一般的でした。従業員とその家族の生計費を保証し、生活の心配のない状態をつくることを従業員は会社に求め、会社もこれに応えてきました。加えて長期雇用の前提もあり、従業員は安心して働くことができたし、企業の生産性も向上した時代でした。生活給を前提とした年功序列的な報酬制度や、社宅や住居・家族手当といった福利厚生はそのような前提の下で最適化された仕組みでした。
 ところが、今はもう時代が変わりました。旧来型の手厚い福利厚生を提供してきた伝統ある会社は、その仕組みを改革するのに苦労しています。何かを変えるということは、必ずその変更に伴って(少なくとも短期的には)不利益を被る人たちが出てきます。これを「不利益変更」といいます。従業員(労働者)の合意なく労働条件の変更は原則できない(労働契約法)のですが、自身の不利益になる条件変更を従業員は簡単には認めたくないというのは理解できるかと思います。
 一方で、我々のようなベンチャーは、古いしがらみはありませんから、今の時代のニーズに合わせ、報酬や福利厚生などの労働条件を一から作ることができます。これは大きなメリットです。

社長:そうなんだ。大企業は大企業なりに大変なんだね。

クラウド人事部長:ベンチャーであるメリットを生かすためにも、既成の概念にとらわれずに福利厚生のあり方を考えましょう。大企業のマネをしても意味がありません。旧来型の福利厚生が欲しい人は、ベンチャーでなく大企業に就職すればよいのです。
 注意すべきは、一旦導入された福利厚生施策は「既得権」になってしまうことです。特に、施策の導入後に入社した従業員にとっては、それは「あって当たり前」であり、ありがたみがありません。そこで、新たな施策はまずトライアルとして試験的に導入し、一定期間経過後に効果検証を行った上で正式な導入の可否を判断する、または、あらゆる施策を定期的に見直し、改廃できるようにする等、「既得権」にしないための仕掛けをあらかじめ仕込んでおくのがよいでしょう。
 他にも、自分にとって優先順位の高い福利厚生施策を個々の従業員が選べる「カフェテリアプラン」を取り入れるという手もありますね。ただし、管理に手間がかかるのが難点ですが。

勇気と覚悟で突き抜ける
社長:確かに、「あって当たり前」と思われるより、感謝してもらえるようなものにしたいね。かつ、リクルーティングに繋がるような面白いものがいいな。

クラウド人事部長:「面白い福利厚生施策」を売りにして、積極的に宣伝している会社は確かにあります。「他社と違う、面白そうな会社」をアピールし、好感度を上げるという意味では有効なやり方です。ただし、やるなら徹底してやるべきです。中途半端では埋没します。自社への「アンチ」ができるくらい、突き抜けないと。

社長:「嫌われる勇気」か。分かってくれる人だけに分かってもらえばいい、と割り切るのはなかなか勇気が要るなあ。

クラウド人事部長:社長が腹を括らないとダメですよ。そうしないと担当者は萎縮します。 なお、「他社より福利厚生が手厚い」状態を目標にしてはいけません。待遇で釣られる従業員は他社から好待遇を提示されたらそちらに行ってしまいます。
 福利厚生は「衛生要因」です。他社に劣るのであれば離職(または入社をためらう)の原因になりますが、この会社で働きたい!と思わせる「動機づけ要因」は「経営理念への共感」、「仕事のやりがい」にあります。ここでも経営理念、戦略とのストーリーの一貫性が大事です。そこがぶれると施策が嘘くさくなり、「裏の意図があるのでは」と勘繰られます。

社長:結局、経営理念に行きつくんだね。
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