hrstrategist’s blog

組織人事ストラテジストのつぶやき、業務連絡など。。

同一労働同一賃金 コストコ社の事例

 こんにちは、組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。

 だいぶ遅くなってしまいましたが、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。

 近頃Blogの更新がだいぶ滞っておりますが、理由としては業務多忙/サボリ/ネタが無い等々の複合要因ではありつつも、そんな言い訳をせずに頑張りますというコメントを、新年の抱負とさせて頂ければと思います。。

 さて、安倍首相の「私的諮問機関」である、「働き方改革実現会議」において、12月20日に発表された、「同一労働同一賃金ガイドライン案」について前回、前々回のエントリでコメントしました。

hrstrategist.hatenablog.com

 

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 エントリで解説した「ガイドライン案」の趣旨を要約すると、概ね以下のようになるでしょう。

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・そもそも何をもって「同一労働同一賃金」とするか、定義は難しいよね。
・「定義」や「あるべき姿」の議論から始めるとやたら時間が掛かるし、皆が納得する結論が出るとも思えないので、まずは個々の企業で「出来ること」から手を付けましょう。
・この「ガイドライン案」では「正規」と「非正規」間の不合理な待遇差の解消を持って「同一労働同一賃金」としましょう。
・法的拘束力はないので、現時点ではあくまで「努力目標」だけど、将来的にはこの方向で法改正される可能性が高いですよ。
・基本給に関しては、現状の仕組み(年功序列など)を温存して構いません。
・手当や福利厚生は、(差をつける合理性を説明できなければ)原則差を付けてはいけません
・賞与は「非正規」にも「同一の支給」をしなさい。※ココが一番重要

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 前回も触れましたが、このガイドライン案で最も注目すべきは、「非正規雇用者にも賞与を払いなさい」と明示された点です。現状、非正規雇用者に賞与を払っている企業は少数派でしょうから、この「ガイドライン案」発表を受けて、各企業がどのような対応を取るのかは注目したい所です。

 という訳で、エントリを2回に分けて「同一労働同一賃金ガイドライン案」の中身について解説をしてきましたが、残念ながら、この内容は真剣に「正規」「非正規」の待遇格差をできるだけ縮めていきたいと考えている、誠実な企業にとってはあまり参考になりません(まあ、多くの既得権益型日本企業に対する現状追認が(少なくとも部分的には)このガイドラインを出す目的なので、期待をし過ぎてもいけませんが)。

 そこで、「あるべき姿」から考えて真剣に取り組まれている会社の事例を紹介いたします。「高品質な優良ブランド商品をできる限りの低価格にて提供する会員制倉庫型店」を全国展開しているコストコホールセールジャパン株式会社(以下、コストコ)です。

www.costco.co.jp

 ご存知の方も多いと思いますが、コストコは1976年にアメリカで創業し、1999年に日本に進出して現在全国に20数店舗を展開しています。私はよく川崎の店に行きますが、non-Japaneseらしき店員さんが多く、みな楽しそうに働いていて、個人的に好感を持っております(ちなみに、お店の”ニオイ”がアメリカっぽいんですよね。)。それにはどうやら理由がありそうです。コストコの人事戦略は、「同一労働同一賃金」という観点で見ると非常に興味深いのです。以下の記事は大変参考になります。

となりの人事部インタビュー コストコ ホールセール ジャパン株式会社
人事・総務 マーケティング 部長 中川 裕子さん

jinjibu.jp

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以下、記事の引用と私のコメントです。

非管理職は「正社員(週40時間勤務)」のほか、「パートタイム(週20~30時間勤務)」「アルバイト(週20時間未満勤務)」からなり、「時給制」で働いています。」

⇒正社員も時給制なんですね。

「欧米で「パートタイム」と言えば、通常の労働者よりも労働時間の短い人のことです。日本のように、必ずしも非正規労働者を指すわけではありません。コストコでは正社員とパートタイムで同じ「時給表」を用いていて、労働時間の長短では区別していません。賃金面では、同等の「時間比例」を保証しているのです。「時給制」は労務管理の面で優れているので、サービス残業などの問題も起こることはありません。」
⇒時給単価では正社員でもパートでも差を付けないということです。

「パートタイムやアルバイトの場合、日本では有期雇用が一般的ですが、コストコでは基本的に無期雇用で採用します。いったん採用したら、いつまで勤務するという期間を定めた契約は行いません。」
⇒「正規」と「非正規」の差が「有期雇用化か否か」だとすると、コストコのパートやアルバイトの人達は「正規雇用」であると言えそうです。

正規雇用の定義については、以前本Blogでも取り上げました。

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hrstrategist.hatenablog.com

「正社員≒正規雇用労働者を定義する条件として「フルタイムか否か」を挙げる場合があっても、実はその区分は適切ではないという事です。」

「正規・非正規、正社員・非正社員を分ける大きな区分は「雇用期間の定めの有無」に尽きますね。」
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非管理職の正社員とパートタイム・アルバイトは時給ベースでは同じですが、拘束時間や責任の持たせ方、職務の内容が異なります。そのため、賞与や福利厚生面などで待遇に差を持たせています。よく誤解されるのですが、このようにコストコは、決して「同一労働同一賃金」ではないのです。」
⇒ここ重要です。時給は同じでも、責任や職務が違うからその分は賞与や福利厚生で差を付けている。「ガイドライン案」とは違うアプローチなのですが、私にはコストコのやり方の方がよほど合理的だと思えます。

「いま日本で問題となっているのは、週40時間働かせているパートタイムがいることだと思います。(略)パートタイムの方たちだけで実質的に管理を行い、正社員と変わらない仕事をしているのです。それにもかかわらず、有期雇用のために賃金形態や福利厚生が異なり、雇用が保障されていない。それは明らかに不公平です。しかしコストコでは、パートタイムは正社員と比べて労働時間が4分の3程度までの勤務と決まっています。無期雇用で社会保険に加入するなど、この問題のケースとは異なります。」
⇒実質的に正社員と同様に働いているにも関わらず、「パートだから」という「身分」で差別するのはおかしいということですね。正論です。

コストコでは将来のキャリアに関して、入り口がどのような雇用形態であるかを問わないのです。「社内公募制度」を使って、どんどん上に行けるチャンスがありますから、採用の段階では「パートタイムで入社したからといって、そのまま終わることはありません。あなたのやる気次第で、いくらでもチャンスがありますよ」と必ず伝えています。」
「管理職から正社員に戻ることも可能です。介護や育児など、家族やライフステージ上の問題から、「管理職の立場にあるが、その責務を全うできないので一時期、正社員に戻して欲しい」などと、自らステップダウンを申し出る人もいるからです。その後で管理職に戻ることも可能で」
⇒入社の経緯に関わらず意欲と実績次第で登用されるチャンスがある訳です。一方で、ライフステージに合わせて一旦ステップダウンすることも可能なのですね。結果として離職率は業界の中でも非常に低いそうです。

コストコが考えているのは、常に管理職を目指して頑張って働いてほしいという、一人ひとりの成長です。仮に今は同じ時給でも、パフォーマンスが違うのであれば、パフォーマンスの高い人が管理職に登用される確率は高く、より早くプロモートされます。逆に言うと、時給に見合う仕事をしていない人は、勤務時間数で昇給しても最終的には“頭打ち”になります。長い目で見れば、このような差が生じてくるわけで、キャリア形成の可能性が大きく違ってくるのです。」
⇒読めば読むほどよく考えられた仕組みです。

 いかがでしょうか、非常に合理的な問題解決策の参考事例でした。やろうと思えば日本の現行の労働法規の元でもできることは十分にあるということですね。

 業態等による違いもあるので全く同じやり方が出来るかどうかは各社の経営環境によっても異なるだろうという点は当然です。一方で「「正規」と「非正規」間の不合理な待遇差」を漫然と放置したり、開き直る会社に対する世間の目はこれからどんどん厳しくなることも予想されます。良識ある経営者の皆さまに置かれましては、本件は軽く考えることなく、自社の現状を点検の上、問題があれば(弥縫策でなく)本質的・合理的な解決策、改善策を速やかかつ着実に実行されることを期待しております。

では、Have a nice day! (久しぶり!)