hrstrategist’s blog

組織人事ストラテジストのつぶやき、業務連絡など。。

独立開業4周年(と3日)

 こんばんは、みぜん合同会社 組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。

 先週末は、JALのマイル消化と湯治も兼ねて秋田まで飛び、玉川温泉乳頭温泉を巡って、肌がふやけるほど(というと大げさですが)たくさんお湯に浸かってきました。思うに、特に玉川温泉のような強烈なお湯に浸かるのは、非常に疲れます(玉川温泉だと岩盤浴もあるのでなおさら大変)が、それもまた楽しみですね。本当は1週間くらい滞在したいところですが、なかなかそこまでまとまった休みも取れないのが残念です。

玉川温泉の温泉は無色透明ですが、pH1.2と極めて酸性が強く、源泉温度はなんと98度。」(お湯を舐めると酸っぱいです)

www.tamagawa-onsen.jp

 さて、そんな旅行をしている間に、私が独立して事業を始めた記念日である6月9日は過ぎ去ってしまいました。2014年から「組織人事ストラテジスト」として開業独立してから、なんと4年も経ちました。

 過去の「〇周年」の際のBlog記事を読み返すと、なんだか進歩していないというか、(営業の)悩みも変わらないなあという(情けない)感じですね。以下の状況、今でもそのまま当てはまります。

「当時は、2年位は頑張ってみて、それでも食えなかったら諦めようと思ったりもしたのですが、まあ意外と何とかなるもので、それなりに生き永らえることは出来ました。とはいえ、新規顧客開拓には苦労をしているのも事実ではありますので、人事・労務関連でお困りごとがありましたら(漠然としたものも含め)、無料相談、お受けいたしますので、ぜひお気軽にお声がけ下さい。」(1周年)

「いまは幸い何とか食えてはいますので、諦めなくて良くなりました。とはいえ、安定とは程遠い業態でもありますので、現時点では「寿命が2年伸びた」と考えて、引き続き、いま目の前にある業務を精いっぱい行って行きます!」(2周年)

 たまたま3周年の時だけは、「当面食うには困らない」「新規のお話も(ポツポツと)」などと書いておりましたが、(残念ながら)たまたまその時点が「良い時期」であったに過ぎなかったのだ、と今から振り返ると判明しております。

 とはいえ、昨年に大けがをして以来、私の座右の銘は、「しぶとく」となっています。しぶとく生き延びて、来年以降も、「独立開業〇周年」というBlog記事を毎年書き続けることができるよう頑張らなければ、と改めて気持ちを引き締めております。

「私がお手伝いすることで(略)強力な組織・人事体制を作りあげ、企業の成長に貢献することを実現したいと考え、日々活動しております。もし、このような取り組みに興味を持ち、新井と話をしてみたい、相談してみたいという方がいらっしゃれば、ぜひお気軽にお声掛け下さい。」(1周年)

 今後とも引き続き、よろしくお願いいたします!

※過去の「〇周年ごあいさつ」

hrstrategist.hatenablog.com

hrstrategist.hatenablog.com

hrstrategist.hatenablog.com

月末に思う、給与計算の話。

 こんにちは、みぜん合同会社 組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。

 東京地方では、爽やかで湿度の低い、5月の気候もそろそろ終わりつつあります。そして、湿度が高く、雨が多い(そしてバイクに乗れない)梅雨がやって来ます。そのあとは長い夏…。早くまた涼しい季節(秋~冬)が来ないかと、すでに待ち遠しいです。湿気は嫌いです。。

 さて、今月も無事に月末を迎えました。毎月の最終営業日は、各クライアント様より当社の売上を振り込みいただく期日となっております。朝一番に全て入金を確認できると有難いのですが、客先によっては毎回お昼頃に入金となるので、予定した入金がすべて確認できるまでは、なかなか落ち着くことが出来ません(小心者なので)。

 だいぶ昔の話ですが、貸しビルを所有する人の事務所で一時働いていたことがあり、そのオーナー氏が毎月末に賃料の入金にヤキモキしていたことを思い出しました。

 また、新人の頃にいた会社(某不動産ディベロッパー会社)では、調達を担当する部署の先輩が、「ぼくが振込を間違えたら、相手の会社が飛ぶ(倒産する)。だから大変なんだよ」という話をしていたことも思い出します。多くの企業にとって「資金繰り」がいかに重要かを、実際に関わっている方の話を聞いて認識したきっかけでした。

 全ての会社がそのような緊張感を持って支払手続をしているのなら良いのですが、現実にはなかなかそうも行きません。私自身の経験で言えば、お客様からの入金が無く、先方担当の方に確認すると、「すみません忘れていました」「期日を間違えていました」といった事が、年に何回かあります(幸いながら「焦げ付き」はいままで発生しておりません。大変有難い話です)。

 人のやることなので、ミスはつきものなのですが、これが例えば自身が働く会社の給料が給料日に振り込まれませんでした、という話であれば、どのように感じるでしょうか?おそらく、上記の先輩が言っていた、「下手すれば飛ぶ」というのと同様の緊張感をもってちゃんと処理して下さいよ、と給与計算の担当者に文句を言いたくなることでしょう。

 でも、「自身の給与が、給与計算担当者のミスによって振り込まれなかった」ことって今までありますか(会社の業績が悪くて支払遅延、というのは担当者のミスではないので含まれません)?

 多少の振込金額の誤りの経験はあるかもしれませんが、そのような事故をこれまで経験した方は、恐らくほとんどいないのではと思います(少なくとも、今の私の「年に数度」という頻度の人はほぼ皆無でしょう)。

 つまり、給与計算の担当者は「間違えなくて当たり前、間違えたら猛烈に怒られる」という、プレッシャーの掛かる立場にあり、かつ、しっかりと求められたレベルの業務を(概ね)遂行しているのです。

 給与計算担当者の仕事は、誰でも出来るわけでない、プロフェッショナルの仕事です。まず、計算処理を伴うものである以上、事務担当者として高いレベルの正確性と処理スピードが求められます。

 それだけではありません。口が軽い人、うわさが好きな人には向かない仕事です。何しろ自分の同僚や上司、さらに社長や会長の報酬額まで丸見えな訳です。そのような数字をみて(心のなかでは色々と想いはありつつ)表面上は顔色を変えず、感情を乱さず、日々の業務を行う必要があります。私の元上司はよく、「人事担当者は”つるまない”人が良い」と言っていましたが、給与計算の担当者は特にそれが当てはまります。

 また、給与計算担当者は忍耐強くないといけません。工場でいえば、上位工程から下位工程に製品が流れてくるようなイメージで、給料や残業代、各種手当などの情報、また、入社・退社・休職・復職といったデータを取りまとめ、それを金額に反映した上で、銀行に振込額のデータを送る(そして部署別に経費計上の仕訳を切り、経理に提出する)までが給与計算担当者の仕事です。

 ところが残念ながら、ほとんどの会社において、上位工程から流れる情報の精度は必ずしも高くなく、情報の流れは常に遅れがちです。結果的にシワ寄せは、最も下流である給与計算担当者に及びます。不良品が下位工程まで流れ、それを最後に短い時間で必死に検品し、差し戻しをしているような状況です。

 例えば、以下のようなケースはざらにあります。
--------------------
・退職者の情報が未達⇒遡って給与日割り、過払い分の回収の手間が増える
・欠勤の情報が未達⇒翌月以降に控除処理が必要
・入社時の書類不備⇒氏名、銀行口座等が違うと振り込みができない
・採用時の個別契約条項の未達⇒「Sign onボーナス」、「1年間月給固定」「賞与固定」といった項目が給与計算担当者に伝わらず、通常処理をして本人からクレームが来る
・採用時の個別契約条項の多発(家賃補助等)⇒イレギュラーチェック項目の増加
--------------------

 上位工程の不具合を全部受け、限られた時間の中でその不具合を修正(尻拭い)しなければならず、加えて締切厳守の中でアウトプットである給与支給額は絶対に間違えてはいけないという、プレッシャーの掛かる大変な仕事を、給与計算担当者はやっているのです。

 ところが、往々にして、経営者は人事や給与計算を「誰でも出来る仕事」と認識しがちです。または、給与計算を外注し、社内に担当者を置かなくても良いではないか、という考え方もあります。実際に、給与計算の作業自体を外注業者に業務委託する会社も増えています。

 しかし、その場合でも、最終の品質チェックは内部の担当者がしっかり行う必要があります。というのも、自社で優秀な給与計算担当者の確保が容易でないのと同様に、外注業者にとっても、優秀な担当者を採用・確保することは簡単でありません。つまり、外注したからといって、業者が完璧に仕事をしてくれるとは限らないのです(更には優秀な担当者は、要求品質の高い「うるさいクライアント」に優先的に割り当てられます)。作業を外注するか否かに関わらず、給与計算について理解する人は内部にかならず必要なのです(必ずしもフルタイム従業員でなく、例えば社内の事情をよく理解している、信頼できるコンサルタント等ても構いません)。

※参考、以前人事専門誌に執筆した記事です。
--------------------
「うちの会社では人事担当者は2人いるけど、仕事といえば採用がメインで、それ以外に何をやっているのか実はよく知らないんだ。給与計算も税理士だか社労士だかやってくれているみたいだし…」
「そもそも本来人事というのは、それなり以上の成果を出すためには経理やエンジニアと同様に専門のスキルや経験が無いとできない仕事なのですが、多くの経営者はそのような認識を持っていません。」

hrstrategist.hatenablog.com--------------------

 なお、給与計算という仕事は、従業員を雇っている会社では(業務を外注に出していない限り)必ず発生するものであり、ゆえに「給与計算が出来る人」には、必ず採用したいという需要があります。いわば「食いっぱぐれのない仕事」なのです(よく年末調整の時期には派遣社員やアルバイトを大々的に募集していますね)。

 よって、あまりに経営者が給与計算担当者の業務に無理解であり、しっかりと評価・処遇してあげていない場合、特に優秀な担当者はさっさと他社に転職してしまうかもしれないというリスクがある点は、特に経営者の方にはご理解の上、しっかりと彼ら彼女らを大事に扱い、リテンションしてあげて欲しいと思います。ぜひともご注意ください。

 では、Have a nice day!

ノーベル賞学者が教える、正しい「行動経済学」的な面接とは?

 こんにちは、みぜん合同会社 組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。

 毎年、ゴールデンウイークの翌週は比較的道路も空いていますし、気候も良いのでよく遠出をします。 この週末は家族と野沢温泉に行ってきました。野沢温泉には過去に何度か旅の途中に立ち寄ったことがあり、外湯にも入浴したことがあったのですが、今回は旅館に宿泊し、ゆっくり滞在することができました。おかげ様で(?)旅館の内湯だけでなく、2日間で外湯も6か所制覇を達成です。今度は連泊をして、全ての外湯(13か所あります)の制覇を目指してみたいですね。

外湯の紹介 : 北信州野沢温泉 観光協会オフィシャルウェブサイト

 温泉に来ると、生来の貧乏性で多くの回数を入らねばと(あまり長く漬かっていられない体質)頑張ってしまいます。湯治は忙しいのです。そんな合間に読んでいた本の中で、大変興味深い内容がありましたので、紹介をさせていただきます。

 「ファスト&スロー」という本ですが、行動経済学への業績でノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン氏の著作です。

 カーネマン氏とこの本に興味を持ったきっかけは、「マネーボール」で有名なマイケル・ルイス氏の著作、「かくて行動経済学は生まれり」を読んだことです。この本ではカーネマン氏と研究の盟友であったエイモス・トヴェルスキー氏の交友と、彼らの研究によって「行動経済学」という学問が生まれる経過が描かれています。
(ルイス氏の本はどれも面白いのでお勧めです)

  

 「ファスト&スロー」については、「人間がいかに合理的に判断しないか」という、脳のバイアスについて書かれており、(多少冗長でありつつも)大変面白く興味深い内容なので、興味がある方はぜひご一読いただければと思います。

 その中で、ひときわ目を引いたのが、上巻の21章、「直感&アルゴリズム」の中にある、「面接のやり方」の話です。この章では、専門家の判断(臨床的予測)よりも、単純な統計的アルゴリズム(統計的予測)を使った予測の方が、より精度の高い結果が出る(言い換えれば、専門家はアルゴリズムに負ける)事実と、なぜそのような事が起こるか、さらには、そのような事実は(特に専門家にとっては都合が悪いので)無視されがちである事を解説しています。

 その中で、カーネマン氏自身の経験として、自身がかつて母国イスラエルの軍隊にいた際に、召集された新兵を面接で各部隊に振り分ける為の面接のやり方を改善した話が出てきます。彼が採用した方式は以下のようなものだったそうです。

--------------------
・面接官がいくつかの人格特性(責任感、社交性、誇りなど)を評価し、個別に点数をつける
・それぞれの特性について一連の質問を準備した
・質問は、「過去の事実」を訊ねるもの(就いた職業の数、遅刻・欠席(欠勤)の頻度、友人と交際する頻度、スポーツへの興味と参加の度合いなど)で、それぞれの分野で過去にどれだけうまくやってきたかを客観的に評価するのが趣旨
・(ハロー効果を防ぐため)面接官は6つの特性を決められた順序で質問し、次の質問に移る前に5段階で採点する(それ以上のことをしてはいけない)
・面接が終わったら、面接官は最後に5段階の総合評価を付ける
・上記7つの項目を計算式に従い、コンピュータ処理した結果に従い、配属を決める
--------------------

 上記の方式を採用したのは1955年頃だそうですが、その面接方式は有効性が確かめられ、45年後(カーネマン氏がノーベル賞を獲った後)でも、当時とほぼ同様の方式が採用されていたとのこと。とはいえ、カーネマン氏によれば、この面接方式でも「もちろん完璧にはほど遠く、「まったく役立たず」から「いくらか役に立つ」へと進歩した、というのが適切」とのことですが…

 ここで注目すべきポイントは、まず「面接官に最終判断をさせないこと」です。「ハロー効果」とは、面接官や評価者研修では必ず出てくるキーワードですが、繰り返して注意喚起をしないと(してもなお)、無意識に面接官や評価者が陥ってしまう、強いバイアスです。そこで、上記の面接プロセスでは個別の特性評価が他の評価に影響を与える影響を下げるための工夫がされています。

 また、直感的判断による最終評価については、当初はカーネマン氏は懐疑的だったそうですが、評価結果は他の項目と同様の精度だったそうです。カーネマン氏は(「大きな驚き」だったそうですが)ここから得た教訓として、「客観的な情報を厳密な方法で収集し、ルールを守って個別に評価した後」に限って、直感的評価は信用できるとしています。

 実は、上記のような方法は、「構造化面接」と言われる面接方法です。構造化面接とは、事前に決められた質問と評価項目を準備し、面接官がそれを実施する面接で、構造化しない面接(面接官が自分の好きな質問をする)よりも、評価の妥当性が高いという研究結果が出ています(詳しく知りたい方は、下記の「採用面接評価の科学」をご一読下さい)。

www.hrreview.jp

 人材採用における、各社の面接のやり方はそれぞれだと思いますし、熱心な担当者の方はこのような話はすでにご存じかと思いますが、もし、本記事をご覧になった方が、面接方法や採用プロセスについて新たな発見をして頂き、自社の採用プロセス改善の助けになれば幸いです。なお、お声がけ頂ければ、私がプロセス改善をお手伝いする事も吝かではありません!

 では、Have a nice day!

mizen.co.jp

「AI読み」の傾向と対策(3)「AI読み」な方とのコミュニケーション

 こんにちは、みぜん合同会社 組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。

あっという間にゴールデンウイークも後半ですね。最近の東京地方は湿度も低く、適度に涼しい気候でした。もしかしたら、1年で最も快適な季節かもしれません。暑さと湿気が大の苦手な私としては、これからどんどん暑くなっていくこれからの季節は、できれば勘弁して欲しいのですが…

 という訳で、ゴールデンウイーク最中の更新になってしまいましたが、前回、前々回のエントリの続きとなる、「AI読み」の話の続きです。これまでに、「多くの日本人(大人も含まれます)の読解力が意外な程低い」(上記記事ではその傾向を「AI読み」と表現をしています)という記事の紹介と、それを改善するために、論理性(論理的思考)と国語力をどう鍛えていくかについて取り上げてきました。

hrstrategist.hatenablog.com

hrstrategist.hatenablog.com

 今回のエントリでは、ちょっと視点を変えてみます。

 前回までに取り上げた、「論理性と国語力の強化の必要性」は、それはそれで重要なのですが、往々にしてそれだけでは問題が解決しません。というのも、コミュニケーションとは「送り手」と「受け手」の双方向で情報をやり取りするものであり、どちらか一方(例えば送り手)のみが読解力向上の努力をしても、もう一方(例えば受け手)の読解力が低いままでは、質の高い正確なコミュニケーションは成り立ちません。

 「AI読み」をして理不尽に「逆ギレ」する顧客や従業員が少なからず存在するという前提で、そのような人たちとどのようにコミュニケーションを取るかという問題は、意外と重要かつ、見落としがちな観点ではないでしょうか。そこで、「AI読み」な方たちとのコミュニケーション対策について考察したいと思います。

 現実的な喫緊の課題として、日々の仕事やプライベートにおいて、「AI読み」な方たちとどのようにコミュニケーションを取り、意図を正しく伝えるか、そのためには何を気を付けるべきか等について知っておくことは、決して損にならないはずです。

 そもそも、少なくない割合の人が「AI読み」レベルの読解力である以上、まずはその現実を認めた上で、「AI読み」な方たちに合わせ、コミュニケーションの手法に工夫をする必要がある事は納得できるでしょう。

 そのような人たちに対しては、(文法上正しい)「書いてある通り」の意味で理解してもらえるという期待をしてはいけません。何らかの言いがかりを付けられた際に、「そこに書いてある通りの意味なのですが、何か?」といった「理屈」で反論しても相手には通用しないと思った方が良いです。

 「AI読み」な方たちは、(当然ながら)「AI読み」をしている訳ですから、文章の意味を書いてある通りに正しく理解していない確率が高いのですが、その人たちがどうやって新たな(間違えた)「解釈」を「捏造」するかというと、前段階として、その人たちが元々持っている、そもそもの「思い込み」というものが存在し、それが彼ら彼女らの「解釈」に影響します。

 彼ら彼女らは、こちらが書いたり話したことから、自身の「思い込み」に沿って、都合の良い部分だけつまみ出して勝手に解釈し、時には(元の論旨とは異なった自身の解釈により」)「あなたは間違えている」と相手を非難したりします。

 残念ながら、そのような反応を完全に防ぐことは難しいでしょう。よって、このような事が起こり得ると認識し、その上で対策を考える必要があります。

 まず第一に、「AI読み」な方たちは(自身の思い込みに応じて)勝手に曲解しますので、こちらから伝えようとするメッセージの意図・論旨自体を相手に合わせて変える必要はありません。ただし、無用な誤解、曲解を減らす(テクニカルな)ための努力はすべきです。
 
 具体的には、複雑な言い回しは出来る限り避けるのが賢明です。直感的に意味が取りにくいような表現を使うなという事です。「レトリック」などは極力使わないことです。

 後世に残る芸術作品を作る訳ではありません。どんなに高調な美しい文書、演説であっても、伝えたい相手に伝えたい意味が十分に伝わらないのであれば、そのようなものに価値はないのだ、と割り切りましょう。

 思い返してみれば、「AI読み」の特徴とは、以下の通りでした。

「『……のうち』とか『……の時』『……以外』といった機能語が正確に読めていない。」

 と、このように指摘されている訳ですから、「機能語」を出来る限り使わず、その中でも特に、「…以外」といった、意味がひっくり返るような語を使わずに、ストレートな流れで書く(話す)という手法は、「AI読み」な人たちへの有効な対応策になり得るでしょう。

news.yahoo.co.jp

機能語(キノウゴ)とは - コトバンク

 

 簡潔かつストレートな表現を心掛けることによる別のメリットもあります。私もやりがちなのですが、抜け漏れなく情報を伝えようとして情報を詰め込んでしまうと、本当に伝えたいメッセージの焦点がボケてしまい、かえって意図が伝わらなくなります。(役所などの資料でありがちな)小さいフォントでスライドに沢山の文字を詰め込むと、見る側がゲンナリしますよね。

 「余白」「引き算」の美学といった言葉があるように、伝える情報を絞ることにより、本当に伝えたい大切なメッセージはよりストレートに、強く伝わります。

 まずはシンプルに、短く、最低限に。あとは必要に応じて付け加えればいいのです。

 もう1点、気を付けた方が良いポイントがあります。それは、「AI読み」な方たちとは、議論で勝敗の決着を付けようとしない、言い換えれば、いわゆる「論破」を目指さないことです。

 そもそも、「論破」とは、(再々度)「新明解 第三版」によれば、

--------------------
論破:議論して相手を言い負かすこと。
--------------------

というのものです。言い負かすというのは、もちろん「怒鳴り合って声の大きさを競う」のでなく、より筋の通った(論理的な)主張をどちらがしているかを判断するものです。

 ところが、「AI読み」の方たちは読解力が低いので、議論の優劣を判断できません。お互いのルールの解釈が違う(勝敗を決める採点基準が異なる)ので、競うことができないのです。こちらが勝ったと思っても相手はいつまでも負けを認めることがありませんし、逆に向こうが一方的に「勝った」と宣言するかもしれません。

 そのようなやり取りが不毛かつ徒労であることは言うまでもありません。

 もし、「AI読み」の方たちに(当方からすれば筋違いだと思われる)言い掛かりを言われた時には、まともに取り合わず、先方に事実誤認がある場合にはその訂正を(最低限)した上で、「けしからん」等の感情的な意見に対しては、「貴重なご意見ありがとうございます。参考にします。」と返せば、それで良いのです。

 「論理」と「感情」の話はこのBlogでも何度か取り上げていますが、原則は、「論理が前提で感情に配慮(相手への共感を持つ)」です。個人的には、この辺の機微は、以前に経験した労働組合との交渉でだいぶ鍛えらえました。

 以上、3回に分けて、AI読みの話を取り上げましたが、何らかの形でみなさまの参考になれば幸いです。

 では、Have a nice Golden Week!

mizen.co.jp

「AI読み」の傾向と対策(2)

 こんにちは、みぜん合同会社 組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。前回のエントリから1ヶ月以上空いてしまいました(クライアント某社向けの管理職研修の準備に忙殺されていました)が、その続きとなります。

前回の記事と、関連書籍

hrstrategist.hatenablog.com

  

 前回は、「多くの日本人(大人も含まれます)の読解力が意外な程低い」(上記記事ではその傾向を「AI読み」と表現をしています)という記事の紹介(最近では、テレビなどのでも取り上げられているようですね。)と、この「AI読み」を克服するために必要な訓練は、論理性(論理的思考)と国語力を鍛えることではないか、とした上で、論理性を鍛える方法として注目されている「プログラミング的思考」について紹介しました。
 
今回のエントリでは、もう一方の要素である、「国語力を鍛えるにはどうすれば良いか」について考えてみたいと思います。

 まずは、ここで言う「国語力」をどう定義するかです。

 再度「新明解 第三版」で調べてみると、「国語力」という単語はありませんでしたが、「国語」については以下のように書かれていました。

--------------------
国語:一 それぞれの国家を支えている国民の使用する言葉を、自分たちのものとして意識した時の称。[わが国では日本語を指し、かつ それが公用語となっている]
二 教科の一つ。「国語」を正しく読む・書く・聞く・話す能力を段階的に高めることを目的とする。国語科。
--------------------

 国語力は、2番目にある、「正しく読む・書く・聞く・話す能力」と捉えてよさそうです。
 
 また、「国語力」というキーワードでググってみると、文部科学省のサイトにたどり着きました。どうやら平成14年~16年に文部科学省内の「文化審議会」にて議論され、最終的に答申されたもののようです。

(それぞれのページにリンクが貼られていないのが微妙な感じですが…)

これからの時代に求められる国語力について−はじめに

これからの時代に求められる国語力について−I これからの時代に求められる国語力について−第1 国語の果たす役割と国語の重要性

これからの時代に求められる国語力について−I これからの時代に求められる国語力について−第2 これからの時代に求められる国語力

これからの時代に求められる国語力について−I これからの時代に求められる国語力について−第3 望ましい国語力の具体的な目安

文化審議会 - Wikipedia


 ここでは、国語力を以下の2つの領域で捉えているようです。

--------------------
1.考える力,感じる力,想像する力,表す力から成る,言語を中心とした情報を処理・操作する領域
2. 考える力や,表す力などを支え,その基盤となる「国語の知識」や「教養・価値観・感性等」の領域
--------------------

 そのうえで、4つの力を以下のように定義しています(もっと端的に表して欲しいところですが)。
--------------------
【考える力】とは,分析力,論理構築力などを含む,論理的思考力である。

【感じる力】とは,相手の気持ちや文学作品の内容・表現,自然や人間に関する事実などを感じ取ったり,感動したりできる情緒力である。

【想像する力】とは,経験していない事柄や現実には存在していない事柄などをこうではないかと推し量り,頭の中でそのイメージを自由に思い描くことのできる力である。

【表す力】とは,考え,感じ,想像したことを表すために必要な表現力であり,分析力や論理構築力を用いて組み立てた自分の考えや思いなどを具体的な発言や文章として,相手や場面に配慮しつつ展開していける能力である。
--------------------

 ここでの定義ですと、論理性(論理的思考)は国語力の一部である「考える力」に含まれていますね。残りの3要素に関しては、「AI読み」とは、感じ取ったり、推し量る以前に「そこに書いていることを書いてある通りの意味に読み取れない」という、「そもそもの問題」なので、ここでは脇に置いておいてよさそうです。

 そうなると、ここで考慮すべき国語力の要素は、「国語の知識」や「教養・価値観・感性等」の領域であるということになります。

 上記答申では、「国語の知識」や「教養・価値観・感性等」について、以下のように言及されています。

--------------------
・基本的には読書などの方法を通じて生涯にわたって形成されていくものであるが,前者の「国語の知識」については学校教育の果たす役割が極めて大きい。

・「国語の知識」とは具体的には,
(例) 1 語彙(個人が身に付けている言葉の総体)
2 表記に関する知識(漢字や仮名遣い,句読点の使い方等)
3 文法に関する知識(言葉の決まりや働き等)
4 内容構成に関する知識(文章の組立て方等)
5 表現に関する知識(言葉遣いや文体・修辞法等)
6 その他の国語にかかわる知識(ことわざや慣用句の意味等)
といったようなものである。
--------------------

 この答申は、「国語力」を定義することが目的であり、これらの要素を鍛えるには具体的にどうすれば良いか、という点については残念ながら言及されておりませんが、要はテクニカルな「国語の知識」と、文章を読んで意味を取る際に「あれ、おかしいな」と気付くための「知識・常識」の蓄積(例えば1+1=3という式を見ておかしいと感じるには、数字と記号のそれぞれの意味を知っており、さらに1+1=2であるということを知っている必要がある)が必要であるということでしょう。

 これは、英語がそれほど得意でない人が英語で文章を読む状況にそのまま置き換えることができます。単語力と文法力が高くないと、簡単な文章ならともかく、難しい単語や慣用句、文法の意味を正確に取るのが難しくなります。分からない箇所があっても辞書に頼らずに文章を理解しようとすると、「書いてあることの意味が読み取れない」AI読みと同様の結果になります。よって、上記の「国語の知識」とは、(母国語である)「日本語の語学力」と言い換えることが出来ます。

 これを克服するためには、語学の勉強と同様に、時間を費やして単語力、文法力を上げていくしかないのでしょう。

 もう一方の、「教養・価値観・感性等」については、これはもう、良質の本や記事を読むことや、知人・友人たちとの交友などによって質量共に高いインプット(時にはアウトプット)をしていくしかないのでしょうね。


ライフネット生命から立命館APU学長に就任された出口治明さんの「教養」本はこちら。

  この話、まだ続きます。

hrstrategist.hatenablog.com

mizen.co.jp