hrstrategist’s blog

組織人事ストラテジストのつぶやき、業務連絡など。。

(とりあえず)独立開業5周年

 こんばんは、みぜん合同会社 組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。今週末は、嫁の買い出しに付き合わされました。趣味のスキーに使うブーツの買い替えの同伴です。30年ほど前の学生時代にスキーショップでアルバイトをしていたのですが、さすがに最新の技術動向には疎くなっています(特に素材の技術進歩は凄いようです)。専門的なアドバイスは店員さんにお任せして、私は自分の後継機種(?)の選定の参考にすべく、1人離れて試し履きをしておりました(個人的にはAtomicとNordicaが好感触)。

 嫁は無事に新しいブーツ購入を決めて大満足の様子。私も来期予定のブーツ更新に向け、予備知識を増やすことができました。という訳で、スキーヤーは1年中忙しいのです(笑)。

 さて、ここからが本題。2014年に会社を辞めて独立開業をしてから、本日で5周年となります。昨年の4周年のエントリを読み返してみましたが、なんだか1年経っても進歩がありませんねえ。。

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 仕事に関しては、引き続き低空飛行な感じで「しぶとく」生き延びております。昨年から今年にかけては、長野県から補助金を受けながらリモートワークの試行(ときどきナガノ)を行っていたのが、特記事項でしょうか。

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 元々東京地方の暑さには辟易していることもあり、このリモートワークの取り組みは続けていくつもりです(これも「働き方改革」ですね)。

 また、リモートワークに限らず、企業の組織・人事課題の解決に引き続き貢献していきたいと考えております。

 最近お付き合いの各社から聞こえてくる組織・人事課題の多くは、「いかに今いる人材を繋ぎ止め(離職率低下)」、かつ「一定以上のレベルの人材を採用を十分に採用できるか(新卒・中途採用)」という課題感です(特に採用の課題はここ最近より緊急度を増しているようです)。なぜ優秀な人材が離脱してしまうのか、なぜ必要な人材を採用できないのかという理由は単純でなく、目先の課題を闇雲に、モグラ叩きのように潰していくだけでは本質的な課題解決となり得ません。そのような状況においては、(できれば外部の)専門家による現状分析と課題解決の優先順位付け、改善施策の提案と施策実行時の長期に渡る継続的支援が不可欠になります。

 そこで、当社(みぜん合同会社)の出番となります(笑)。

mizen.co.jp

「私がお手伝いすることで(略)強力な組織・人事体制を作りあげ、企業の成長に貢献することを実現したいと考え、日々活動しております。もし、このような取り組みに興味を持ち、新井と話をしてみたい、相談してみたいという方がいらっしゃれば、ぜひお気軽にお声掛け下さい。」(開業1周年の際のコメント)

 今後とも引き続き、よろしくお願いいたします!

「即戦力採用」の罠(3)

 こんにちは、みぜん合同会社 組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。

 6月に入りましたが、東京地方はまだ湿度も低く爽やかな気候です。冷たい風が吹いてくれるのが嬉しいです。どうやら数日内に梅雨入りするとのこと。良い季節は本当に短いですねえ。。

さて、これまで、「即戦力採用」人材は実は全然「即戦力」でなかったのではないか、定義・基準が曖昧なまま「即戦力採用」という言葉に拘るのはむしろ害悪になるのではないか、という話をしてきました。

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 とはいえ、たとえ「即戦力採用」と謳わなくても、採用する人が結果として「即戦力」であるに越したことはありません。それはどのような人でしょうか?

 「結果として即戦力となりやすい」人材とは、「異なる環境に柔軟に対応・適応できる力」がある人ではないでしょうか。

 たとえ同じような類の仕事でも、組織・会社によって異なる「組織文化」が存在し、意思決定の優先順位や仕事の進め方はそれぞれの組織において異なります。しかも、そのような独自の「しきたり」は明文化されておらず(暗黙知です)、組織の中で経験を積んで「振る舞いかた」を徐々に学ぶ必要があります。

「組織文化」の解説

組織文化とは―

※参考図書

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■いくつかの「組織文化」の事例
・某メガバンクでは、合併前の出身行によって札束の数え方(札勘)が違ったそうです。なので、札勘を見ると「あの人は〇〇出身」とすぐ分かるらしい。
・「拝承」「毎々」(IMEの変換で出た!)など、その企業でしか用いられない「独自の言葉」というのもあるようですね。

togetter.com

エドガー・H・シャイン先生による、あるIT企業(DEC社)の組織文化が企業の急成長とその後の停滞・崩壊にどのように影響したかが観察・分析されています。
(大変興味深いです)

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 言い換えれば、前職の経験や仕事の進め方がそっくりそのまま新しい職場で通用するような仕事は(ほとんど)ありません。新天地で成果を挙げるためには、新しい組織の文化や慣習等に合わせ、自身の仕事のやり方を(程度はともあれ)変えていく必要があるということです。特に人材の流動性が低いドメスティックな日本企業は、高コンテキストの「言わなくても察する」文化になりがちで、適応の難易度はより高くなります。

 いかにスキルや能力が高くても、そのような組織文化にいち早く適応(adjust)できなければ、それを十分に活かすことができません。自分の考えや前職のやり方に(悪い意味で)頑固に固執していてはうまく行かないのです。

 たびたび野球の事例で申し訳ありませんが、この「適応力」の好事例で思いだすのは、元カープの黒田投手と現ヤクルト青木選手です。それぞれ日本⇒アメリカ⇒日本と活躍の場を変えながら、きっちりと環境に適応し、どの場所でも素晴らしい成績を残しています。

 また、退職した社員が元の会社に戻る「出戻り社員」が注目され始めているのも、組織文化が既知の分、すぐに適応できるというメリットがあるからという面があります(この場合は適応力という能力でなく、職場経験がプラス評価されています)。

toyokeizai.net

 さらに、転職経験それ自体が、自身の「適応力」を高める鍛錬の機会になるという側面もあります。これについては以前のエントリ(以下)で触れました。
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hrstrategist.hatenablog.com「(1回目の)転職をすると、その人は新しい職場でカルチャーギャップに遭遇することになります」
「比較は「前の職場」と「今の職場」の2つだけなので、どちらが正しくてどちらが変なのかは自分だけでは判断が付きません。」
「2回目以降の転職、つまり3社以上経験すると、状況が変わります。つまり、「多数決」で判断できるようになるのです。」
中途採用の場合は、「2社(できれば3社)以上経験をした方」は、より新しい職場での適応が早く、かつ不適応を起こすリスクが低いのではないかと考えられます。」
「リスクがあると思うのは、長年1社で働いていて、勤続10数年~20数年で初めて転職というパターンです。」
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 という訳で、「即戦力採用」について思うところを3回のエントリに分けて書いてきました。余談ですが、最後に1点だけ気になることを。

 女性タレントが人差し指を立てて「〇〇〇ー〇」と社名を叫ぶ、「即戦力採用」のコマーシャルをよく見かけます。個人的な感想としては陳腐な演出ですし大変にイラつくのですが(上司役の方をドラマで最近お見かけするのは悪役が多いので、余計に胡散臭い(笑))、一方で「大変に興味深い」と感じています。

 というのも、コマーシャルは世の中の状況を映し出す鏡だと思うのです。「即戦力採用」についての一般的な認識を分かった上で、会社側も制作サイドも明らかに意図的にこういうトーンで作っている、確信犯に違いありません。

 私が思うに、このコマーシャルで訴求したいターゲットは人材採用(特に中途採用)に対して従来あまり熱心でなく、懐疑的な会社の経営者です。かなり絞り込んでいまね。「意識の高い」採用担当者は(コマーシャルなど見なくても)とっくにこの会社とサービスを認知しているはずですし、必要に応じて利用しているはずですから、その人たちはターゲットではなく、イライラされても構わないのです(笑)。
 
 そういうターゲットの方たちに、「〇〇〇ー〇」を使うと「即戦力採用」が出来るのか!と期待をさせ、関心を持ってもらうことが狙いなのです。
(一方で、求人系のコマーシャルでは、「仕事バイト探しは〇〇〇〇ー〇」のやつも、「あんまり難しいことを言わないでください」「難しくないのよ」というやり取りなど、物凄く割り切ってターゲット層を絞り込んでいて大変感心します。)

 よって、良い子たちはあのコマーシャルを見て騙されてはいけません。コマーシャルで描かれたのは大げさに誇張されたファンタジーの世界です。むしろ、あえて大げさな演出にすることで、「これは現実ではなく、あくまで誇張したコマーシャルです」と伝えているように感じます。リアルな感じに作り過ぎると、「話が違う」とクレームになりますからね。

 なお、「〇〇〇ー〇」の名誉のために言うと、人事採用界隈では、ミドル層の中途採用ではそれなりに利用されているサービスですよ!

 なお、「即戦力採用」への考えについては、数年前に「人事マネジメント」という専門誌にて記事を書いておりますので、こちらも参考にしてみてください。

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「過去の経験・スキルのうち何割かは新しい仕事で生かせるかもしれませんが、その人が戦力として会社に貢献するためには、残りの差分を自身の力と周囲のサポートで埋めていかなければいけません。」

「「差分をアジャストできるポテンシャルがある人かどうか」の視点が、「職歴・スペック重視」だと欠けてしまう場合が多いのです。」

「「即戦力」を採用してそのまま期待通りの即戦力にならず、期待外れだったことは確かに少なくないな。」

「「欲しい人」の基準が曖昧で、社内でコンセンサスが取れていないのです。そのために、採用に関わる人たちが、それぞれ自分の考えるバラバラな「欲しい人」像を候補者に伝えることになります。」
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「即戦力採用」の罠(2)

 こんにちは、みぜん合同会社 組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。

 東京地方、ついこの間まで20℃台前半の最高気温、かつ低湿度の(おそらく1年で最も)快適な気候でしたが、本当に一瞬で、最高気温30℃越えの真夏日が連続する大変なことになっています(今日は少し涼しくて助かっています)。

 幸いにも先週末は標高1800メートルの万座温泉(群馬)に行っておりましたので、その間は比較的マシでした。高温多湿の東京から気候が良いところへの移住、もしくは最低でも二拠点居住をぜひ実現したいところです。それが万座のような温泉地だと最高ですねえ(社会復帰できなくなりそう)。

 さて、前回のエントリは、「多くの会社(極論するとほとんどの会社)において、「即戦力採用」した人材は実は全然「即戦力」になっていなかった」のでは?という話でした。

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 本エントリでは、私がそう考える理由を説明いたします。

 前回エントリで、「即戦力」とは「すぐに使える」戦力であり、「すぐに使える」ことを採用基準として人を採ることが「即戦力採用」であると定義しました。では、「すぐに使える」人ってどのような人でしょうか。「前任者の穴を100%以上の貢献で埋める人」?「新規事業を早期に立ち上げる人」?

 なんとなく思い浮かびそうなのは、プロ野球やサッカーなどの、スポーツ選手のトレード(または新人のドラフト)のようなイメージでしょうか。

 野球やサッカーであれば、選手に求められるスキル、能力、経験などはある程度「即戦力になるかどうか」の見極めはできそうですが、それでも加入先のチームがその選手にどのような貢献を期待しているかどうかで、その人が結果的に「即戦力」になるかどうかの確率は変わるように思えますし、実際にトレードされた選手が必ず活躍する訳でもありません。

参考:巨人 FA選手獲得リスト

www.my-favorite-giants.net

 翻って企業が従業員を採用する場合、本来ならいつまでに、どのような成果を挙げれば「即戦力」として合格なのか、そのためにはどのようなスキル・経験・能力等が必要なのか(さらには不要なスキル・経験・能力は何か)という、Job Description*のような「基準」を募集各ポジションごとに具体的に定義する必要があります。そうしないと、採用の際に「この人は即戦力となりそうかどうか」をどう判断したかの説明が付きません。

*ジョブ・ディスクリプション(job description) 

www.hrpro.co.jp

 でも、そこまできちんと事前に準備している会社はどの程度あるのでしょうか。少なくとも日系の企業ではあまり聞いたことはありません。「即戦力」の意味が関係者内で明確化されず曖昧なまま、「大企業や同業他社出身」「学歴が良い」「社長と仲良し」という(だけ)の人を「即戦力」として採用しがちな企業では、「即戦力(のはずだった人)」が成果を挙げられず燻りながら社内に滞留し、人材の穴が埋まらない企業はさらなる「即戦力」の獲得を続けることとなります。

 仕事の定義や成果基準が比較的しっかりしているはずのスポーツの世界ですら、「即戦力」の補強は容易でないのに、企業が曖昧な定義や基準のまま「即戦力」を獲りに行っても上手くいくはずがないと思いませんか? 

 「即戦力採用に即戦力なし」。一般にイメージされているほど、即戦力採用は簡単でないのです。

 では、どうすればよいでしょうか。私からの提案は2点です。

 まずは、「即戦力採用」という言葉を使うのを止めましょう。禁止です。

 募集ポジションごとに「即戦力」としての合格基準を設定し、その基準を達成できそうな人を採用応募者の中から高い確率で確実に採用し、活躍させられるという確信があれば別ですが、定義・基準が曖昧なまま「即戦力採用」という言葉に拘るのはむしろ害悪になります。

 中途採用であっても、「(短期だけでなく)中長期的に活躍・貢献できる人」の獲得を優先的に目指すなら、わざわざ「即戦力」というフレーズを使う必要も意味もありませんし、短期の結果だけを期待してその後はどうなっても知らない(この手の求人は少なくありません)というのも、企業の態度としてはあまりに無責任ではないか、と私は感じます。

 企業にとって(この国において)中長期的な雇用の義務(現実的に解雇は困難)がある限り、「即戦力採用」であろうが無かろうが、採用した人には中長期的に貢献してもらわなければ困ります。それならむしろ、「中長期の活躍を見込んで採用し、そのがたまたま結果として即戦力となることを期待する」という採用方針を採る方がよほど良いのではないでしょうか。これが2点目の提案です。

 この話、もう少し続けますね。 

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「即戦力採用」の罠(1)

 こんにちは、みぜん合同会社 組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。年号も変わり、ゴールデンウイークの10連休も終わってしまった(お休みで来たかどうかはともあれ)昨今、皆様におかれましてはいかがお過ごしでしょうか?

 かく言う私は、連休中にやらなければいけない宿題(仕事です)があり、10日もあれば前半で余裕で終わるだろうと思っていたにもかかわらず、最終日(6日)にヒーヒー言いながら作業をするハメになりました。もちろん宿題を先送りした自己責任です。

 夏休みが終わってから泣きながら宿題をしていた小中学生時代とやっている事が一緒です。年は取っても中身は全く進歩していないことに改めて気づきます。「大人になる」ってどういうことなのでしょう。。

 さて、以前と比べると更新頻度が落ちてしまっている本Blogの執筆ですが、積極的にネタを探す努力をする必要がありますね。。

 などと反省をしつつ、ネタに困ってネタ帳を引っ張り出して読み返しております。改めて読むと結構いい事も書いてある(気がする)のですが、blogで記事にするには話が膨らみづらく尺が持たなそうだったり、時事ネタ系で今さら出すにはタイミングが悪いものなど、やはり一長一短なものばかりです。とはいえ、このまま死蔵しているのももったいないので、なんとか記事にできるよう、工夫してみようと思います。

 という訳で、蔵出し第一弾は、「採用」のあり方について、思っていることを書くことにしました。ビジネスパーソンの方なら、多くの方が「即戦力採用」という言葉を聞いたことがあるかと思います。

 試しにググってみると、検索結果上位は求人サイトが多数を占めますね。広告を除いて一番上位に出てきたのは、予想通り、「即戦力採用ならxxxxx」というフレーズで有名な某社が出てきました(興味がある方はご自身で検索されてみて下さい(笑)。

 ここで素朴な疑問が出てきます。そもそも「即戦力採用」ってどういう意味なのでしょう?「即戦力」ってどういう戦力か、考えたことはありますか?

 いつも使う手持ちの「新明解国語辞典 第三版」には掲載されていませんでしたが、こちらのサイトを参照すると、「即戦力」の意味が以下のように解説されています。

「訓練や準備をしなくてもすぐに使える戦力。」

kotobank.jp

 「即」を「すぐに使える」と言い換えただけであまり説明になっていませんが、「すぐに使える戦力を採用する」のが即戦力採用である、というのがここまでの時点での理解としておきましょう。

 そもそもなぜ「即戦力採用」をしなければならないか、という理由についても念のためおさらいしておきましょう。始めから話をすると、「何のために自社は存在するのか」という経営理念の話に遡る必要がありますが、話が長くなるので割愛します。
(興味がある方は以下の記事を読んでみてください)

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 経営理念は一応あると仮定(笑)して、その企業は、一般的には売上・利益などの「業績の向上」を目標とするでしょう。それを実現するための手段の一つとして、人材採用を位置づけます。その上で(少なくとも短期的には)教育訓練を必要とせず、採用してから「すぐに使える(≒業績向上に貢献できる)」人材であることを採用基準として人を採ることが「即戦力採用」である、と定義づけできそうです。

 前置きが長くなりましたが、これまで書いてきたことは結構重要です。というのも、皆さまの会社において、上記のような定義づけをしっかり行った上で、果たして即戦力採用が行われており、かつ、採用した人がちゃんと「即戦力」として期待通り、または期待以上に活躍をして業績向上に貢献しているでしょうか?

 私は思うに、多くの会社(極論するとほとんどの会社)において、「即戦力採用」した人材は実は全然「即戦力」になっていなかった、というのが現実ではないでしょうか?

 と、疑問を投げかけた所で、一旦本日はここまでとします。次回をお楽しみに!

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「4ドアのジムニー」と労働政策

 こんにちは、みぜん合同会社 組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。

 だいぶBlog投稿をサボっていましたが、元気です。それなりに忙しかったのと、なかなかネタを思いつかなかったので執筆が後回しになっていました。

 今回は、ある2つの記事を読んで思ったことを書こうと思います。ひとつは、先日20年ぶりにモデルチェンジを行ったところ大人気となり、未だに長期の納車待ちという、「スズキ ジムニー」について、開発担当者にインタビューした記事です。開発者の米澤さんと取材者のフェルディナント・ヤマグチさんのやり取りが大変興味深いものでした。

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business.nikkei.com

ジムニーはスズキを代表する特別なクルマだ。
 特別な思い入れを持つ人が多いため、開発に関して、社内外からアレコレと口を出してくる人が大勢いる。」

「それはもう、ありとあらゆることですよ。それをいちいち100%聞いていたら、もうジムニーどころか、クルマじゃなくなっちゃうんですよ」

「社内外とも、関係のない外野の人がいろいろ言ってきますね。もっと大きくしてくれとか、そんなことを。基本骨格さえ決まってしまえば、それ以降はもう自分の中では味付けの領域なので、何を言われても関係ないんですけどね。」

「確かに4枚ドアを望む声は多く寄せられているのですが、今の形がいいという新しいお客さんにもたくさん来ていただいているので、計画はないですね。それにホイールベースを延ばしてしまうと、アングルも変わってきて最小回転半径も大きくなってしまう。すると悪路走破性も変わってしまう、そうなるともう……。」
ジムニージムニーでなくなってしまう、と。」
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 要は、「外野」の意見は一切無視をして、ジムニーという車に求められる本質的な性能と商品性(軽自動車である、高すぎない価格、取り回し・悪路走破性の維持、現在の要求水準に適合した安全装備など)を開発者が軸をブレさせずに突き詰めた結果として、多くの消費者から熱狂的に歓迎される「新しい名車」が出来上がったということです。いい話ですね。

※一方で、4ドア(5ドア)ジムニー発売の噂は根強くあるようです。

bestcarweb.jp

 

 ふたつ目に気になった話は、(業界が全然違いますが)、労働法の専門家である、神戸大学大学院 大内伸哉先生の記事です。

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lavoroeamore.cocolog-nifty.com

「4月から高度プロフェッショナル制度が導入されています。誕生したときから,自由に羽ばたけないように重しをいっぱいつけられた可哀想な鳥のような制度です。」

「本来,(労働時間規制の)適用除外であることの意味は,時間外労働の抑制手段として,割増賃金を使わないところにあります。」

「論理的に考えると,この制度を適用してよいのは,時間管理を本人に任せてよい労働者となります。そうした労働者の範囲をどのように画するかについての基準は,いろいろありえるのですが,イメージは,知的創造的な仕事に従事している人です。」

「これが現在の高度プロフェッショナル制度と大きく違うのは明らかです。」

「自分で健康管理をできないかもしれないから,法が休息や健康管理に配慮してあげなければならないということでしょうが,私の考えでは,そういう人は,そもそもエグゼンプションの対象としてはならないのです。エグゼンプションの対象とするから,休息や健康管理はより厳格に法が配慮するというのは,論理的におかしいのです。」
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 2019年4月から施行された「高度プロフェッショナル制度」とは、「高度な専門知識」かつ「一定水準以上の年収(現時点では1075万円)を得る」労働者に対して、(本人同意の上で)残業代の支払などの労働時間規制の対象から除外することを可能にする制度のことです。

高度プロフェッショナル制度 わかりやすい解説
厚生労働省、わかりやすいという割には32ページもある!)

https://www.mhlw.go.jp/content/000497408.pdf

ja.wikipedia.org

 大内先生は、いわゆる「ホワイトカラーエグゼンプション」導入の議論が、マスコミや労働組合などの反対勢力により「残業代ゼロ法案」といったレッテルを貼り執拗に抵抗されてきた結果、本来あるべき姿とかけ離れた形で「高度プロフェッショナル制度」が出来上がったことについて(皮肉っぽく)感想を書かれています。

ja.wikipedia.org

 出来上がった「高度プロフェッショナル制度」の中身を見ると、いったいこの国に本制度適用の対象者(年収1075万以上&高度の専門性&管理監督者でない)が何人存在するのか(少なくとも「万単位」ではないでしょう)、10年以上の期間を掛けて導入可否を大騒ぎする必要があったのか、対象者に対してより厳格な「健康・福祉確保措置」を確保する必要があるのか(大内先生は「論理的におかしい」「政治的な妥協」と言い切っています)といったツッコミどころがいくつもあります。

 要は、本質的な正攻法の議論は避け、政治的な妥協は重ねてでも「ホワイトカラーエグゼンプション」的なものを「アリの一穴」的にまずは導入してしまえという事なのでしょう。そのような(誰かさんの)「執念」を感じます。法案を通すことが最優先だとすれば、上記のような「変なところ」もある意味確信犯なのでしょう。

 そこで(ようやく)冒頭のジムニーの話に戻るのですが、本件に限らず、(大内先生も愚痴られているように)、今の労働政策は、「4枚ドアのジムニー」になっていないかと思った訳です。「外野」の意見に配慮し、政治的妥協をしすぎた結果、当初目指した政策の目的・意図とはかけ離れたパッチワークのようなものが出来上がってしまっている気がします。とはいえ政策は「法案を通してナンボ」であり、そうしない限りどれだけ議論をしても現状は何も変わらないという面は理解していますが。
  
 ちなみに、民間企業における意思決定でも「4ドアのジムニー」的な話は少なくありません。会議を通すために、当初の施策案の「とげ」が抜かれて毒にも薬にもならないものとなり、結果としてその施策の優位性が無くなってしまい、失敗するという事象です。

 例えば、下記の本は「破綻企業に共通する意思決定の法則」についての研究なのですが、破綻企業の共通点として、「ミドルが多大な労力を事前調整にかける」「調整プロセスは(略)強い妥協色を帯びる」点を指摘しています。

「衰退の法則」小城武彦

 この2つの話の教訓としてまとめるなら以下のようなことではないでしょうか。
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1.何らかの成果物を作る際には、「何を目的・ゴールとするか」、「それを達成するために何を追求し、何を捨てるか」という判断軸がブレずに意思決定する「プロデューサー」的存在が必要
2.上記「プロデューサー」に権限を全面委任し、たとえそれが上司やスポンサーだったとしてもあらゆる「外野」の口出しを排除する。
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 とりとめのないまとめ方になりましたが、皆さまにとって何らかの参考になればと思います。

 では、Have a nice weekend!