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hrstrategist’s blog

組織人事ストラテジストのつぶやき、業務連絡など。。

トヨタ自動車の「賃金体系見直し」について(3)

経営 労務 人事評価・報酬

 こんにちは、組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。

 さて、トヨタの賃金体系見直しの話の3回目です。報道されたトヨタ自動車の賃金体系の見直しについて、以下の点を指摘いたしました。

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・ トヨタが意図する「『賃金カーブ』の若年層へのシフト」は、彼らが対外的に強調する「子供(家族)手当の見直し」のみでは実現できない

・彼らの狙いの本線は、「年功給」の増加を抑え、「能力給の範囲を拡大する」という口実でで賃金カーブの若年層へのシフト(是正)を図ろうと考えていることを狙っていると考えるのが妥当

・年齢給から能力(and, or)成果に基づく賃金に移行するには、一般的に以下の段階を経る。トヨタは現在第2段階にあると思われる

 -第1段階:純粋な年齢給(差を付けない)
 -第2段階:同期の間で差は付けるが、年次管理は継続
 -第3段階:年次管理は行わない、能力・成果等に応じて報酬を決める

・今回の賃金体系の見直しに関し、トヨタがわざわざ「賃金カーブ」の話を持ち出して若年層重視をアピールをするのは不自然である

トヨタ自動車の「賃金体系見直し」について(1) - hrstrategist’s blog

トヨタ自動車の「賃金体系見直し」について(2) - hrstrategist’s blog

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 彼らが表向きにどう言っているかに関わらず、結局トヨタがやろうとしているのは、「中高年層の年齢給を削り、能力給の原資に充てる」報酬制度の変更です。そして、賃金における能力給が増加し、増加した能力給原資が(結果的に)若年層に手厚く配分される結果、削られた年齢給の分、中高年層の賃金が(従来比で)減るという流れです。これはつまり、従来の賃金体系では、中高年層は能力・成果・貢献度に対して賃金を貰いすぎていると会社は認識しているということです。ただし、それを大っぴらに口に出してしまうといろいろと批判や抵抗が出てくることを彼らは懸念して、「手当」や「賃金カーブ」の話を持ち出して本音を隠しているのでしょう。

 なお、上記の変更を実施する際には、大まかに分けると2つの方法があると考えます。

 1つ目の方法は、年次管理は継続しつつ、年次毎に異なる賃金体系・カーブを適用する方法です。つまり、現在とこれから入る若手(例えば入社10年目まで)の賃金体系を変更し「若手に手厚い」賃金カーブを適用する一方で、従来の中高年層の年齢給等・賃金カーブは変更しない方法です。双方の賃金カーブは異なりますが、生涯賃金は同じになるようにします。あくまで生涯受け取る賃金額の配分を、若年時に前倒しするというイメージです。

 2つ目の方法は、「年次管理」「賃金カーブ」を止めてしまい、年齢・勤続年数に関わらず個人の能力・成果・貢献度等に合わせて従業員を階層分けし、その上で賃金を個別に決める方法です。この場合、人件費の予算管理は各グレード(人数が多い場合には職種等毎の)が母集団となります。上記の「第3段階」に移行するというということです。

 前者の場合、従業員の生涯賃金は変わらず、一方で会社の負担費用は増加します。全員が定年まで勤め上げる場合の生涯賃金は双方で同じとしても、ある程度の割合で中途退職は発生するので、賃金カーブが前倒しになっている分、中途退職者の通算賃金は後者の新賃金カーブの方が多くなり、その分が費用の増分となるのです。もちろん、退職率を見込んで、生涯賃金額を調整(減額)することも可能ですが、その場合、生涯勤め上げる人が損をすることになりますので、なかなかそれも簡単に行かない気がします。

 後者の場合、現在の中高年社員にとっては明らかに不利になります。というのも、若いうちは安い賃金で働き、その分後からもらえるはずだった年齢給分を減らされるので、生涯賃金が低下する「改悪」となります。前者では費用増を会社が負担しますが、この場合は中高年社員の生涯賃金の減額という形で従業員が痛みを受けることになります。
 
 では、トヨタはどちらの方法を採るのでしょうか。

 この辺について突っ込んだ記事が今のところ見当たらないので、以下はあくまでも現時点での個人的な推測ですが、おそらくトヨタは両者の中間の道を考えているのではないかと思います。いわば、第2段階から2.5段階(?)への小変更なのではないか、というのが私の見立てです。

 あえて「賃金カーブ」を強調していますし、「年齢給を無くす」とも言っていないので、年次管理は続けるのでしょう。そういう意味では、第2段階に留まるという事だと思われます。一方で、賃金体系変更は一律に適用し、賃金カーブ運用を年次で分けることはしない結果、年齢給を圧縮した分がそのまま中高齢社員の賃金カーブ下振れ要因となります。このままでは中高年社員にとって不利なだけなので、「アメとムチ」の「アメ」として、「60歳以降の再雇用の処遇見直し」を代替案として付けた、という流れで考えると納得がいきますし、トヨタ側のコメント「優秀な人材には還元する」とも繋がってきます。

 私が「組織人事ストラテジスト」としてお手伝いをするクライアントは従業員数十名~数百名規模のベンチャー・成長企業が主な対象なので、トヨタ自動車のような世界的大企業かつ製造業の人事制度をそのような企業に直接適用するようなケースは考えづらいですが、根本にある考え方やコミュニケーションの進め方については、いろいろと参考になる部分は多くあると感じます。今回のBlogの記事を書くことも非常に勉強になりました。

  いずれ、「労政時報」などで、今回の賃金変更の詳細について、詳しい解説が出てくると思いますので、それを楽しみに待ちたいと思います。

 では、Have a nice day!

トヨタ自動車の「賃金体系見直し」について補足(賃金カーブ等) - hrstrategist’s blog

トヨタ自動車の「家族手当見直し」の件について(あれから半年後) - hrstrategist’s blog

 

※こちらも参考まで。

「定期昇給」「賃金カーブ」を疑え! - hrstrategist’s blog