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組織人事ストラテジストのつぶやき、業務連絡など。。

記事公開: 人事評価・報酬の考え方 「月刊 人事マネジメント クラウド人事部長に聞く経営人事のQ&A

 こんにちは、組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。

 「月刊 人事マネジメント」の2016年5月号(連載4回目)が、記事掲載より1ヶ月経ちましたので、記事内容をシェアをさせて頂きます。みなさまの参考になればと思います。

※こちらは前回のエントリです。

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 Blogの仕様上PDFファイルを添付できませんので、もしPDFファイルがご希望の方は、arainoori[at]gmail.comまでご一報下さい!

以下、記事内容です。雑誌のページをJPG化して一番下にも貼りましたので、どちらか読みやすい方でご覧頂ければと思います。

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 急成長するなかで組織と人事に関する課題に日々悩むベンチャー企業の創業社長と、俯瞰的視座から人事アドバイザリーとして社長を助ける「クラウド人事部長」の対話の第4回目。今回は、人事評価と報酬の話です。社長の悩みは尽きません。

・第4回:人事評価・報酬の考え方
おざなりになりがち
社長: 年度も替わって、そろそろ前の期の人事評価をしなくてはいけないんだよ。「しっかりやってくれよ」とマネージャーたちには言っているのだけど、いつものことながら、みんな「忙しくてヒマがない」とか「面倒くさい」とか言って、評価の作業をやりたがらないんだよなあ。

クラウド人事部長:人事評価の作業の優先順位を下げて後回しにしてしまう傾向は、多くの会社で見受けられますね。被評価者と面談をしなかったり、したとしても形だけのおざなりなものであったり、評価シートを見ると、そもそも目標設定が適当だったり。。

社長:どこの会社もそんなものなのか。ちょっと安心するな。

クラウド人事部長:低いレベルで安心するのもどうかと思いますが、正直な所、多くの会社で行っている「目標管理」にしても、「わが社では完璧に運用しています!」という会社は、私は1つも聞いたことがありません。それでも「やらないよりはマシだから」と、どの会社でもやっているのですよ。

社長:そうかあ、よそも一緒なんだな。目標管理と言ったって、うちのようなベンチャーでは期初の目標が後から変わるのもよくあることだからね。そんな時に、「どのように評価をすればいいのですか?」なんてよく社員に聞かれるね。

クラウド人事部長:目標が変わったら、新しい目標で見てあげればいいだけの話なんですけどね。「一旦決めた目標は絶対に変えるな」という会社もあるようですが、私に言わせればナンセンスです。また、「目標の達成度で評点を決めるべき」という考え方もよく聞きますが、これも実は間違いです。

社長:えっ、ダメなの?

クラウド人事部長:目標の達成度で評点が決まるなら、できるだけ難易度の低い目標を設定すれば被評価者にとって有利になりますね。それを防ぐために、目標ごとに難易度の高低を設定したり、本人に目標を決めさせず会社から一方的に目標を押し付けたりする会社もありますが、それで適切な難易度の目標が設定できるかどうかは怪しいと思いませんか?
 また、「目標に定めたこと以外は評価されないからやらない」という弊害が起こるという傾向もあります。これらはいずれも実際にあった話です。そもそも、「目標管理」「目標評価」自体に過大な期待をすべきではないのです。

複雑にせずシンプルに
社長:では、どうすればいい?

クラウド人事部長:難しく考えなくていいのです。目標設定の達成度にかかわらず、単に、その人の会社に対する期中の「貢献度」を評価してあげればいいのです。目標管理は、評価者が被評価者にどのような貢献を期待するか、何をやれば貢献が評価されるかの、双方の目線合わせの手段、手法の1つでしかありません。そう考えると、「やらないよりマシ」という意味合いも理解できますよね。

社長:なるほど。そのような評価基準であれば、「目標設定しているか否か」とか、「難易度はどうか」とか面倒なことを考えなくていいわけだ。でも、客観的に「貢献度」をどう捉えるかは簡単ではなさそうだね。

クラウド人事部長:おっしゃる通りですが、結局人の評価なんて「主観」でしかないのです。「公平性が大事」だからと、精緻で複雑な人事評価制度を作り、評価結果が評価者の実感と乖離してしまった結果、「実感」に合わせて評点を逆引きで調整することになるというのもよくある話です。

社長:うん、自分にも思い当たる節があるぞ。

クラウド人事部長:忘れがちなのは、複雑な評価制度は、運用も複雑になり、かつ評価者のスキルに深く依存するということです。百戦錬磨のベテランが評価者であれば良いですが、急成長のベンチャーのように未熟なマネージャーが評価者とならざるを得ない場合は、その複雑さが仇となります。戦国武将をイメージすれば分かりますが、古来人間は、「制度」などなくてもトップの直観で評価や報酬の配分を行っていたのです。「直観」「実感」は概ね正しいものです。そう考えると、良い評価(報酬)制度というのは、「経営者の意思を反映しやすい」「経営理念・戦略と一貫・整合した(矛盾しない)」「複雑すぎず、できるだけシンプルな」「評価者の直観に近い」ものということになりますね。

社長:評価の精度を求めても評価者の技量が追い付かないということだね。そうであれば複雑なことをしても徒労に終わるだけだから、まずは「主観」「直観」「実感」ベースの方がマシだと。

クラウド人事部長:その通りです。そして、「主観」ベースの評価を行う際に評価する側とされる側のズレをできるだけ減らし、目線を合わせるためのツールが「目標管理」なのです。逆に言えば、双方の目線が合っているなら、目標管理すら必要ない。

評価よりも報酬を優先する
社長:おお、腑に落ちた。そういうことか!

クラウド人事部長:あと、押さえておくべきは、「評価制度」と「報酬制度」は、密接に関連するものの、それぞれ別のものであるということです。これまでは、主に「評価(制度)」についての話をしてきましたが、人事評価をいかに報酬に反映するかというのは、非常に重要な問題です。どんなに評価が高くても報酬にそれが反映されないなら、評価者、被評価者の双方にとって、真面目に人事評価を行う意欲は湧きませんよね。

社長:もしかしたら、我が社でもその辺に問題があるのかも…。

クラウド人事部長:それだけではありません。報酬制度が未整備な状況を放置すればするほど、あるべき姿と実際の報酬水準が乖離し、不公平な状況を是正することが一層困難になります。よって、評価・報酬が未整備な段階では、評価制度より報酬制度を優先して、いち早く整備すべきなのです。

社長:中途採用だと、前職の処遇を保証しなければいけない場合も多いよね。結果、他の社員とのバランスが悪くなってしまう。そのような場合はどうすればいい?

クラウド人事部長:入社時の条件としてはやむをえません。ただし、それはあくまで期間限定の一時的な措置とし、一定期間を過ぎれば、他の社員と同じ基準・報酬制度で貢献度に応じて自社の報酬制度・テーブルにて処遇をする、場合によればその際に降給もあり得る、と明言すれば良いのです。自らに自信があり、意欲のある人なら全く異存はないでしょう。

社長:処遇に関することは既得権になりがちだから、事前にその位厳しい話をしておいた方が良いのかもしれないね。

クラウド人事部長:あとは、その仕組みを魂を込めて運用することです。社長も、人事担当者も、経営理念と繋がったぶれない信念と、社員との議論で絶対に負けない理論武装が必要です。昔の戦国武将は、下剋上で部下から殺されるかもしれないという危機感を持って報酬の配分をしていました。我々もそのくらい真剣に、覚悟を持ってやらないといけませんね。

社長:そうだよな。1回の人事評価が下手をすればその人の人生を変えてしまうかもしれないんだよね。私自身だけでなく、マネージャーにも改めて「真剣にやりなさい」と伝えるようにするよ。

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独立開業2周年

こんにちは、組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。

 今日は午前は横浜、午後は栃木でミーティングという、移動距離の多い一日です(しかも雨雲と一緒に移動という、、)。忙しいというのは何らかの形で世の中のために役に立てているということですから、本当にありがたいことだと思います。

 さて、今日、6月9日は、「組織人事ストラテジスト」として開業してから2周年の記念日です。「〇周年」というのも2回目となると、前回ほどの感動や感慨があるわけではありませんが、とはいえこうやって活動を続けることができるのは、とても幸運ですね。

 1年前の今日は、「2年位は頑張ってみて、それでも食えなかったら諦めようと思ったりもした」などと書きましたが、いまは幸い何とか食えてはいますので、諦めなくて良くなりました。とはいえ、安定とは程遠い業態でもありますので、現時点では「寿命が2年伸びた」と考えて、引き続き、いま目の前にある業務を精いっぱい行って行きます!というのが、3年目の抱負となります。

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 また、今後の事業展開(など)についてはいろいろと考えていることもありますので、時期がきましたら改めて報告をさせていただくつもりです。

 という訳で、今後とも引き続き、ご指導、ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします。

過去の「ごあいさつ」

Blog始めました。 - hrstrategist’s blog

独立後7ケ月での近況報告 - hrstrategist’s blog

退職独立1周年 - hrstrategist’s blog

 

記事掲載: 福利厚生の考え方 「月刊 人事マネジメント クラウド人事部長に聞く経営人事のQ&A」

 こんにちは、組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。週末は某所の温泉に行ってきました。いわゆる「遊び」の入浴でなく、体を治すための「湯治」のための秘湯に行ってきたのですが、これは疲れます。なにしろ湯温が高すぎで入れない。。ともあれ、楽しんできました。リフレッシュは大事ですね。

 株式会社ビジネスパブリッシング様の「月刊人事マネジメント」誌 2016年6月号(6/5付発刊)にて、私の連載「クラウド人事部長に聞く経営人事のQ&A」の連載第5回目が掲載されています。今回のテーマは、「福利厚生」の考え方です。

 ベンチャー企業の創業社長と、人事アドバイザリーとして社長を助ける「クラウド人事部長」との対話を通じて、ベンチャー・成長企業における福利厚生に対する考え方と施策導入の際の留意する点などを紹介しております。

 定期購読が必要な業界誌ですので、なかなか手に取る機会は無いかもしれませんが、もし機会がありましたら、ぜひご一読ください!

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記事掲載:「マネージャーの最も重要な仕事とは」 Business Nomad Journal

 こんにちは、組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。週末はバイクでちょっくら花巻と田沢湖まで行ってきました。日本列島、その気になれば狭いですね!とはいえ、好天に恵まれて助かりました。

 BUSINESS NOMAD JOURNALの連載(11回目!)をご紹介します。今回のテーマは、「マネージャーの役割」です。

 企業が発展、拡大していくなかで重要になる、中間管理職としてのマネージャーの役割について解説しています。時にはマネージャーの仕事を社長が阻害したりする場合も(よく)ありますので、そのあたりにも触れています。

「社長への権限・責任の集中が次第に業務執行のボトルネックとなり、企業の成長を阻害するようになります。」

「1人のマネージャーが管理できる最適な部下の数は何名なのでしょうか。」

「多くの企業では、上記のような「組織の成長に伴う権限委譲」が容易に行われません。」

「ここで「パラダイムシフト」に踏み込めるかは、ベンチャー企業が成長を続け、大企業となれるか、ありふれた中小企業に終わるかの分かれ道となります。」

「会社が求め、かつマネージャーが追求すべき「貢献」とは、単に一定期間の売上や利益などの定量的・短期的なものに限らないということです。」

bn-journal.com

ぜひご一読を!

どのくらいが、適正な離職率(定着率)なのでしょう?

 おはようございます。組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。朝晩は涼しくなるのでまだ良いですが、最近の東京地方の昼間の日差しには耐えられなくなりつつあるのが目下の悩みです。今日は雨(止みましたね)ですが、雨はもっと嫌いです。。

 最近は雑誌(月刊人事マネジメント)やWeb(Bussiness Nomad Journal) の連載記事の紹介ばかりで、Blog用の記事をしばらく書いておりませんでした。正直なところ、後回しになっています。プロである新聞記者さんのような「文章を書く修行」を積んでいないので、原稿書きは毎回煮詰まり、苦労しております。それよりダービーの予想に心が惹かれますね。。

 とはいえ、依頼された原稿とは別にBlog記事という形でアウトプットを出すことは、自身の頭の整理になると共に、後から再確認もできる(さらには依頼された原稿のネタになる)ので、相応の価値はちゃんとあると思っています。

 という訳で、今回のテーマは、会社における従業員の離職率(または定着率)の話を取り上げたいと思います。

 まずは離職率(英語では、turnover(rate)と言います)と定着率(Retention rate)の定義から押さえましょう。離職率は、通常「年間〇%」という形で表現されます。期初の人数が分母、期末までの年間退職退職者数を分子とするというのが最も単純なパターンです。一方で、期初にいた人のうち年間何%退職したかをみるという方法もあります。後者は「期中に入社して期中に退職をする人」がカウントされないので、その分離職率は低く現れることになります。定着率は、いずれにしても「1-離職率」ですね。

※「入社後3年の離職率(定着率)」もよく使われる指標ですが、今回は取り上げません)

 「あの会社は離職率が高いからブラック企業だ。気を付けたほうがよい。」「あの会社は離職率が低いから良い会社だ。」といった類の話はよく聞きます。また、多くの企業において、従業員の離職率は、人事が追うべきKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)とされていますね。

 では、高い離職率とは何パーセント以上で、低い離職率とは何パーセント以下を指すのでしょうか?考えてみたことはありますか?

 実は、「適正な離職率」の絶対値というものはありません。というのも、国や業種、企業の規模やライフサイクルの段階によって、適正なレベルは異なるからです。加えて、企業の人材に対する思想によっても異なってきます。

 私が関わっていた某社の経営会議で、各国のグループ企業による離職率の差が課題として取り上げられたことがあります。具体的には「〇国の△社は離職率が高すぎる!もっと下げろ!」といった類の話です。その場にいた人たちは、「その通りだ」と思ったのかもしれません。

 ところが、実際には国によって雇用環境・慣習・労働法制は大きく異なります。その結果現れる数字だけを単純に比較しても意味はありません。上記の〇国に関していえば、国全体の傾向として離職率が非常に高い(特にホワイトカラーの人材に対する需要は逼迫しており、労働者は条件の良い求人があればいとも簡単に転職をする)傾向がありました。また、△社では、営業職の社員は数か月間の試用期間を設けて、優秀な社員に限り契約を続けるというようなスタイルを採っていたのです。もちろん、その国の労働法制には抵触せず、かつ一般的な方法です。

 そのような国において、離職率が30%というのは不思議ではないのかもしれません。国によって状況が異なるのであれば、それに合わせた妥当な離職率目標を設定し、それに対してどの程度達成しているかを本来は追うべきなのです。

 そのような「目標レベルの違い」は、国だけでなく、業種の間にも存在します。例えば、変化の少ない古くからある成熟(または衰退)業界と、IT産業のような変化が激しい新興業界では適正値は異なるはずです。日本企業(日本国内にある事業)に対する私の感覚では、前者が3~5%程度、IT業界(Web系)では恐らく5~10%程度が適性値ではないかというのが私のイメージです(あくまで目安です)。

 なお、ネットで業種別の統計データを探したのですが、見つかりませんでした。国が「雇用動向調査」というものをやっているようですが、これを見てもよく分かりませんね。。よい統計資料がありましたら、ぜひ教えてください。

www.mhlw.go.jp

 離職率・定着率の議論で注意しなければいけないのは、離職率が単に「低ければ良い」というものでは無いという点です。というのも、適正なレベルより低い離職率が、本来は会社に残るべきでない人材が「居座る」、風通しの悪い、生産性の低い状況であるかもしれないのです。

 さらには、単純に数字を追うと見えなくなることがあります。例えば、同じ退職者数、率であっても辞めた人が「会社に残って欲しい人」か、「そうでない人」かによって、意味合いが大きく異なります。本当に大事なのは、会社にとって残っていて欲しい人が離職しているか否かです。

 (離職率が高かった)過去と比べて減っているか、あるべき姿(目標値)との差分、同業他社等と比べて適正か等を知るために離職率を調査することは非常に意味があります。ただし、それだけでなく離職状況の中身についても、リテンションすべき人材を繋ぎとめることが出来ているか、それ以外の人材についても適正な定着率が保てているかはそれ以上に大事なポイントです。これらについて、企業は自社の基準と目標を決め、適正化のための施策を実行していくことが肝要です。

 ぜひ、皆さまの会社でも「適正な離職率」について議論をしてみて下さい。

 では、久々に、Have a nice weekend!