「定期昇給」「賃金カーブ」を疑え!
こんにちは、組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。
先日の産経の記事です。ご覧になりましたでしょうか?
内容は、概ね以下の通りです。
・「日本型雇用システム」は世界的には特殊である
・「日本型」の特徴は、職務を定めない「メンバーシップ型」雇用契約である
・新卒一括採用で入社し、年功昇給を重ね、40歳前後の管理職登用の選抜に漏れた人達が意欲を失い、「働かないオジサン」が発生する
・「ブラック企業」は、日本型雇用システムが変質したもの
一般向けの記事なので深い話にはなっていませんが、真っ当な記事だと思います。
でも、賢明な皆さまは、「なぜ『はたオジ』(勝手に省略)が生まれるのかは分かったけど、そういう人達に俺たちはどう対処すればいいんだ」と、疑問に思われるのではないでしょうか。
この国では、一般的に従業員を解雇したり給料を下げたりするのは容易ではありません。逆に、自分は追い出される心配は無いと考えて(会社が傾いた時など、実際はそうとも限らないのですが)彼らがそうしている面もあるのです。そのような行動を取るインセンティブが彼らにあり、会社にはそれを防ぐ有効な手立てが無いのが現状です。
この件に関しては、上記の記事で2番目にコメントされている濱口桂一郎さんが鋭い指摘をされています。
「残業代ゼロという本音を隠すな」@『労務事情』9月15日号: hamachanブログ(EU労働法政策雑記帳)
インチキ議論の見分け方: hamachanブログ(EU労働法政策雑記帳)
「現行法制上いかなる賃金制度を採ろうが基本的に企業の自由である。日本国のいかなる法律も成果主義賃金を禁止していない。」
「企業の人事政策が勝手に、そう法が求めていないのだから言葉の正確な意味で企業の自発的意思により、(無制限な人事権の行使と引き替えに))終身雇用慣行やら年功序列慣行にコミットして(いる)」
「企業自身が(一切法によって規制されていない)最低賃金以上のいかなる賃金をどういう人に払うかという判断を、自分で都合が良いように年功的にやってきている」
上記記事にて、「william yamin (仮)」さんという方のツイートも引用されています。
『現行法制上いかなる賃金制度を採ろうが基本的に企業の自由である。日本国のいかなる法律も成果主義賃金を禁止していない。』というのであれば、同じように正社員に年功賃金の支払いを義務付ける法律も存在しない。非管理職で高給な壮年・中高年社員の給料を引き下げれば良いだけでは?
— william yamin (仮) (@liam_y23) 2014, 9月 14
正社員の給料を一度上げたらなかなか下げられないというが、そもそも上げないといけないという法律はないし、非正規雇用の給料を上げてはいけないという法律もない。じゃあその正社員は昇給するのが当たり前というのは何的に?という話になる。
— william yamin (仮) (@liam_y23) 2014, 9月 14
「まさにその通りで、」と、濱口さんは引用の後に受けているのですが、まさしく、まさにその通りです。これらの企業は、数十年前に自分達の都合良く作った人事制度(若いうちは給料を安くして生活費が掛かる40,50歳代により多くの給料を払いましょうという「生活給」の考え方)によって、自らを縛ってしまったということです。ある意味自業自得です。
もっと言うと、そういう企業で意思決定をしているのは40代、50代の方たちです。せっかく、「収穫期」まで(相対的に)安月給で若いうちは我慢して働いてきた訳なので、彼らにとっても従来制度を存続させるのは個人の利害で考えるとメリットがある話です(人は結局、その人の個人的な「モチベーション」と「インセンティブ」に刺さらないと動かない、というのは私の持論です)。
これから会社を発展させ、どんどん人を雇っていくベンチャー企業は、このような「日本型雇用システム」の評価・報酬の仕組みをそのまま真似してはいけません。優秀な若者の多くは、「日本型」の仕組みに対して懐疑的です。生活給という発想もありませんし、会社に対して長期雇用を期待していません。働いて会社に貢献した分の報酬は「今」欲しいのです(そして、この考え方は、多くの国ではむしろ普通です)。
優秀人材を獲得するためには、彼らの望みに沿った(かつ会社の方向性にも合っている)報酬・制度を作る必要があります。なお、私はここで「海外の制度をそのまま取り入れるべき」と言っているではありません。何か自社にとってBestなのか、しっかりと悩み、その上で自社に最適の、オリジナルな人事制度を作れば良いのです。
とはいえ、経営者の方達は評価・報酬制度のプロではないので、コンサルタントや人事担当者に制度づくりを任せてしまいがちですが、実はそこにも落とし穴があります。
というのも、そういったコンサルタントの中には、従来「日本型雇用システム」に合わせた制度の設計しか得意でないような会社も見受けられるようなのです。
もし、貴社が相談されているコンサルタントが当たり前のように、「(年齢に応じた)賃金カーブ」を前提とした「定期昇給制度」を提案してくるのであれば、注意した方が良いです(あくまで私見ですが(笑))。
また、驚くべきことに、人事担当者自身が、会社よりも自分達(従業員)に都合が良くなるような制度を取り入れたりする場合もあります。私が過去に関わった中でも、実際にそのような会社がありました。当時の人事担当者は、個人的なインセンティブに忠実に従ったのでしょうね(苦笑)。その会社の仕組みは、もちろん後に変えました。
という訳で、「自社に最適な、オリジナルな人事評価制度」に興味がある方は、ぜひ私とディスカッションをしましょう!
※参考
賃金カーブ
賃金カーブ|人事のための課題解決サイト|jin-jour(ジンジュール)
定期昇給|人事のための課題解決サイト|jin-jour(ジンジュール)