「プレミアムフライデー」ってどうなのよ?
こんにちは、組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。
先月から始まった「プレミアムフライデー」(「プレ金」という略語も早速出ていますね)、本日が2度目となりますが、何だか全然盛り上がっていないような気がするのですが、気のせいでしょうか?
上記の記事でも、「まだ手探り。」「実施・奨励の割合は企業規模に比例する」などという微妙な話が出ております。
私の知り合いに聞いた意見も、「ニュースを見ても実施をしているのは大企業ばかり」「大企業勤めだけど自分に関係ない」「そもそも興味がない」「うちのお店ではセールをしています(お店の人達は働いている訳ですね)」といった冴えない意見ばかりです。
実は私は「プレミアムフライデー」については元々懐疑的なので、「やっぱりな」という感想しかないのですが、そもそも「プレミアムフライデー」ってなぜ始まったのでしょうか?
■誰が「プレミアムフライデー」を始めたのか?
まずはこちらをご覧ください。
「プレミアムフライデー事務局とは、平成28年度の経済産業省の委託事業を受託した株式会社博報堂がプレミアムフライデーを広く普及させるための事務局です。」
とあります。経緯は以下にある通りです。
「主導する経産省は広告費などとして、2016年度の補正予算に2億円を計上。」
そして、このWebサイトに出ている「プレミアムフライデー推進協議会」なる組織の中身もなかなか興味深いものになっております。
「プレミアムフライデー推進協議会委員名簿」
http://www.meti.go.jp/press/2016/12/20161212001/20161212001-1.pdf
委員の人達の大半が小売業界の団体の人達(あと旅行業界)であり、要するに経済産業省が広告代理店に予算を付けて、小売や旅行業界の販促をやるというのが真の狙いなのです。
(委員の方達の名前をググって経歴などを調べるととても興味深いです)
ちなみに、この取り組みに厚生労働省は直接関わっておりません。「働き方改革」の一環で云々という話がよく出ますが、それは後付け、または単なる口実に過ぎないのです。
そういう目で見ると、この記事はなかなか皮肉で面白いと思いませんか。
プレミアムフライデー
初日 冷ややか 「大手と中小の格差感じる」 3時退庁は一部
http://mainichi.jp/articles/20170225/ddm/012/020/080000c
「「働き方改革」を担う厚生労働省の広報室は「3時をめどに退庁するよう庁内放送で呼びかけるなどしたが、職員の参加率は分からない」。ある職員は「人数の多い部署は何人か3時に退庁できるかもしれないが、少ない部署は無理。3時以降に役所の電話がつながらなくなれば苦情が来る。まずは民間で定着してほしい」と漏らした。」
要は、政府の方針なので従わざるを得ないが、自分たちは積極的に関わらないというのが厚生労働省のスタンスなのです。
■「プレミアムフライデー」、実施事例
私は人事が専門なので、プレミアムフライデーの「15時退社」を実施するために、各社はどのような取り決めをしているかに興味があります。
いくら政府が、「プレミアムフライデーやります」と宣言しても、例えば就業時間が「9時~18時」と決まっていたら従業員は勝手に15時に帰る訳には行きません。よって、管理監督者や裁量労働等の対象者以外にプレミアムフライデーを実施させるには、フレックスタイム制が導入されていない限り「有休を取らせる」または「15時退社に就業規則を変更する」しか方法はありません。
厚生労働省が主導しているのであれば、「勤怠の扱いはこうすれば良いですよ」とか指針が出てくるのでしょうが、なにしろ他所の役所がやっていることですから、今のところ厚労省からは何の方針も出ていませんね(勝手にしろ、俺は知らん、ということなのでしょう)。
そのような中で、「プレミアムフライデー」実施の各社の事例を拾ってみました。
日立ソリューションズ
プレミアムフライデーに賛同し、働き方改革を加速 年次有給休暇の取得推進や20時以降の残業の原則禁止、インセンティブの付与も導入|株式会社日立ソリューションズ
「プレミアムフライデー」に賛同し、2月24日と3月31日に、15時退社または午後半日年休の取得を推奨します。
※4月以降は「労使でプレミアムフライデーを含む複数候補日を年休推奨日と定め、年休取得を強力に推進します。」
→15時退社 or午後半休の取得の推奨はせず、全日の有休取得を推奨しているようです。
「プレミアムフライデー」を開始します|大和ハウス工業のリリース|会社情報 About Us|大和ハウスグループ
「今回の「プレミアムフライデー」では、推奨される「遅くとも午後3時までの業務終了」の一歩先を行く、「午後休」とします。」
「該当日は就業時間を「9~18時」等から、全社一律で「8~17時」に変更し、午後は半日有休とします。」
→有休を強制取得させるという事のようです。恐らく有休消化率が悪く、有休消化の促進策として好都合だったのかもしれません。迷惑に思う社員もいるのではないでしょうか。
日産
働き方改革/日産、月末金曜は15時退社−「プレミアムフライデー」推進 | 自動車・輸送機 ニュース | 日刊工業新聞 電子版
「勤務体系は毎日7時半―22時のうち原則8時間を労働時間に充てるフレックス制。1カ月間の総労働時間で勤怠管理しており、ハッピーフライデー実施日の出社時間は各部署や個人の裁量に委ねる。15時以降の会議を減らすことなどを呼びかける。」
→フレックスタイム制の範疇でやれ、ということです。会議を入れない等の少しの工夫で対応すればよいので呼びかけは簡単そうです。
「「プレミアムフライデー」当日を全休・午後半休取得奨励日とする。」
「有給休暇取得が難しい場合は、フレックスタイム制度を活用しコアタイム終了時刻(15時)の退社を奨励」
→日産も同様、フレックスタイムを活用の場合は導入(呼びかけ)は容易ですね。
■「プレミアムフライデー」は普及するのか
そもそも導入の動機が不純であり、そのうさん臭さにみな気付いているように思えます。
企業としても、わざわざ就業規則を変更してまでの対応は考えづらいので、せいぜい「有休取得の推奨」レベルに留まりそうですし、そもそもろくに休みを取れない多くの中小企業にとっては、「うちには関係ない」とスルーされてしまうのが関の山かなという気がしまうす。
その結果、結局大企業の社員だけしか休めないのであれば、金曜の夕方早い時間に食事や買い物をしている人達に対して「あいつらだけ何だよ」というねたみ、ひがみの空気が今後強くなるかもしれません。そうなるとますます、プレミアムフライデーの普及のハードルは高くなりそうです。
もしかしたら、1年後には「E電(古い!)」のように、みんな忘れてしまうかもしれませんね。。
では、Have a nice weekend!
「副業採用」のススメ
こんにちは、組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。
Blogの更新を1ヶ月以上サボっているうちに、東京地方はすっかり春めいてきました。外を歩いていても、公園でぼんやりしても寒さを感じませんから、外出する際の気分も軽くなりますね。とはいえ、花粉の問題が一方でありますが。。
さて、今日は「副業」についての話です。多くの日本企業が従来認めず、就業規則等で従業員に禁止してきた「副業」に関し、「むしろ積極的に認めていこうではないか」という傾向がここ数年大きな流れになり始めています。
(以下の調査結果などは参考になります)
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※参考
リクルートキャリア 「兼業・副業に対する企業の意識調査」
https://www.recruitcareer.co.jp/news/20170214.pdf
「① 兼業・副業を容認・推進している企業は全体の22.9% ※正社員を対象とした調査結果
② 兼業・副業の禁止理由は、「社員の過重労働の抑制」が55.7%と最も高い
③ 兼業・副業の容認・推進理由は「特に禁止する理由がない」が68.7%と最も高い」
同 「副業を含む社外活動がキャリア意識に与える影響」
https://www.recruitcareer.co.jp/news/20170313_01.pdf
「社外活動は目的・内容により、キャリアに対する自信への影響が異なる。社外活動に参加すればキャリアへの自信がつくわけではない。」
「「他者と影響を与え合う機会」のある活動(社会に影響を与えたり、他者からフィードバックを得られるなど)が、キャリアに対する自信を強める。」
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私はこの傾向はとても良いことだと思いますが、もっと凄い(素晴らしい)話を、先日、ある方から教えて頂きました。それが「副業採用」の話です。
その方の会社はつい先日IPO(新規上場)したばかりの成長企業なのですが、なんと「すでに副業を持っている人」をターゲットとして、積極的に採用しているそうなのです。今いる社員の副業を認めるか否かではなく、始めから副業をしている前提で採用をする訳です。就業日数・時間等についても本人の希望を聞いて、柔軟に対応しているそうです。
実際にどのような方が入社されるかというと、例えばWeb系やマーケティング系などで個人でコンサルティングを行っているような方が入社されるそうです。副業で十分稼いでおり、それを辞める気はないのですが、一方で、「組織に所属したい」「チームで仕事をしたい」という気持ちもあり、そのような働き方が出来る転職先を探してた所、その方の会社と出会い、転職を決めてくれたそうです。
そして、そのような方たちがどの程度活躍されているかというと、非常に高い成果を挙げられているようです。考えてみれば個人でも稼げるスキルを持っている訳ですから、ある意味当然なのですが。
にも関わらず、未だに多くの会社では「副業禁止」の前提で、このような優秀な方への転職の門戸を閉ざしてしまっている訳です。つまり逆に考えれば、「副業歓迎ですよ!」と宣言し、そのような方たちを積極的に取りに行くというのは、逆張りの戦略としては非常に賢いと思いませんか?
実は、この話をもっと突き詰めると、「今後、優秀なフリーランサー(個人事業者)が増えていくことが予想される」「そもそも雇用契約が必要なのか」「そうなると会社はどのような人たち(だけ)を従業員として雇用契約すべきか」という議論になってきますね。
※参考図書 名著です。
フリーエージェント社会の到来―「雇われない生き方」は何を変えるか
その話になるとまた話が長くなりますので、今日のエントリはここまでにしておきます。 では、Have a nice weekend!
イチローの作り方
こんにちは、組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。
今年の東京地方は割と寒さも厳しくないように思えます。とはいえ、そのような時に限って、春先に大雪が降ったりするのでまだ油断はできませんが。。
さて、最近Blogの更新が滞り気味でしたが、良記事を見つけたのでちょっと取り上げようかと思いました。
「人と比較せず自分の中で少し頑張る」イチローが野球少年に送った人生訓。
スポーツ雑誌「Number」の記事です。「イチロー杯争奪学童軟式野球」の閉会式でイチロー選手が閉会式に参加(199チームから勝ち上がった3チーム)した選手たちに向けたスピーチが紹介されています。
こちらは大会の公式サイトに載っているイチロー選手のメッセージです。
内容を抜粋します。
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「イチローは人の2倍も3倍も頑張っていると言う人が結構います。でも、そんなことは全くありません」
「人の2倍とか3倍頑張ることってできないよね」
「頑張るとしたら自分の限界・・・自分の限界って自分で分かるよね。」
「その時に自分の中でもう少しだけ頑張ってみる。ということを重ねていってほしいなというふうに思います。」
「僕もみんなと同じように野球少年だったし、ここに今日来てくれた関根選手(注:DeNA関根大気選手)もみんなと同じ。」
「彼も人との比較ではなくて、自分の中でちょっとだけ頑張った。そのことを続けていくと、将来、思ってもいなかった自分になっている。と僕は思う」
「アメリカで3000本打てるなんてことは全く想像が当時できなかったんだけど、今言ったように、自分の中でちょっとだけ頑張ってきた。」
「それを重ねてきたことで、今現在(の自分)になれたと実感しているので、今日はこの言葉をみんなに伝えたいと思います。」
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誰かとの比較でなく、あくまで自分との闘いを着実に積み重ねること、自分の限界をちょっとだけ超えるように頑張ることが大事だということですね。
そして、それを何十年も心掛けてきた結果、今日の「イチロー」が出来上がったのだと。
もちろん、同じように努力を続けても全員がイチロー選手のようなレベルに到達できるという保証はありませんし、イチロー選手も「自分のように頑張れば自分のような選手になれるよ」という意味でこの話をしているのではないのだと思います。「人との比較ではなく」とわざわざ言っていますし。
イチロー選手は、ちょっとだけ頑張ることを続けると、「将来、思ってもみなかった自分になってる」という言い方をしています。この「思ってもみなかった自分」とは、決して「野球選手である自分」を意味していないのだと思います。
つまり、「ちょっとだけ頑張り続けることができた」人は、たとえ野球で一流になれなくても、「頑張り方」とその「効能」を知ることによって、他の事に対しても「ちょっとだけ頑張り続ける」ことが出来る自分になっている。それが、イチロー選手が言う「思ってもみなかった自分」であり、そのような自分になれば、野球に限らず人生において前向きに、ポジティブに生きることができるということなのではないでしょうか。
そう、闘うべき相手は自分自身なのです。
「訓練は勝ち負けじゃない。昨日までの自分を超えるものだ。」(「空飛ぶ広報室」第4話より)
では、Have a nice weekend!
同一労働同一賃金 コストコ社の事例
こんにちは、組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。
だいぶ遅くなってしまいましたが、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
近頃Blogの更新がだいぶ滞っておりますが、理由としては業務多忙/サボリ/ネタが無い等々の複合要因ではありつつも、そんな言い訳をせずに頑張りますというコメントを、新年の抱負とさせて頂ければと思います。。
さて、安倍首相の「私的諮問機関」である、「働き方改革実現会議」において、12月20日に発表された、「同一労働同一賃金ガイドライン案」について前回、前々回のエントリでコメントしました。
エントリで解説した「ガイドライン案」の趣旨を要約すると、概ね以下のようになるでしょう。
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・そもそも何をもって「同一労働同一賃金」とするか、定義は難しいよね。
・「定義」や「あるべき姿」の議論から始めるとやたら時間が掛かるし、皆が納得する結論が出るとも思えないので、まずは個々の企業で「出来ること」から手を付けましょう。
・この「ガイドライン案」では「正規」と「非正規」間の不合理な待遇差の解消を持って「同一労働同一賃金」としましょう。
・法的拘束力はないので、現時点ではあくまで「努力目標」だけど、将来的にはこの方向で法改正される可能性が高いですよ。
・基本給に関しては、現状の仕組み(年功序列など)を温存して構いません。
・手当や福利厚生は、(差をつける合理性を説明できなければ)原則差を付けてはいけません
・賞与は「非正規」にも「同一の支給」をしなさい。※ココが一番重要
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前回も触れましたが、このガイドライン案で最も注目すべきは、「非正規雇用者にも賞与を払いなさい」と明示された点です。現状、非正規雇用者に賞与を払っている企業は少数派でしょうから、この「ガイドライン案」発表を受けて、各企業がどのような対応を取るのかは注目したい所です。
という訳で、エントリを2回に分けて「同一労働同一賃金ガイドライン案」の中身について解説をしてきましたが、残念ながら、この内容は真剣に「正規」「非正規」の待遇格差をできるだけ縮めていきたいと考えている、誠実な企業にとってはあまり参考になりません(まあ、多くの既得権益型日本企業に対する現状追認が(少なくとも部分的には)このガイドラインを出す目的なので、期待をし過ぎてもいけませんが)。
そこで、「あるべき姿」から考えて真剣に取り組まれている会社の事例を紹介いたします。「高品質な優良ブランド商品をできる限りの低価格にて提供する会員制倉庫型店」を全国展開しているコストコホールセールジャパン株式会社(以下、コストコ)です。
ご存知の方も多いと思いますが、コストコは1976年にアメリカで創業し、1999年に日本に進出して現在全国に20数店舗を展開しています。私はよく川崎の店に行きますが、non-Japaneseらしき店員さんが多く、みな楽しそうに働いていて、個人的に好感を持っております(ちなみに、お店の”ニオイ”がアメリカっぽいんですよね。)。それにはどうやら理由がありそうです。コストコの人事戦略は、「同一労働同一賃金」という観点で見ると非常に興味深いのです。以下の記事は大変参考になります。
となりの人事部インタビュー コストコ ホールセール ジャパン株式会社
人事・総務 マーケティング 部長 中川 裕子さん
以下、記事の引用と私のコメントです。
「非管理職は「正社員(週40時間勤務)」のほか、「パートタイム(週20~30時間勤務)」「アルバイト(週20時間未満勤務)」からなり、「時給制」で働いています。」
⇒正社員も時給制なんですね。
「欧米で「パートタイム」と言えば、通常の労働者よりも労働時間の短い人のことです。日本のように、必ずしも非正規労働者を指すわけではありません。コストコでは正社員とパートタイムで同じ「時給表」を用いていて、労働時間の長短では区別していません。賃金面では、同等の「時間比例」を保証しているのです。「時給制」は労務管理の面で優れているので、サービス残業などの問題も起こることはありません。」
⇒時給単価では正社員でもパートでも差を付けないということです。
「パートタイムやアルバイトの場合、日本では有期雇用が一般的ですが、コストコでは基本的に無期雇用で採用します。いったん採用したら、いつまで勤務するという期間を定めた契約は行いません。」
⇒「正規」と「非正規」の差が「有期雇用化か否か」だとすると、コストコのパートやアルバイトの人達は「正規雇用」であると言えそうです。
※正規雇用の定義については、以前本Blogでも取り上げました。
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「正社員≒正規雇用労働者を定義する条件として「フルタイムか否か」を挙げる場合があっても、実はその区分は適切ではないという事です。」
「正規・非正規、正社員・非正社員を分ける大きな区分は「雇用期間の定めの有無」に尽きますね。」
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「非管理職の正社員とパートタイム・アルバイトは時給ベースでは同じですが、拘束時間や責任の持たせ方、職務の内容が異なります。そのため、賞与や福利厚生面などで待遇に差を持たせています。よく誤解されるのですが、このようにコストコは、決して「同一労働同一賃金」ではないのです。」
⇒ここ重要です。時給は同じでも、責任や職務が違うからその分は賞与や福利厚生で差を付けている。「ガイドライン案」とは違うアプローチなのですが、私にはコストコのやり方の方がよほど合理的だと思えます。
「いま日本で問題となっているのは、週40時間働かせているパートタイムがいることだと思います。(略)パートタイムの方たちだけで実質的に管理を行い、正社員と変わらない仕事をしているのです。それにもかかわらず、有期雇用のために賃金形態や福利厚生が異なり、雇用が保障されていない。それは明らかに不公平です。しかしコストコでは、パートタイムは正社員と比べて労働時間が4分の3程度までの勤務と決まっています。無期雇用で社会保険に加入するなど、この問題のケースとは異なります。」
⇒実質的に正社員と同様に働いているにも関わらず、「パートだから」という「身分」で差別するのはおかしいということですね。正論です。
「コストコでは将来のキャリアに関して、入り口がどのような雇用形態であるかを問わないのです。「社内公募制度」を使って、どんどん上に行けるチャンスがありますから、採用の段階では「パートタイムで入社したからといって、そのまま終わることはありません。あなたのやる気次第で、いくらでもチャンスがありますよ」と必ず伝えています。」
「管理職から正社員に戻ることも可能です。介護や育児など、家族やライフステージ上の問題から、「管理職の立場にあるが、その責務を全うできないので一時期、正社員に戻して欲しい」などと、自らステップダウンを申し出る人もいるからです。その後で管理職に戻ることも可能で」
⇒入社の経緯に関わらず意欲と実績次第で登用されるチャンスがある訳です。一方で、ライフステージに合わせて一旦ステップダウンすることも可能なのですね。結果として離職率は業界の中でも非常に低いそうです。
「コストコが考えているのは、常に管理職を目指して頑張って働いてほしいという、一人ひとりの成長です。仮に今は同じ時給でも、パフォーマンスが違うのであれば、パフォーマンスの高い人が管理職に登用される確率は高く、より早くプロモートされます。逆に言うと、時給に見合う仕事をしていない人は、勤務時間数で昇給しても最終的には“頭打ち”になります。長い目で見れば、このような差が生じてくるわけで、キャリア形成の可能性が大きく違ってくるのです。」
⇒読めば読むほどよく考えられた仕組みです。
いかがでしょうか、非常に合理的な問題解決策の参考事例でした。やろうと思えば日本の現行の労働法規の元でもできることは十分にあるということですね。
業態等による違いもあるので全く同じやり方が出来るかどうかは各社の経営環境によっても異なるだろうという点は当然です。一方で「「正規」と「非正規」間の不合理な待遇差」を漫然と放置したり、開き直る会社に対する世間の目はこれからどんどん厳しくなることも予想されます。良識ある経営者の皆さまに置かれましては、本件は軽く考えることなく、自社の現状を点検の上、問題があれば(弥縫策でなく)本質的・合理的な解決策、改善策を速やかかつ着実に実行されることを期待しております。
では、Have a nice day! (久しぶり!)
働き方改革実現会議 「同一労働同一賃金ガイドライン案」 について(2)
こんにちは、組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。
安倍首相の「私的諮問機関」である、「働き方改革実現会議」において、12月20日に発表された、「同一労働同一賃金ガイドライン案」についてのコメントの続きです。
※前回のエントリ
同一労働同一賃金の実現に向けた検討会 中間報告
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/hatarakikata/dai5/siryou2_2.pdf
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/hatarakikata/dai5/siryou3.pdf
具体的な「ガイドライン案」の中身について見てみましょう。
■「ガイドライン案」の位置づけ
「中間報告」では、「ガイドライン案」の位置づけについて、以下の言及があります。
「現状ではガイドライン「案」の法的位置づけは不明確であることから、ガイドライン「案」は現時点では効力を発生させるものではない旨をきちんと周知すべきである。」
要は、この「ガイドライン案」自体には法的拘束力はないということです。ここで書かれている「問題となる例」にもし自社が該当していたとしても(少なくとも現時点では)処罰されたりすることはないという事です。あくまで努力目標ですね。
とはいえ、政府の機関が出している"ガイドライン"であり、今後はこの方向性に沿って(罰則も含めて)法整備が進んでいくことが予想されますので、全く無視する訳にも行きません。議論の進捗を見極めつつ、国が求める方向性に沿った形で、自社の(特に非正規労働者の)報酬評価制度の修正、人件費原資の確保・配分等を検討し、早めに手を打っていくことが求められます。
■「問題となる例」をみておけばいい
「ガイドライン案」では、有期雇用労働者及びパートタイム労働者について、無期雇用フルタイム労働者との基本給、手当、福利厚生等の差異について、いくつもの「問題とならない例」「問題となる例」を例示しています。
各企業において、このガイドラインを参考にするのは、「現状の自社の制度に問題となる所が無いかチェックする」目的か、または「今後の制度改定の参考にする」目的のいずれかです。
■基本給は原則「現状維持」でOK
「ガイドライン案」では、基本給に関しては、そもそもその決定要素が企業により様々である(「ガイドライン案」では、「職業経験・能力」「業績・成果」「勤続年数」「勤続による職業能力の向上による昇給」と分類しています)点を否定していません。これは、「同一労働であっても(相応の理由があれば同一賃金でなくて良い(本来的な意味での「同一労働同一賃金」の否定)」ということを意味します。基本的には、「ここに手をつけるとややこしくなるから現状維持にしておけ」というニュアンスです。
ですから、前回のエントリでも紹介した、以下のような言い訳がましい定義をあえてする必要があるのです。
「同一労働同一賃金は、いわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)の間の不合理な待遇差の解消を目指すものである。」(1ページ)
■手当・福利厚生は一律基準
一方で、手当の扱いについては、「役職手当」「時間外労働手当」「通勤手当・出張旅費」「地域手当」等の手当について、また、福利厚生については「福利厚生施設」「社宅」「休日・休暇・休職」等について言及されています。
「比較的決まり方が明確であり、職務内容や人材活用の仕組みとは直接関連しない手当に関しては、比較的早期の見直しが有効かつ可能と考えられる。」(4ページ)
と、「中間報告」にもあるように、これらについては「正規」と「非正規」で差をつける合理的な理由が無い限りは、「同一に(雇用形態を理由にして差を付けずに)提供すべし」という原則となります。
これに関しては、実際には処遇に差をつけている会社も少なくないのではないかと思われます。直ちに是正しないと罰則がある訳ではないのですが、方向性としては、世間が求めている方向性はそちらであると認識し、非合理的な(従業員に理由をきちんと説明できないような)格差は(可能な限り)早急に是正しておくことをお勧めします。
■賞与には踏み込んだ
新聞記事などでもこの点は強調されていますが、「ガイドライン案」では、賞与に関しては結構踏み込んでいます。以下のように、原則「正規」社員と同様・同一に、「非正規」従業員に賞与を支払うべきとしています。一方で現状では多くの企業では「非正規」従業員は賞与支給の対象となっていませんから、もしこれを実現しようとすると、その分は人件費の純増となってしまいます。現時点ではあくまで努力目標ですから、必ずしもこれに従う必要はありませんが、近い将来にこれが義務化される可能性もありますので、今後どうなるかはしっかり注視していく必要がありそうです。
「賞与について、会社の業績等への貢献に応じて支給しようとする場合、無期雇用フルタイム労働者と同一の貢献である有期雇用労働者又はパートタイム労働者には、貢献に応じた部分につき、同一の支給をしなければならない。」
「<問題となる例①>
・賞与について、会社の業績等への貢献に応じた支給をしているC社において、無
期雇用フルタイム労働者であるXと同一の会社業績への貢献がある有期雇用労働
者であるYに対して、Xと同一の支給をしていない。」
「<問題となる例②>
・賞与について、D社においては、無期雇用フルタイム労働者には職務内容や貢献
等にかかわらず全員に支給しているが、有期雇用労働者又はパートタイム労働者
には支給していない。」
(ガイドライン案6ページ)
※このエントリ、まだまだ続きます。