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組織人事ストラテジストのつぶやき、業務連絡など。。

大谷選手のエンゼルス移籍と「囲い込み」の功罪(1)

こんにんちは、組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。

 風邪をひきました。おそらくはちょっとした不注意が原因だと思いますが、できるだけ静養するようにして、なんとか悪化しないように保っております。クライアントの皆さんにご迷惑を掛けないように、体調管理はしっかりしないといけませんね。

 今日のエントリは、野球の話からです。プロ野球NPB)日本ハムファイターズ大谷翔平選手の、メジャーリーグMLB)への移籍が大きな話題となっています。

 「ポスティングシステム」により海外移籍を目指した大谷選手は、代理人を通じた交渉の結果、アメリカンリーグ西地区所属のエンゼルス(Los Angeles Angels)への入団で合意しました。

www.nikkei.com

ロサンゼルス・エンゼルス・オブ・アナハイム - Wikipedia

 当初はヤンキースなどの著名な有力球団が獲得に名乗りを上げていたようですが、最終的にエンゼルスを選んだのは、お金や球団のブランド等でなく、彼がこだわる投手と打者の「二刀流」を続けていくための条件、環境が最も整っているのがエンゼルスだ、と本人が判断したようです。自分を成長させる機会、キャリアの目標を最優先したということです

「彼はエンゼルスこそが、自分が成長でき、次のレベルにたどり着き、キャリアの目標を達成する最高の環境と見ている」

news.livedoor.com

 実は、現在のポスティングシステムでは、25歳未満の選手が移籍する際には本人に支払われる契約金が制限され、さらに年俸も格安のマイナー契約しか結ぶことができません。

www.asahi.com

www.nikkansports.com

 現在23歳の大谷選手は、あと2年待てば上記の制限が無くなり、初年度からより多額の年俸を得ることも可能でした。しかし、それよりもできるだけ早くメジャーリーグの環境に挑戦する道を選んだわけです。

 元はといえば、高校卒業後に直接メジャーリーグへの挑戦を志望していた大谷選手に対し、日本ハムファイターズはドラフト1位で強行指名しました。その上で、「二刀流への理解」「メジャー挑戦への理解」などをプレゼンで示し、大谷選手を翻意させて獲得したという経緯があります。

 つまり、今回のポスティング移籍に関しても、ファイターズは元から想定していたのであろうと思われます。数年間の在籍でもその期間の活躍だけで十分にペイできると計算し、結果その通りに大谷選手は大活躍してくれました。

 このファイターズ球団の判断で特筆すべきは、大谷選手が入団してから後の損得計算でなく、その前段階である、「入団してくれるか、否か」まで遡って期待値を分析し、計算したことです(「デシジョンツリー」のイメージです)。 

mba.globis.ac.jp

 今のところ日本のプロ野球界では、「1つの球団で生え抜きで過ごす」「フリーエージェントの権利を得て移籍する」というのが(少なくとも球団側が望む)常識的な選手のキャリアです。しかし、チームの都合・希望を優先させて条件を出しても、大谷選手には入団してもらえません。また、入団時の約束を後から反故にしてしまう手もありますが、そうなると、今後大谷選手に匹敵するレベルの大物選手には入団してもらえなくなってしまいます。

 今年のドラフトでファイターズが清宮選手をクジで引き当てたのは運ですが、結果的に清宮選手が入団してくれたのは、過去の大谷選手、ダルビッシュ選手をファイターズ球団が育て、メジャーリーグに送り出したた実績があったからこそ、信頼ができたのでしょう。

 一方で、これと対照的なのは読売ジャイアンツです。昔は他球団のドラフト指名を拒否してジャイアンツに入団した選手たち(江川卓氏、元木大介氏、菅野智之選手(当時の原監督の甥であった特殊事情がありますが)などが有名ですね)もいた昔と異なり、メジャーリーグへ挑戦する選手が珍しくなくなった今となっては、メジャー挑戦を視野に入れているような超一流選手にとって、ジャイアンツの環境は魅力的で無くなってきているようです。

 確かに報酬水準は12球団でトップレベル(今やホークスが1位で、ジャイアンツは2位)ですし、引退してOBになってからも「巨人の選手」という知名度は解説者などの仕事を得るのにも有利だそうです。

日本プロ野球選手会 公式ホームページ

 しかし、12球団内での報酬格差など、メジャーリーグとの差分(下記の通り、10倍近いです)を思えば、「誤差の範囲内」に思えます。

「メジャーリーガーの給料事情。平均年俸は4億9800万円!」

【MLB】メジャーリーガーの給料事情。平均年俸は4億9800万円!最も稼いでいる選手は・・・? | ベースボールチャンネル(BaseBall Channel)
 メジャーリーグへの移籍の経緯(下記)を振り返っても、松井秀喜氏や上原浩治選手に対する扱いは、少なくとも選手にとって寛容ではない、ネガティブな印象を感じます。

「何を言っても裏切り者と言われるかもしれないが、」

www.nikkansports.com

「球団首脳陣は頑としてポスティングシステム行使を容認せず、「わがまま」であると評した」

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%8A%E5%8E%9F%E6%B5%A9%E6%B2%BB#ポスティング移籍問題

 昔は今と違い、野球選手として活躍する選択肢は実質的に日本のプロ野球NPB)だけであり、その中の差分で球団を比較するしかありませんでした。そしてそのヒエラルキーの一番上がジャイアンツでした。

 あれ、この構図って何かに似ていませんか?

 この話、続きます。

 

※Appendix
日本プロ野球フリーエージェント実績をよく調べると、大変興味深いです。

ジャイアン
・生え抜き選手からFAで国内他球団に移籍したのは、駒田徳広氏(1993年)のたった1名のみ、その後24年間なし。
・海外移籍は松井氏、上原選手、高橋尚成氏の3名
ポスティングシステムによる海外移籍は無し
・一方、FAで他球団から獲得した選手は、先日獲得が決まった野上亮磨選手を含め延べ24名(!)
・そのうち、ジャイアンツで現役生活を終えて引退したのは、川口和久氏、金城龍彦氏、片岡治大氏、相川亮二氏の4名のみ(うち片岡氏、相川氏は2017年限りの引退)。残りの人たちは他球団に移籍の後、選手生活を終えている。

■ファイターズ
・生え抜き選手からFAで国内他球団に移籍したのは、片岡篤史氏、小笠原道大氏など7名+大野選手、増井選手(オリックスバファローズに移籍決定)
・海外移籍は建山義紀氏、田中賢介選手(後にファイターズ復帰)の2名
ポスティングシステムによる海外移籍は、ダルビッシュ有選手と今回の大谷選手の2名
・一方、FAで他球団から獲得した選手は、稲葉篤紀氏(メジャー移籍を希望していたが獲得希望球団が無く、ファイターズが「拾った」形。)の1人のみ

⇒12月18日に、鶴岡慎也選手の獲得を発表(ファイターズ出身選手の出戻り)。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%A8%E3%83%BC%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%B3%E3%83%88_(%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%83%97%E3%83%AD%E9%87%8E%E7%90%83)#FA権を行使し日本の他球団へ移籍した選手

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9D%E3%82%B9%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%A0



人事評価のフィードバックで考慮すべき4つのポイント

 こんにちは、組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。東京地方、今日は冷え込んでいます。冬の季節の到来ですね。

 先日、お手伝いをしているある会社の方から、人事評価の結果を上司から部下に伝える「フィードバック」について、「こうすれば良い」「あるべき姿」のアドバイスが欲しいと依頼されました。

 せっかくの機会ですから、自分なり整理した「フィードバック」のあり方について、シェアをしてみようと思います。以下、参考にしてみてください。

 そもそも、「フィードバック」という言葉の意味は何なのでしょうか?私自身が「フィードバック」という単語を初めて聞いたのは、おそらく桑田佳祐さんの"KUWATA BAND"の曲名だった気がします(ちなみに、この曲のボーカルは桑田さんでなく河内淳一さんです)。

 それはさておき、いつも通り、手元の「新明解 第三版」をまず参照してみましょう。

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フィードバック:
(オートメーションの基礎となる自動制御に欠かせない方式で)ある個所で得られている効果や結果を、自動的にその発生源にもどして、その後の修正や調節の資料とすること。
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 なんだか分かったような分からないような感じですが、元は電気工学系の用語だったのですね。それが転じて、別の意味を持つようになったようです。

 Wikipediaも見ましたが、どうにもピンとこないので、いろいろと調べてみましたが、こちらにある、「大辞林 第三版」の解説が一番分かりやすいような気がします。ちょっと物足りないですが。。

kotobank.jp

「心理学・教育学で、行動や反応をその結果を参考にして修正し、より適切なものにしていく仕組み。」

 元の意味から転じて、「人の行動等に対して何らかの評価を行い、その人の行動の改善を促すことを目的としてそれを本人に伝えること」が、人事評価等におけるフィードバックの定義であるという解釈でよさそうです。

 重要なのは、「その人の行動の改善を促すことを目的として」という点です。つまり、評価結果を単に伝えるだけでは、フィードバックとしては不十分なのです。なぜその評価になったのか、どこを改善し、どこを伸ばせばより良い評価を得られるかを本人に示さない限り、何が良くて何が悪いのか本人は気付くことができませんから、本人が自ら改善の行動を起こすきっかけとなり得ません。

 最近話題になっている、「ゲーミフィケーション」(課題解決のためにゲームの要素を取り入れる)の考え方でも、フィードバックは重要な意味を持っています。スコアが示される(フィードバックされる)ことで、それを向上させるモチベーションが刺激されるということです。

ゲーミフィケーション - Wikipedia

「たとえば、「スコアカードのないボウリング」を考えてみてください。ただピンを倒すだけで楽しいでしょうか?」

www.salesforce-assistant.com

 では、人事評価のフィードバックを行う際に、具体的にはどのような点を気を付けると良いのでしょうか?

 本来的にフィードバックで伝えたい項目を私なりに整理すると、以下4点となります。

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1.業績に対するコメント(良い/悪い、期待に応えているか、否か)
2.1を受けて行動等に対するコメント(ここが出来ている/足りない)
3.目指す目標に対するコメント(こうすればもっと良くなる/昇格)
4.課題解決(2の課題改善&3の目標達成)へのアドバイス
 (「しっかりやれ」「がんばれ」等の曖昧なものでなく、具体的内容)
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 まずは、「1.業績に対するコメント」です。会社や上司の期待に結果がどの程度達していたか、いないかを伝えます。本人の自己評価とのギャップがある場合には、特に丁寧に話し合い、そのギャップをできるだけ狭めるようにします。

 続いて、「2.行動等に対するコメント」です、これは、行動面での「ここが良い」「ここが要改善」という評価を伝えます。この時には、抽象的なコメント(「君っていつもこうだよね」的な)では、説明に説得力が欠け、本人は何を言われているかピンと来ません。そうでなく、できるだけ具体例(「あの時あなたはこう行動したが、そうでなくこうすべきだったのでは」的に)を示すことで、本人の納得度が高まります。

 上記2点は、過去に対する「振り返り」でしたが、加えて、その人の将来の成長に向けたアドバイスである「3.目指す目標に対するコメント」(例えば「管理職を目指すには対人コミュニケーションのこの辺を改善しよう」等)を伝えます。これには日頃から、本人のモチベーションや将来のキャリア目標などを予め聞いておく必要がありますね。

 最後に、2、3で提示した課題を解決、改善するために、具体的にどのような行動をしていくか、「4.課題改善のアドバイス」をします。そもそも、期待された成果が挙がらないのは、その人の行動の方向性が間違えているのか、行動量が足りないのか、能率が悪いのか、いずれかに原因があるはずです。そして本人は何が問題なのかに気付けていない(無意識)からこそ、行動が改善されていないのです。

 よって、ここでのアドバイスは、「もっとがんばれ」とか「適切にやりなさい」といった抽象的なものでなく、その人が、「適切な行動」をするのを妨げる原因を掘り下げた上で、それを改善するための具体的な指導を行うのです。

※例えば、遅刻が多い社員に対して、原因が「深酒による前夜の夜更かし」である事を突き止めた上で、「1日〇時間以上の睡眠時間を確保すること」「深夜〇時以降の飲酒を止めること」「決められた酒量を守ること」を約束させ、さらには定期的に順守状況を申告させるといった対処法が考えられます。もちろん、すべての部下にそこまで踏み込む必要はありません。相手に合わせて、本人が納得して迷わずに行動できるレベルまで「やるべきこと」を細かくブレイクダウンしていく事が要点です。

 そして、上記のような「行動の変容」を促進するインセンティブもしっかり明示します。端的にいえば「信賞必罰」です。日本の多くの企業ではこれが出来ていないように思えます。上司の求める成果・行動を挙げなくても許され、放置される、かつ人事評価もネガティブな評価を上司が付けるのを恐れ、さらには人事制度上で降給等の処遇悪化の仕組みがなかったりします(これは制度上の問題なので「評価・報酬制度を変えましょう」という根本の問題になってしまいますが)。

 という訳で、これらの4つのポイントを意識し、実践してみてください。手間は掛かりますが、長期的にはそれ以上の果実がもたらされるはずです。

 という訳で、Have a nice weekend!

「ストレスマネジメント」のお話(3)

こんにちは、組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。

 そういえば、ノートパソコンを買い替えました。今まで3年使っていたPCが、二度目の液晶画面不調(以前は保証期間内で無料修理)となったため、そちらは修理の上「二番手」に降格し、メイン機を新調することにしました。

 機種は前の機種と(実質)同じモデルであるNECLavie HZです。なにしろこの機種は画面が大きいわりに重量が非常に軽い(本体重量1キロありません)のが売りでして、耐久性には不安があるものの、少し古めのモデルで値段の手頃な出物もあり、決めてしまいました。

nec-lavie.jp

 基本的な操作性等は前のPCと変わりませんが、電源の位置や液晶のヒンジの形状が変わっていたりと、それなりに改良はされているようですから、液晶画面もしっかりと改良されて、長持ちをしてほしい所です。

 さて、「ストレスマネジメント」のお話、続きです。これまで、ストレスマネジメントの定義や「誰」異なる2種類のストレスマネジメントについて、また、経営者や上司にありがちな「生存バイアス」の影響について解説しました。

「ストレスマネジメント」のお話(1) - hrstrategist’s blog

「ストレスマネジメント」のお話(2) - hrstrategist’s blog

■まずは関心を持つこと
 上記を受けて、本エントリでは「じゃあ、どうすればいいの?」という対応方法を考えたいと思います。とはいえ、具体的な「ストレッサーへの対処方法」や「いかにストレスをやり過ごすか」等のノウハウは、それこそ、「ググる」ことで、専門家による解説を見ることができますし、関連の書籍もたくさん出ておりますので、専門家でない私からの説明ではここでは書かないことにします。

 一方で、「対処」に至る以前の話として、今ある状態が「何かおかしい、普通でない」と気付くことが実は非常にである、という点はぜひ強調したい点です。「問題発見」がすべての解決策の原点となるのは他のビジネス課題と同じですね。

 ところが現場では、そもそも本人や上司が気付かない、または、気付いたとしても問題を放置したまま先送りしてしまうというケースが少なくありません。私も以前に勤めていた職場でそのような事例を数多く見てきました。

 初期の時点で、何らかの「兆し」があったにも関わらず、それを見逃したり、気付いてもやり過ごした結果、問題がより深刻になり、結果的に取り返しのつかない事態になってしまうという事態もしばしば起こります。もしそうなったら、もう手遅れです。

 そうならない為に、どうすれば良いのでしょうか?

 経営者・上司(あと人事担当者)が、人に対して「関心を持つ」こと。それに尽きます。

 まずは、(生存バイアスを持ちがちな)経営者、上司が「ストレスマネジメント」の必要性・重要性に気付くことが始まりです(近頃の「働き方改革」の流れは(いろいろツッコミどころはありますが)追い風ですね)。

 その上で、上司は部下をよく観察して下さい。よく見ていれば通常状態との変化、異変に気付きやすくなります。「忙しい」などと理由を付けて逃げてはいけません。部下のマネジメント・育成は成果を出すのと同じくらい重要な上司の仕事です。意識して時間を費やしてください。自分たちに気を掛けてくれている、時間を費やしてくれていると部下に感じさせるのも、部下に対する大事なメッセージです。

※以下、過去のエントリからの引用です。
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「会社は上司(管理職)に、部下という「資産」を貸しているのです。そして、貸し手である会社は借り手である上司に対し、元本だけでなく、「部下の成長」という利子をつけて会社に返すことが求められているのです。」

部下は、"資産" - hrstrategist’s blog
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 その上で「部下のストレスマネジメント」をどうするかです。

 私は、これは身体の「健康管理」と似ているのではないかと考えます。健康管理で大事なのは、「予防」と「早期発見・治療」の2つです。例えば、生活習慣病を予防するために食事の節制をしたり、適度の運動をしたりしますよね。また、定期的に健康診断を受けて、病気の兆候を早く発見し、事態が悪くなるまえにできるだけ早く治療をしようとします。

 部下のストレスマネジメントも同じです。「予防」とはストレスの原因(ストレッサー)の除去、低減です。高い業績を上げるためには適度な緊張感を維持する必要がありますから、業績向上に正の相関があるストレッサーはストレスレベルをそれぞれの人の許容範囲を超えていないかコントロールするとともに、業績向上に相関がない、または逆相関のストレッサーに関しては徹底して減らす努力をします。

 そして、そのような予防措置にも関わらず、部下にストレス適応不全の兆候が現れたら、いち早くその兆しを察知して対処をするのです。

 「そんなの面倒くさい」「自分には関係ない」と思われるかもしれませんが、自分の感度の鈍さでもし部下がストレスの犠牲になり、取り返しの付かないことなったら、その責任を自身が(精神的に)一生負わなければいけなくなるのです(おそらくその方の家族からも責められ、恨まれるでしょう)。そう思えば、「部下のストレスマネジメント」が他人事で無くなるのではないのでしょうか。

 今回の記事を読んでいただき、少しでもストレスマネジメントについて関心を高めていいただき、日々の業務遂行に役に立てていただけると幸いです。

 では、Have a nce day!

「ストレスマネジメント」のお話(2)

  こんにちは、組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。

 東京地方は爽やかな秋晴れですが、部屋にこもってこのBlogの原稿を書いています。このところ週末はいつも雨(それも大雨)でしたが、今週末の連休はようやく秋晴れが望めそうです。

 「ストレスマネジメント」のお話、前回はストレスマネジメントの定義と、私の大学院時代の経験を書きました。今回は続きです。

「ストレスマネジメント」のお話(1) - hrstrategist’s blog

■「ストレスマネジメント」が適切でないと何が起こるのか
 ある人にとってストレスの原因(ストレッサー)が無視・放置できないレベルで存在し、かつ「ストレスマネジメント」がうまくいかないと、心と体が不調になるストレス反応が起こります。

 その程度は人により異なりますが、最悪の場合どのようなことが起きるかについては、河合薫さんのこの記事は大変参考になります。

wol.nikkeibp.co.jp

以下、記事の引用です。

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「過労死する人の多くが亡くなる直前まで「自分が死ぬほど疲れている」ことを自覚できず、「肉体の悲鳴」に気付くことができません。」

「もし、あなたが「忙しいのに慣れた」とか、「睡眠不足でも大丈夫」という状態になっていたとしたら、それは「見張り番が壊れてしまった」というシグナルであり、極めて危険です。」

「「過労自殺」は、単に「労働時間を短くすればいい」というものではなく、本人を追い詰める「仕事上のストレス」も同じように考慮する必要があります。」
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 過度なストレスと適切な対応の欠如により、「過労死」「過労自殺」という最悪の事態が起こりうるというリスクをよく認識すべきでしょう。

 また、河合さんが指摘されているように、往々にして本人は自身の不調・異常に気付けず、また正常な判断・意思決定ができない場合があります。だからこそ、周囲の人たちが本人の不調・異常に早く気付き、積極的に介入しなければならないのです。

■誰に対しての「ストレスマネジメント」か?
 「ストレスマネジメント」には、2つの種類があることに気が付きます。「自分自身」のストレスマネジメントと、「自分の部下(組織)」のストレスマネジメントです。

 前者は自分自身の問題です。自身が晒されるプレッシャー(ストレッサー)にどう対応するかの話です。セルフマネジメントですね。

 一方で後者は、「部下」という他人との関わり方の問題です(労務担当者の場合「同僚」が対象になりますね)。組織の成果に対して責任を持つ管理職にとって必須な視点です。あと、「上司」の立場であれば、自分が部下のストレッサーになってしまう危険性も認識する必要もあります。

■「ストレスマネジメント」クラスで気付いたこと
 とはいえ、そもそもの問題は、当事者自身が「ストレスマネジメントが必要なのだ」と気付かないことです。そういう人たちに「ストレスマネジメントが大事だよ」とただ言っただけでは聞く耳を持たれません。

 それに気付いたのは、大学院(慶應KBS、もう10年以上前です)時代、前回のエントリで書いた、「ストレスマネジメント」クラスを受講した時でした。

 このクラスは「選択科目」なので、「ストレスマネジメント」に特に興味がある学生のみが受講します。教室の中にいる学生の中で同級生たちを探して見てみると、ある傾向に思い当たりました。

 「戦略ゼミ」を選ぶような(そしてその後戦略コンサルティング会社にいくような)、いわゆる”優秀”な方たちは(確か)受講者の中に皆無だったのです(受講されていた方、ゴメンナサイ)。

 そのような方たちは優秀ですから、それまで仕事も完璧にこなし、これまで「ストレスマネジメント」を必要とする状況に遭遇したことも無かったのかもしれません。または、無意識に「自分自身」のストレスマネジメントをうまく行うこともできたのかもしれません。なので、「ストレスマネジメント」的な課題に対しては興味の優先順位が低く、他人事なのかもしれないとその時には感じました。

 そしてその時感じた直感、違和感は間違っていなかったのでは、と最近改めて感じるのです。

■「生存バイアス」の影響
 ストレスへの耐性には個人差があります。ストレス耐性が強い人は、そうでない人に比べて、より「無理をする」ことができます。その結果、実績を挙げ、より出世する可能性が高いと考えられます。

 結果、「強い」個人が出世競争で生き残り、上司・経営者となり、「弱い」人は出世競争から脱落していきます(個別に異なる事例はあるのは承知で、単純化・一般化しています)。

 そして、そのような人達が出世した結果「生存バイアス」が生まれます。そういう方は、往々にして、「自分は(例えば過重な労働時間、上司によるパワハラでも)これまで平気だった。耐えられないのはおまえが弱いからだ」という考え方(過剰な自己責任論)になりがちです。

 これは、いわゆる「生存バイアス」です。

※生存バイアスの解説
「脱落あるいは淘汰されていったサンプルが存在することを忘れてしまい、一部の「成功者」のサンプルのみに着目して間違った判断をしてしまうというバイアス。」

globis.jp

■「強者」の上司による「ストレスマネジメント」不全
 「自分の部下(組織)」に対するストレスマネジメントの初歩は、上司が部下の異変に「気付く」ことです。そのためには、上司は「ストレスマネジメント」的観点をよほど意識し、日頃から部下を観察するという行動が必要です。

 ところが、「強者」である上司はその必要性に気付かず、「自分は大丈夫だったから、部下も大丈夫だろう」という程度の軽い認識で、そのような行動を行う関心・優先順位は低くなります。

 それでは、「弱者」である部下がストレスへの適応不全を起こしている兆候に気付くことができませから、そのような上司の元では部下のメンタル罹患率等は相対的に上がりがちです。

 しかし、そのような上司は、問題を直視しません。あくまで部下の「自己責任」であって、自分に責任の一端があるとは微塵も思っていなかったりします。そして、「下らない」かつ「面倒くさい」、優先順位が低い問題として、事態を放置し、向き合わないのです。

 私自身の過去の企業人事の経験を振り返っても、部下のストレスマネジメントをきちんとやっている上司、部下が業務や人間関係で適応不全を起こしている時にきちんと向き合い、立ち向かえる人は、残念ながら非常に少なかったと感じます。

  この話、まだ続きます。

「ストレスマネジメント」のお話(3) - hrstrategist’s blog

 

「ストレスマネジメント」のお話(1)

 こんにちは、組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。

 東京地方はここ数日で一気に冷え込みましたね。個人的にはこの程度の気温はむしろウェルカムなのですが、。街中でダウンジャケットを着ている人がだいぶ増えたのを見ていると、寒がりの人は大変だろうな、と思います。ちょうど良い気候の時期って本当に短いですねえ。

 さて、今回は「ストレスマネジメント」について、少し書いてみようと思います。「ストレスマネジメント」って、どういうことなのでしょうか?

■「ストレスマネジメント」とは
 「ストレスマネジメント」でググってみると、以下のような記事が出てきます。大変参考になります。特に、「ストレス状況」「ストレス反応」に対して上手くつきあうのが「ストレスマネジメント」であるという説明は大変分かりやすいです。
(そういえば、「寒さ」「暑さ」もストレス状況と言えますね。。)

ストレスマネージメントとは

www.stresscare.com

 ちなみに、私自身もこれまで「ストレス」についていくつかエントリを書いています。

hrstrategist.hatenablog.com

hrstrategist.hatenablog.com

 上記の記事で、以下のような解説を書いています。

「プレッシャーというのは「外部からかけられる」もので、ストレスは「内面的に感じる」ものですね。なので、「プレッシャーが強くかかることによって、ストレスが生じる」という言い方ができます。」

 ストレスが発生する原因のことを、ここでは「プレッシャー」と呼んでいます。または、同様の意味として「ストレッサー」という言葉を使う場合もありますね。

ストレッサー - Wikipedia

 という訳で、何らかの原因(ストレッサー)によってストレス(反応)は心身に(往々にして良くない形で)発生する。それを予防したり、適切に対応する活動が「ストレスマネジメント」であると定義できるのではないでしょうか。

■「ストレスマネジメント」クラスの話
 大学院(慶應KBS、もう10年以上前です)時代に、「ストレスマネジメント」というクラスを受講しました。KBSは「ケースメソッド」という形式で授業を行うので、毎回「ケース」を予習し、当日のクラスでのディスカッションに備えます。

 そこでやった最初のケースが、「耳から脳が溶け出していると訴える公務員」でした。ケースの文章は、以下のように始まります。

「主訴:仕事をしてると、脳が溶け始め、溶けた脳みそが耳からあふれ出して止まらない感覚に襲われる。」

※以下のページから本ケースを購入できます。

www.bookpark.ne.jp

 なかなかショッキングではないですか。

 ところが、もっと衝撃的だったのは、クラス討議の後に渡辺直登先生がおっしゃった、以下のようなコメントでした。

「この人の症状はたいしたことありませんね。」
(とはいえ、「原因は深刻」ということでしたが)

 自分(達)がいかにストレスやその結果として表れる症状について知らないかを思い知らされました。そして、その後このクラスで、もっと(いろいろな意味で)凄いケース(笑)と、その対応方法などについていろいろと学ぶこととなりました。

(他にやったケースは、「自己臭恐怖で退職に至った技術者」など。。)

 以下は、このクラスで私が提出したレポートの中の一文です。

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(ケースを見て)私は「よくあることだな」と思うだけ。主観的な捉え方に大きな個人差があるからこそ、さまざまな症状の違いが表れる。実はそれが大きな問題で、特に職場では上司が自分の感覚で状況を判断し、大したことはない、何を我儘言っているのだ、と捉えがちである。結果、誤った対応をして会社と本人双方に不幸な結果(症状悪化、退職など)に至る事例は非常に多いと考えられる。私の過去で働いていた会社でも、会社側のケア不足で優秀な人が退職してしまうケースは本当に多い。
 
 私がストレスマネジメントを勉強した目的はまさにそれを防ぐことであった。自分が管理職の立場になった時に、従業員の事情を理解し、会社と従業員にとって最善の解決策を目指せるようになりたい。
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ここで書いた「目指す方向性」は、10年以上経ち、企業の管理職から「組織人事ストラテジスト」としてクライアントを支援する立場となった今でも変わりません。

 そういえば、この「ストレスマネジメント」を受講して気付いた、ある重要なことがありました。

 その話は次回のエントリでさせて頂きます。

 つづく。。

「ストレスマネジメント」のお話(2) - hrstrategist’s blog

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