hrstrategist’s blog

組織人事ストラテジストのつぶやき、業務連絡など。。

温泉リモートワーク、始めました!(2)

 こんばんは、みぜん合同会社 組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。

 11月の東京地方ですが、なかなか快適な気候です。暑くも涼しくもなく、湿度も少ない、私にとってはまさに理想的な天候です。まあ、こんな時期は1ヶ月も続かないのですが…

 「温泉リモートワーク」の話、続きです。

hrstrategist.hatenablog.com

 前回のエントリでは、「リモートワーク(またはテレワーク、モバイルワーク)」と「温泉」を結びつける「温泉リモートワーク」活動で、より楽しく、気持ちよく、刺激的な活動を目指したいという考えを書きました。

 では、「温泉リモートワーク」は具体的に何が「おいしい」のでしょうか?その、「目的・狙い」について考えてみます。

 まず思いつくのは「(仕事・居住の)拠点を変える」ことの効果です。

 私自身は、「一か所にずっと留まる」ことが苦手で、落ち着かない性分です。生まれてから今まで通算15回引っ越しを経験し(いちいちカウントするのが几帳面ですね)、1か所の居住が6年強が最長記録です。また、仕事でも何度も転職をしております。前職の会社(楽天)に8年在籍したのが最長で、しかもうち半分くらいの期間は子会社や海外に行っていたので、実質的には1つの仕事にいるのは最長でも3,4年くらいがせいぜいです。

 そういう「飽きっぽい」私にとって、旅行&リモートワークにより環境を変えることで新鮮な刺激を脳に与えるのは、仕事に対する集中力を高めるのに役立っているように感じられます。

 環境を変えたり、オフィスの外に出ることによる生産性の向上の記事は、(英語で)調べてみると沢山ありますね(なぜか日本語の記事は全然見つかりません)。

blog.trello.com

生産性を上げるには「太陽光を多く浴びる」事がよいという記事

www.nbcnews.com

www.inc.com

 加えて、私自身が「非都会好き」だからという理由もあります。元々横浜の外れの中途半端な「トカイナカ」で育ったので、都心部のように人口密度が高い環境では「人酔い」してしまいます。また、(いつもBlogでも書いていますが)コンクリートアスファルトで地面が覆われた(夜でも気温が下がらない)都会の湿気を帯びた暑さは苦手です。しかも最近どんどん酷くなっていますよね。

東京都の統計資料 東京における雷日数や真夏日等の日数 | 東京管区気象台

 一方、寒さは相対的に苦にならず(むしろ大好き)、かつスキーや温泉好きなので、長野や新潟のような場所には非常に魅力を感じます。また、気候が体に合うのは健康にも良いです。さらには食べ物もおいしいし、バイクや車のドライブも楽しめますし!

 なお、私は将来的にはどこか地方に拠点を持ち、「二地域居住」に移行したいとの野望を持っています。よって、「温泉リモートワーク」は、「ときどきナガノ」の補助を受けながら、長野県内の各地を訪れ、2拠点目の適地を探す「お試し」を行うという目的もあります。ですから、訪れた先では物価や生活環境、その地域の人たちの傾向(開放的か、閉鎖的か等)などを観察をするという「重大な任務」も同時に行わなければいけません(笑)。

 さらには、「地方に行ってリモートワークを試してみる」という働き方を、自分自身が「実験台」となって試してみたいと考えたことは、前回のエントリでも触れました。

 とはいえ、楽しくて気持ち良い(はずの)「温泉リモートワーク」も、メリットばかりではありません。以下、デメリットをいくつか列記します。

 まずは当然ながら「移動のコスト」です。交通費だけではなく、時間のコストも含まれます。お金に関しては、今は「ときどきナガノ」の補助を頂けるので、その分は助かっていますし、高速バスを使える地域なら概ね片道2~3000円台で済みます(新幹線など比べると時間は掛かりますが)。また、宿泊費は「楽天トラベル」あたりで探せば意外と安くいけます(ちなみに、長野県の担当者の方によれば、「ときどきナガノ」の対象者の中には、「テント泊」をしている人もいるとか!)。

 移動時間に関しては、公共交通機関(電車やバス)であれば、その時間に仕事をしたり、本を読んだり、時にはビールを飲んだりなど、活用の仕方は色々あります。週に往復1回程度の移動であれば、片道2時間~3時間位であれば、まあ許容範囲かなというのが私の実感値です(個人差はあると思います)。

 あとは、リモートワークをする場所による制約です。コワーキングスペースを使用する際には、その場所の利用料(無料の場所もあります)や、印刷する場合の費用等が掛かります。また、テレカン(テレビ会議含む)をする場所が確保できるかも懸念事項になり得ます(とはいえ、カフェでやるよりはマシですが)。

 もちろん、そもそも「リモートワーク」でできる仕事とできない仕事があり、あくまで相応の業務量が前者にあるというのは大前提ですね。

 もしその条件が満たされるなら、(あと温泉が好きなら)「温泉リモートワーク」、オススメですよー。

 何だか続きます。

温泉リモートワーク、始めました!(1)

 こんばんは、みぜん合同会社 組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。

 前回の投稿が9月上旬ですから、そこから約2ヶ月弱経ちました。東京地方は気温30℃台の暑さ(今年は特に暑かったですね)から、上着が必要な「涼しい」気候にすっかり変わってしまいました。今の時期は、5月下旬と並んで東京地方では最も過ごしやすい気候の時期かもしれません。このような時期がもう少し長ければと思ったりもしますが、こればかりは、引っ越すか、我慢ずるかのいずれかしか対策はない訳で、まあ仕方がありません。

 という訳で夏物もすっかりしまい込んで冬物を引っ張りだす「衣替え」も先日決行いたしましたが、それとは関係なく、この2か月くらいは(久々に)仕事が忙しく、なかなかBlog記事の執筆に時間を割くことができなかったなあ、というのは言い訳ですが...

 バタバタしていたのは他にも理由があります。実は9月より、ほぼ毎週、長野に遠征をしておりました。というのも、実は、「ときどきナガノ」という、長野県が実施するリモートワーカーを支援するプロジェクトに応募し、対象者に選ばれたのです。

tokidoki.otameshinagano.com※「そもそもおまえはIT関連の事業に携わっているのか?」とのツッコミがありそうですが、一応応募時に書類審査を通過して選ばれたので、そこに関しては大丈夫なようです。

 元々暑さがとても苦手で、毎年夏場に東京地方に居ることに苦痛を感じている上に、冬場はスキーに情熱を燃やす我が家にとって、長野県のような寒冷地(かつスキー場の近く)の居住にはとても魅力を感じます。

 一方で、「組織人事ストラテジスト」業、または「クラウド人事部長」業のクライアント様は、(現実的に)東京都心部に拠点を持つ会社がメインですから、相応の配慮が必要なことは言うまでもありません。

 そのような状況の下で、住む場所に囚われずに業務を行う「リモートワーク(テレワーク)」という方法論は、なかなか魅力的です。とはいえ、現実的に、オフィスに出社せずに働く「リモートワーク(テレワーク)」という働き方は可能なのでしょうか?

 実は以前より、リモートワーク(テレワーク)の実態や効用について、以前から本ブログや外部投稿でも記事にしてきました。

hrstrategist.hatenablog.com

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 サラリーマンを辞め、独立してからもうすぐ5年。渋太く生き延びてきた私自身も、実態として「リモートワーク」的な働き方をしています。自前のオフィスを独立して持たず、仕事に費やす時間の大半は自宅(川崎市に在住)で過ごしていますし、客先とのやり取りもほぼ100%、ネット上のやり取り(メール、チャット、SNSメッセンジャーSkypeなどをつかった電話会議、テレカン等)で完結していますので、「リモートワークを実施してますよ」と言っても過言ではない現状です。

 そして、このような働き方をしていると、しばしば考えてしまいます。「ネットでやり取りするのなら、別に川崎に居る必要は無いのでは?」「今ここでやっているテレカンも、別に旅先から参加してもなんら問題ないよなあ。」などと。

 それが正しいかどうかは分かりませんが、頭で考え、口先で偉そうな御託を並べるだけでなく、まずは自ら行動し、自身で体験するのが良いだろうと考え、「地方に行ってリモートワークを試してみる」という実験を、「ときどきナガノ」の補助を活用して、ぜひやってみようと思い立ったのです。

 そして、幸運なことに「ときどきナガノ」の対象者に選ばれ、縁あって補助を頂けることになりました。

 こうして長野県に行く機会がせっかく出来たのですから、単にリモートワークを実践するだけでなく、追加的な別の楽しみ・目的を持つことにしました。それが、数多くの「温泉」を巡ることです。

 温泉とリモートワークを組み合わせて(単純ですが)この活動を、「温泉リモートワーク」と名付けました。

 単に地方で「リモートワーク」をするだけではなく、地方に赴く「あえて」の理由として付加的な(かつ純粋な)楽しみを追求し、「温泉」を絡めることで旅路をより意義あるものにするという方法論は、自身のモチベーションを存分に刺激し、ポジティブな効果を発揮していると感じます。

 なにしろ、「温泉」は楽しくて気持ち良いですから!

 この話、まだまだ続きますよー。

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賞与の決め方は配当性向で(2)

 こんにちは、みぜん合同会社 組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。

 お盆も過ぎ、例年では残暑が残るものの何となく「真夏のピークが去った」感があるのがいつもの東京地方ですが、今年は猛暑が続きますね。本当に今年はちょっと異常な暑さですね。わが家のエアコンも例年になくフル稼働しております。

 そのような中で、関西地区の台風や、北海道での大地震など、災害が立て続けに起きてしまいました。被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。

 さて、前回エントリでは「賞与」について取り上げましたが、その続きとなります。

hrstrategist.hatenablog.com

 賞与原資を決める考え方として、「企業における「配当性向」の決め方」が参考になる、と前回は締めました。本エントリは続きとなります。まずは「配当性向」の説明が必要ですね。

 企業が企業活動により得た純利益のうち、今後の成長・利益増大のために手元に残した分が「内部留保」であり、株主に対して出資比率・株式数に応じて現金を配分するのが「配当」です。

 「配当性向」とは、「企業がその期の純利益額からどの程度の割合を配当として株主に還元しているかを比率で表したもの」です。計算式で表すと、以下のようになります。

 純利益=配当+内部留保

※参考

配当性向│初めてでもわかりやすい用語集│SMBC日興証券

kotobank.jp

 配当をしなければ配当性向は0%、純利益の全てを配当で払えば配当性向は100%となりますは。多くの企業はあらかじめ配当性向の範囲(〇%程度、〇~〇%の間など)を決めており、その上で諸々の要素を考慮しながらその期の配当性向、配当額を決めます。

※配当性向が100%を超える場合、好ましくないものとして「タコ足配当」などと言われます。

タコ足配当│初めてでもわかりやすい用語集│SMBC日興証券

※余談ですが、REIT不動産投資信託)の場合、内部留保はせずに利益を全て配当に回す仕組み(配当性向100%)となっています。

www.toushin.com

※もう一つ余談ですが、REITとはReal Estate Income Trustの略ですが、不動産に限らず、一般の企業をIncome Trustとして所有するという形態もいくつかの国で存在し、特にカナダでは盛んなようです(昔カナダに留学していた時にさんざん勉強した覚えがあります)。

Income trust - Wikipedia

 ところが、各企業において配当性向を何パーセントにすべきかという「正しい」答えはありません。財務的な話になるので詳しい説明は避けますが、要するに、配当性向をどうするか各企業の経営者の裁量に任されているのです(厳密には株式会社では株主総会の決議が原則、一定の条件下で取締役会決議が可能)。

 とはいえ、特に上場企業に関しては、年によって大幅に配当性向や配当額が変わるのは(株式を所有する側にとって不確定要素が増えるため)あまり好ましくありません。投資家にとって不確定要素は「リスク」であり、リスクが増えると(理論上は)株価下落の要因となります。

 そこで、多くの企業は自社の配当性向について幅を持たせた表現で目標を定め、公表しています。前回のエントリで賞与原資を「純粋な業績連動」とすると都合が悪い理由を述べましたが、配当に関しても同様のことが言えます。

「経営者の本音としては、「来期に備えて」「特損を受けて」賞与額はできれば少なめにしたいと考えるでしょうし、実際に経営の安定を考えると、少なくともそうするかもしれないという意思決定のオプションを経営者は持っておきたいと考えるのは自然です。」
(前回エントリより)

 配当原資は純利益なので、特損については「そのまま連動」の考え方でも良いかもしれませんが、「来期に大幅減益見込み」「毎期の純利益の増減が激しい」といった場合は、何らかの「塩梅」をしたいと経営者は考えるでしょう。

、そのため、自社の配当性向は業績連動を基本としつつ、経営サイドが「諸般の事情を鑑みて」配当性向の決定についてある程度の裁量、幅を持たせるというのは、ある意味「落としどころ」なのでしょう。

※参考:日本生命の(投資先に対する)「国内株式議決権行使の方針と判断基準 」
原則「配当性向25%未満」「100%以上」は反対
ただし、例外として「中長期のROE向上」「配当性向向上」が判断できる場合等を例示

https://www.nam.co.jp/company/responsibleinvestor/pdf/voting.pdf

www.nikkei.com

 で、賞与にこの考え方をどう反映するかです。

 大原則として、「賞与は業績に連動させる」こと。これは譲れません。あとは「業績」をどう定義するか、どの範囲で業績を測るか、計算式としてどのように「連動」させるか、この3つが問題となります。

 「業績の定義」に関しては、選択肢はそれほど多くありません。損益責任を負う事業単位が対象の場合は、「営業利益額」「営業利益の目標または予算に対する達成率」あたりが一般的に用いられる業績の指標になるでしょう。管理会計における事業部単位の場合、「配賦額」「減価償却費」等を反映させるか、除外すべきかは議論が分かれる所です。また、従業員のとっての「分かりやすさ」という観点も重要です。そういう意味でも「営業利益」というのは理解されやすい指標と言えます。

「業績連動型賞与の指標に何を選ぶか」

www.hrpro.co.jp

 「どの範囲で」というのは、例えば1つの会社に複数の事業部がある場合に、賞与原資を決める単位が「全社」とするか、「事業部ごと」とするかです。どちらにしても一長一短があるので、自社におけるメリット・デメリットを勘案していずれかに決めるしかありません。

 最後の「連動」に関しては、工夫が必要です。単純に「営業利益の〇%」「予算目標達成率」としてしまうと、あまり具合がよろしくないのは、前回ご説明した通りです。

 そこで配当性向と同様に、例えば「賞与原資は営業利益の〇%~〇%の間」としてしまえば良いというのが私の主張です。

 毎回の賞与で「〇%~〇%」の間でどの値を取るかは、納得感のある根拠を経営者が従業員(会社によっては労働組合にも)に説明する必要があります。その場合も、幅の中でどの値を用いるかを示す「最低の数字である〇%を取るのは大幅な特別損失が発生した場合など」といった基準も作成して公表すれば納得感もだいぶ高くなります。

 このような話をすると、「従業員や労組にいちいち説明するのは面倒だから」「うちの社長はどうせ気分で恣意的に決めてしまうから」計算式で自動的に決まったほうが良いと反論される場合があります。

 しかし、前者は経営者としての説明責任放棄であり、後者はそもそもそういう人が社長をやってはいけないのでは?(従業員の方たちに同情しますが)と私は考えます。
 
 人事評価でも同様の話があって、「目標の達成度で評価が自動的に決まり、評価者の主観が入らないのが良い人事評価制度である」と考えている管理職も未だ少なくありません。

 この考え方がどうダメかは、さんざん当Blogで書いてきましたので(例えば以下の記事)繰り返しません。

hrstrategist.hatenablog.com

 人事評価の精度を高めるためには、評価者が非評価者をよく観察し、評価者が認識したその人の「貢献度」を定性的に評価してあげる必要があります。実は、真剣で責任感がある評価者であればあるほど、(何らかのガイドラインはあるにせよ)自分の主観を反映したいと思っているものです。

 賞与原資の決め方も同じです。経営者が従業員の貢献に対してどれだけ報いてあげたいかを示すのが、業績に応じて(時には「この業績にも関わらず」)賞与をどれだけ出すかなのです。

 当期中の貢献度は当期の利益としてリニアに反映されていないのは明白ですから、そこに裁量の余地はあって当然です。経営者が裁量を働かせて「これでどうだ!」と賞与原資額を決めた上で、説得力を持ってそれを従業員に説明できて初めて、その人は経営者として役割を果たしたと言えるのではないでしょうか。

 賞与という人件費項目は月給と比べて経営サイドの決定の裁量・自由度が高く、それが故にどんなルールが「正しい」のか、「納得感が高い」のか、簡単に答えの出ないものです。
 
 ここで私が提案した方法も、どの会社にも適するものではありません。あくまで一つの考え方として、ぜひご自身の会社における賞与の決め方の参考にしてみて下さい。

賞与の決め方は配当性向で(1)

 こんにちは、みぜん合同会社 組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。

 会社の決算作業や、諸々対応が必要な会社としての事務作業が重なり、Blogの更新が滞ってしまいました。もちろん、今年の猛暑が影響していない、とは言えません。とにかく暑さと湿気は大の苦手です。お盆を過ぎて真夏のピークが去った(笑)はずが、東京地方の今日の暑さは異常ですね。台風の影響もあるのでしょうか?

 さて、「人事制度の構築」に関する支援業務は「組織人事ストラテジスト」の得意分野です。今日はその中でも「賞与」についての話を取り上げます。

 自社の成長・発展のために必要な「優秀人材」の獲得・退職抑止を実現するには、「頑張った人が報われる」人事(評価・報酬)制度の構築・運用は必須です。

 いい加減な評価制度や、高い評価を得ても処遇に差が付かない報酬制度、さらには制度を運用・活用できない経営者・管理職は、自社の価値を創造できる優れた人材を獲得する上で決定的な劣位となります。評価・報酬の仕組みとそれを活かした適切な運用は、もはやグローバルレベルにまで競争範囲が拡大した優秀人材獲得競争の中で、他社との差別化を図るための重要な要因となっております。

 そのような環境の下で人事制度改革を実施する際によく問題になる検討課題の一つに、「賞与額の決め方」があります。

 「賞与額の決め方」には2つの要素があります。例えるなら「(賞与という)パイの大きさをどう決めるか」「(その)パイをどのような大きさに切り分けて従業員に配るか」ということです。

 後者は評価結果(評語)に対応した評価係数(例えば、A評価だと標準のB評価と比べて+〇%とする)と、その分布の決め方です。

 例えば最高評価で標準+50%、最低評価で-50%とした場合、賞与額に最大3倍の差が付く設計となります。通常は月給と賞与を合計した理論年収額を参照しながら決めますが、その会社で良しとされる「よい塩梅」の水準が何となくあり、割とあっさり決まることが多いです。

 一方、前者(例えば、「月給の〇ヶ月分」の「〇ヶ月」をいくらにするか)については、なかなか難しい問題です。

 最もシンプルで分かりやすいのは、「会社の(賞与控除前の)営業利益の〇%を賞与額に充てる」という方式です。賞与とは会社の業績に応じて変動すべきで、その中でも特に従業員の貢献が直接反映されている(はずの)営業利益と連動させるべきというロジックに対して私も異論はありません。

 ただし、その場合、営業利益が赤字になってしまうと、賞与原資はゼロ=個別の賞与もゼロになってしまいます。従来はある程度の賞与額が実質的に保証されていたような会社では、このような変更には従業員の抵抗も大きそうです。

 一定の固定金額を賞与の最低額として設定し、固定+変動賞与とするパターンも考えられますが、この場合は、固定賞与額+月給額の合計を「年俸」とみなされ、固定賞与額分も残業(時間外労働)等の算定基礎額に算入すべき、という話になってしまう恐れがある点は配慮が必要です。

※参考

www.f-syaroushi.jp

 別の問題もあります。もし当期の営業利益がそこそこだったとしても、「来期は業績が悪化して営業赤字の見込み」「今期に大幅な特別損失が発生」という場合はどうでしょうか?

 業績が右肩上がりであれば純粋に業績連動でも問題ありませんが、来期に業績が赤字になったからといって、従業員に「赤字分をマイナス賞与として控除します」などと宣言する訳にもいきません(結果、2期を合わせた賞与額は2期通算の営業黒字(赤字)額と比べて過大となります)し、営業黒字分の賞与を払っても特損の影響で資金繰りが悪化し、極端な話ですが、「賞与を払ったせいで資金がショートし、会社が倒産」となる可能性もあります。また、そのような意思決定は株主も納得しないでしょう。

 よって、このような場合、経営者の本音としては、「来期に備えて」「特損を受けて」賞与額はできれば少なめにしたいと考えるでしょうし、実際に経営の安定を考えると、少なくともそうするかもしれないという意思決定のオプションを経営者は持っておきたいと考えるのは自然です。

 では、どうすれば良いのでしょうか?

 私が参考になると考えるのは、企業における「配当性向」の決め方です。

 次回へ続きます。

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「同一労働同一賃金」判決から学ぶこと(2)

 こんにちは、みぜん合同会社 組織人事ストラテジスト 新井 規夫です。

 前回のエントリから間隔が空いてしまい、その間に「働き方改革関連法」が成立し、来年2019年4月から施行されることが決まるという大きなニュースもありました(これについては改めて解説する予定です。

www.mhlw.go.jp

 前回は、同一労働同一賃金に関連する2つの訴訟(ハマキョウレックス事件、長澤運輸事件)の最高裁判決の内容を紹介しました。

hrstrategist.hatenablog.com

 本エントリでは、この判決が実務上どのような意味を持つか、企業の立場ではどのような視点で捉え、実務でどう対応すべきかを解説したいと思います。

 まず注目すべきは、これらの判決内容が、安倍首相の「私的諮問機関」である「働き方改革実現会議」が2016年12月に発表した「同一労働同一賃金ガイドライン案」の示した基準に概ね沿った内容であるという点です。

同一労働同一賃金ガイドライン案」については、以前Blogで触れました。

hrstrategist.hatenablog.com

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 上述した「働き方改革関連法」においても「雇用形態にかかわらない公正な処遇の確保」が重要な改正ポイントとなっており、この「ガイドライン案」も、法案成立を受けて最終的には法的拘束力のあるガイドラインとして施行される予定だそうです。

「本ガイドライン案については、今後、関係者の意見や改正法案についての国会審議を踏まえて、最終的に確定するものです。」

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000190591.html

https://www.mhlw.go.jp/content/000307111.pdf

 つまり、行政・司法双方で、「同一労働・同一賃金」の議論に関し、当面の「落としどころ」が想定され、それが判決・法律という形で具体的に反映されていくということになります。

※ちなみに、ここで使われている「同一労働同一賃金」というフレーズが、本来の意味と異なった形で使われているという点は、前記の私のBlog記事で下記の通り触れています。

「どうやら言いたいことは、「正規」と「非正規」の格差の解消が解消された状態を「同一労働同一賃金」というフレーズで表現しようということなのでしょう。」

 これらを踏まえて、我々企業の実務家が得るべき、「教訓」的なものは何か、私が考える要素を下記にいくつか挙げてみます。

1.異なる雇用形態・処遇であるにも関わらず、同一の業務を行わせている場合、それは労務トラブルとなるリスクがある

 これについては、「働き方改革関連法」において、「短時間労働者・有期雇用労働者・派遣労働者について、正規労働者との待遇差の内容・理由等に関する説明を義務化」せよとされています(上記厚労省のページより)。
 
 トラブルを避ける最も確実な方法は、「同一の業務を行わせない」ことです。たとえ同じ部署であっても雇用形態によって担当する仕事が明確に区分され、文書化されていれば、問題はありません。

2.処遇の差異の理由を論理的に説明出来るようにしておく

 とはいえ、例えば配属されたばかりの新入社員に、業務を覚えるOJTの一環として、パートタイマーさんと同じ仕事をしてもらう、というケースも想定されます。外形上は「同一の業務を行っている」状態となってしまいますが、処遇の差異の理由として、ここで(まさにこの訴訟で示された理由である)「転勤・出向の可能性」「中核を担う人材として登用される可能性」(もちろん、これらの差異はあるという前提ですが)をしっかりと説明できるようにしておく事は重要です。

 逆に、この点を曖昧のままにしておくと、訴える側は間違いなくその弱みを攻めてくるでしょう。

3.中長期的には本来的な意味での「同一労働同一賃金」的な制度設計を目指すべき

 本来、「同一労働同一賃金」とは、年齢や勤続年数にも関わらず、同じ仕事をしていれば同じ賃金とすべきという意味なので、雇用形態が同一の正社員同士であっても年齢や勤続年数が異なるという理由で賃金が異なる(多くの会社における)報酬体系は本来は「同一労働同一賃金」的ではないと断言できます。

 ところが前述した通り、わが国の政府はこれを(おそらく意図的に)「「正規」と「非正規」の格差解消」という別の意味で、限定的に使っています。なぜなら、本来の「同一労働同一賃金」を実現しようすれば、それは「終身雇用・年功序列」的な日本企業の報酬体系の全否定となってしまうからです。

 従来年功序列型賃金だった会社を一気に同一労働同一賃金型に変更する、という思考シミュレーションをしてみましょう。大まかに以下3つの方法が考えられます。

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①同一労働をしている中で一番賃金の高い人の賃金水準に全部合わせる(報酬を上げる)
②(人件費総額や労働市場の相場を鑑みて)適切な報酬水準に全部合わせる(人により報酬は増減)
③上記と同様の方法で報酬水準を決め、その水準への変更に応じない人は解雇する
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 詳しく説明はしませんが、いずれの手段も(少なくとも現在の社会環境・法制度の下では)現実的ではないことは否めないでしょうし、これを可能にするための改革(「大幅な減給を認める」「解雇要件を緩和する」)は社会的に容認されないであろうという政府の判断に関しては理解できなくもありません。

 とはいえ、それが「あるべき本来の姿」かというと、そうは思えません。また、大きな変化に最も激しく抵抗・否定をするのは、今の状況で得をしており、変化によって個人的損をする「既得権者」です。

 以下の記事にも書いたように、企業が本質的に追求すべき人事制度は、「ローパフォーマーにとっては居心地が悪く、ハイパフォーマーにとっては成果が報われる制度」であるはずです。

hrstrategist.hatenablog.com

 まだ社歴の若いベンチャー、であれば、本来の意味での「同一労働同一賃金」を標榜することは容易ですし、現状がそうでなくても今から方向を修正することは十分可能です。

 一方で、社歴の長い企業などでは、従来の報酬体系をドラスティックに変えることは容易ではないと思います。しかし、そのような時にも、たとえ多少時間が掛かっても、本来の「同一労働同一賃金」的な思想に基づいて報酬体系制度を漸進的に改善していく努力はすべきであると私は考えます。

4.同一労働同一賃金ガイドラインとの比較

 両判決が「同一労働同一賃金ガイドライン案」の示した基準に概ね沿った内容であるという点は前述しましたが、より詳しく中身を見ると、必ずしも全て同じではありません。

 基本給について(諸々の理由を勘案して)差分を認めるのは同様です。手当に関してもほぼ同様なのですが、「ガイドライン」で例示されていない家族・住宅手当(差分を認めた)に関しては、裁判所は議論を回避したのでは、とも思えます。とはいえ、地裁で負けて住宅手当を廃止した日本郵政の事例(下記)もありますので、本来的には、これらの手当も、それを存続させる正当性を(高いレベルで)証明出来ない限りは、無くしてしまった方が本質的ではないでしょうか。

「企業が手当に充てている原資を基本給に回すほうが、社員にとってはありがたいのではないだろうか。」

www.itmedia.co.jp

 一方で、賞与の扱いについては考慮が必要です。本ガイドライン案では、

「会社の業績等への貢献に応じて支給しようとする場合、無期雇用フルタイム労働者と同一の貢献である有期雇用労働者又はパートタイム労働者には、貢献に応じた部分につき、同一の支給をしなければならない。」

としていますが、両判決ではそこまで踏み込んだ判断をせず、基本給等と同様に「差分を認める」扱いとしています。

 ガイドライン案では、企業の現状と比べて「踏み込んだ」感じがありましたが、運用上どこまでが「セーフ」で、どこからが「アウト」となるのかは不透明である、というのが私の感想です。どこまで「ガイドライン案」にある「同一の貢献」を厳密に判断するのか、これは通達なり、判例なりが出るのを待つしかなさそうです。

 最後に結論です。各企業において、自社の人事制度を見直す際の注意点として、現状の制度を存続するにせよ、改正するにせよ、その制度の合理性を論理的に説明する「ロジック」を持つ必要があるということです。自社の経営理念・戦略(組織・人事戦略もこれに含まれます)と整合した仕組みであるか、かつ、それが法的・判例的に許容されるものか、
という観点で現行の人事制度を検証し、適切なスピード感で随時仕組みを改正、改善していくことが経営陣、人事に求められます。

 成長企業、ベンチャーではこの一連のプロセスを社内リソースで内製することが難しいかもしれませんが、そのような場合には、ぜひ「組織人事ストラテジスト」(私のことです(笑)の活用をご検討ください!!

 では、Have a nice weekend!