読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

hrstrategist’s blog

組織人事ストラテジストのつぶやき、業務連絡など。。

トヨタ自動車の「賃金体系見直し」について補足(賃金カーブ等)

 こんばんは、組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。

 今日のエントリは、トヨタ自動車の「賃金体系見直し」の話の補足的なものです。先のエントリを書いていた中で、「賃金カーブ」や「日本型人事制度」についての解説について触れようとしたのですが、話が長くなってしまうので、その部分を結局バッサリと削ったうえでアップすることにしたのです。

 せっかく書いたボツ原稿の再活用という事で、多少手直しの上、(セコく)掲載させていただきます。

こちら、関連のエントリです。

トヨタ自動車の「賃金体系見直し」について(1) - hrstrategist’s blog

トヨタ自動車の「賃金体系見直し」について(2) - hrstrategist’s blog

トヨタ自動車の「賃金体系見直し」について(3) - hrstrategist’s blog

--------------------
 そもそも「賃金カーブ」とは、X軸(横軸)に年齢、Y軸(縦軸)に賃金を取った折れ線グラフです。つまり、年齢毎に賃金がどのように増減していくかをグラフで示すものであり、若年時から年齢が上がるにつれてある程度の年齢までは急上昇し、そこから定年年齢に向けて上昇度が緩やかになる(最近ではマイナスになる場合も多いですね)形をみて、賃金"カーブ"という表現をされています。

 この「賃金カーブ」の考え方には、大前提があります。「給料は年齢、年次に応じて増減するもの」という考え方です。評価による個人差は多少あったとしても、新卒で入社してから給料は年齢に応じて上昇していくのが当たり前というのが多くの(古くからある)日本企業とそこで働く従業員にとっては「常識」だったと思います。

 これが、「年次(による人事)管理」というやつです。「〇年入社の〇年目の賃金は、〇円から〇円の間で、平均すると〇円になる」という考え方ですね。「1年勤続して1歳年齢が増えると〇%賃金が上がる」という〇%(または〇円)のことを「定期昇給(略して定昇)」と呼び、物価上昇等に対応して全体の賃金テーブルを増額することを「ベースアップ(ベア)」と呼びます。これを毎年労使間で交渉して決めるのが「春闘」ですね。

 賃金カーブ、年次管理、定昇、ベア、春闘といった用語は、このように従来型の日本型人事(報酬・評価)制度と紐づいた一連のシステムにおいて用いられているものです。

 すでに気づかれた方もいるかもしれませんが、この仕組みは「個人の成果を評価し、それに見合った賃金を個別に決める」という考え方ではなく、「年次別の同期」を一つの固まり・母集団として扱うことにより、人事管理・人件費管理の効率化を図ったものです。

 昔の日本で主流の産業であった製造業は、元々大量の工員さんを雇って、その人達が工場のラインで働き、生産をすることで付加価値を作っていました。そのような働き方の場合、一人ひとりの個別の生産性の違いはあまり大きくないので、細かく個別に賃金を決めるより、年次毎に集団で人事管理を行うという方法が採られてきた訳です。年齢で賃金を決めれば人事評価に手間を掛ける必要はありませんし、賃金を決める基準も裁量の余地が入り込まず、100%クリアです。そもそも、日本企業の賃金制度をの根本にある考え方は、「生活給」でしたから、「成果・能力に応じて報酬が決まる」という意識も今と比べて薄かっただろうと思われます。

以前のエントリでもこの点について指摘をしたことがあります。

「歴史的に日本企業は、パフォーマンスと賃金を短期的には相関させず、若いうちは賃金を抑え、40,50歳代に手厚い賃金を払い、従業員の生計費を保証する、「生活給」「賃金カーブ」の思想に強く影響を受けていました」

「夢は正社員」!?(3)「期間の定め」をなくしたら - hrstrategist’s blog

 一方で、例えばプロ野球のようなスポーツ選手の報酬は、(当然ながら)個人の成果・貢献度を基に決まります。これを年齢ごとに平均値をプロットして「賃金カーブ」を出すことは技術的には可能ですが、そのグラフ自体に意味はありません(「30歳になったら平均2000万円もらえるのか」などという情報を知っても、選手も、球団も「ふーん」と思って終わりでしょう)。また、選手の報酬を「年次管理」するという考え方には皆さん違和感を持つでしょう。

 そして、近年起きていることは、多くの職種、業務、特に(IT系エンジニアのような)近年新しく発生したようなものに関しては、旧来からの仕事と比べて、より個人別の生産性の格差が大きく表れる、「スポーツ選手型」に近いものになっているという事ではないでしょうか。それに合わせて、このような仕事への評価・報酬体系に関し、年功型よりも成果・能力・貢献度等との相関が高い形にAdjustしていくことが求められていると感じます。

 注意すべきは、すべての業種・職種において年功序列賃金が悪いのではなく、それぞれの業務の特質と照らし合わせて最適な報酬・評価制度はどのようなものかというのを各社で個別に自分の頭で考え、実施していくことが肝要だという事です。トヨタの今回の賃金体系の変更も、決して他社と比べて斬新なものではないかもしれませんが、「なぜを5回繰り返」し、熟慮した結果出した結論でしょうから、分析する価値はあると考え、取り上げさせて頂きました。

 さて、皆さまに置かれましても、くれぐれも「マスコミ」や「世の中の流れ」や怪しい「コンサルタント」(私ではないですよ!)に騙されないようにしましょうね。
 
 では、Have a good night!

トヨタ自動車の「家族手当見直し」の件について(あれから半年後) - hrstrategist’s blog

※こちらも参考に。

「定期昇給」「賃金カーブ」を疑え! - hrstrategist’s blog